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大地に生きるものたち_1

 少年の村には、一体のマオシがいた。


 そのマオシは、少年が生まれるよりずっと前から、村人たちと生きていた。


 畑を耕すのを手伝ってくれ、荷物を運ぶのに力を貸してくれ、子供たちとは毎日遊んでくれた。


「ねえ、どうしてこの村にはマオシと同じヒトはいないの?僕らはいっぱいいるのに、どうしてマオシは一人だけなの?」


 ある日少年は、世話役の男に尋ねた。


 大人の二倍はありそうな大きな身体を四つ足で支え、頭には立派な一対の角。細い尻尾をゆったりと揺らす姿は、他の村人とはまるで異なる。


 時折あげる間延びした鳴き声では、何を言っているかはわからない。


 それでも、姿は違えど、言葉が通じなくとも、共に村で生きるマオシは少年にとって村人と同じだった。同じように接してきた。



 ある日、数体のマオシを連れた商隊が村を訪れた。少年は初めて他のマオシを目にした。村人たちが商隊の者をもてなす傍ら、彼らのマオシと村のマオシは共にミズトドメの果汁を飲み、肩を並べてごはんを食べた。


 少年の目には、そのときマオシが笑っているように見えた。


 聞いたことのない鳴き声をあげ、尻尾を左右に振る様は楽しそうで、マオシ同士なら言葉が通じ会っているんだと、子供ながらに思った。


 商隊たちが去った後も、マオシは変わらなかった。これまでと同じように畑を耕すのを手伝ってくれ、荷物を運ぶのに力を貸してくれ、子供たちと毎日遊んでくれた。


 だが、あのときのような楽しそうな声をあげることはなかった。


 だから思った。マオシは、本当は寂しいんじゃないかって。


 少年の問いに、男は黙っていた。やがて口を開き、少年に答える。


「動物の──マオシの寿命は、我々よりも遥かに長い。昔、私の知っている人も誰もいないくらい昔に、あのマオシが生まれた。当時の村の者たちは“このマオシを最後にする”ことに決めたんだ」


「どうして?」


 当然のように湧き出た疑問に、男は笑った。わかっているけど、教えない。そんな笑い方だった。


「さあね。いつかわかるかもしれないし、わからないままかもしれない。ただ──」


 少年の頭に手を置き、その髪をくしゃりと撫でる。


「これからも、マオシと友達でいてやってくれ」


 男の答えには納得できなかったが、その言葉に少年は頬を紅潮させ「うん!」と大きく頷いた。


 ──その数日後、少年の石化は始まった。




○大地に生きるものたち


「マオシのこえね。」


 右足を引きずるようにして歩くカロンの隣をゆっくり歩いていたテアは、ふと視線をあげ呟いた。


「…うーん、僕にはぜんぜん聞こえない」


 耳を澄ましてみたが、カロンは苦笑して首を振った。


 もとからなのか、“送り”だからなのか、テアはとても耳が良い。普段からカロンには聞こえない“大地の歌”に耳を澄ませていたり、遠く離れた村の音を聞き取ったり。テアは村を避けるのに活用していたようだが、日が暮れた後も躊躇せずに砂の大地を移動するのも納得だ。


「もうすぐカロンにもきこえるわ。」


 前を見ながら言ったテアの言葉に「そう」とは頷き返したが、前方には高く隆起した砂山がそびえ立つ。…“もうすぐ”ではないかもしれない。



    ズボリ。


「うわっ…と…」


 思ったより深く足が沈みこみ、バランスを崩す。斜面の角度は下から見上げるよりはなだらかだが、身体をほとんど左足だけで持ち上げているカロンにはかなりきつい。


 隣をサキ…サキ…と軽い足音で登っていたテアは、無言でくるりと振り返るとその場に腰を下ろした。休憩しようというテアなりの気遣いだろう。カロンも足を引っこ抜いた勢いのまま尻餅をつくように座り込んだ。


 さらさらと砂が斜面を転がっていく。その様は流砂を思い起こさせた。流れ落ちる砂を見つめるカロンの耳に、間延びした鳴き声が微かに届く。


「…ああ、聞こえた」


 マオシの鳴き声と、流砂。懐かしさに自然とカロンの口許は綻んだ。


「この向こうくらいかな?」


 埋まっていた足の砂を払い落としながらテアに尋ねる。考えるように砂山を仰ぎ見てテアは応じた。


「そうね。やまをこえたらへいたんなじめんみたいだから、すがたもみえるかもしれないわ。」



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