村跡にて_4
テアがそわそわしているのが見て取れる。やはり料理をしてみたのは正解だったとほっとしながら、カロンは木製の器を鍋に突っ込んでよそう。ミズトドメの葉を頂戴して器の外側をぬぐい、水筒に移していたミズトドメの果汁とともにテアに差し出した。
むう…と黙り込んでいたテアは、しばらく料理とにらみ合っていたが、そろりと手を出して器を受け取った。カロンも自分の分を用意する。
久しぶりに手にする温かい食事にカロンの心も和む。香草のよく効いた汁をズッとすすった。器を手にしてもしばらく眺めているだけだったテアも、ちびっという音がして汁をすすった後、熱かったのか涙目になっていた。
「ごめん、熱かった?」
カロンは慌ててミズトドメの果汁を勧める。テア用の水筒に入った果汁を口に含み、じんわり冷やしながら首を振ったテアは、
「…おいしい」
ぽつりと呟いて、手にするぬくもりも味わうようにゆっくりと食べ始めた。
日は落ち、辺りは暗くなっていたが、火持ちのよいホタルビソウがぼんやりと手元を照らしてくれる。
テアは本当にゆっくり食べた。味わうように。噛み締めるように。ゆっくり、ゆっくり。口に含んで、染み込む風味を味わうようにじっとして、それからそっと噛み締める。何度も、何度も咀嚼して、こくっと小さく喉を鳴らして飲み込む。そうしてまた、少しだけ口に含むのだ。
そんなテアを視界の端に映しながら、カロンはぼんやりと炎を見つめていた。炎を見つめることは珍しい。テアだけでなく、カロン自身も必要最低限以外のものは節約するのが習慣だからだ。今のように夜に休むときには、互いにじっと何かを見つめていたり、耳を澄ましていたりする。テアは基本目を閉じて、何かの音を聞いているようだ。
カロンは普段、星空を見つめていることが多いが、今はぼんやりと火を灯し続けるホタルビソウがあり、幹の太いパピルスの大木がある。よいしょっと立ち上がると、木を痛めない程度に内皮をはぎ、外皮にミズトドメの果汁を染み込ませて包帯で巻くように木を覆った。こうしておくと、また無事に皮をはっていくのだ。
ホタルビソウの火種のそばの燃え炭をそっと集める。形の残ったものは少し乾燥させて絵を描くための炭に、灰は色をつける際の絵の具に使えるのだ。くしゃくしゃになったパピルスの樹皮にそれらを──絵の道具となるものを丁寧に包んでいくカロンの優しい表情を、テアはじっと見つめた。
「さいごにはもやしてしまうのに、あなたはなぜえをかくの」
燻る火がはぜたような小さな声だった。手を止めてコチラを向いたカロンから、テアは慌てたように目を伏せてすでに冷めきって冷たくなった汁をちびりとすすった。
「…正直なことを言うと、僕にだってわからない。どうして絵をかくのかなんて。時々思うよ。僕のやっていることには、何の意味もないんじゃないかって。でもね」
優しく揺らめくホタルビソウの火にも似た温かな声が答えた。
「前に、絵を描いて、それを燃やしたことで、救われることのない魂が救われた気がしたって話したよね。
絵をかくと、それが僕の中に宿るような気がするんだ。忘れない、みたいな。だから、燃やしてしまったとしてもずっと覚えている。描こうと思えばすぐに浮かんでくるんだ。
石になれない僕には、石になることも、石になる人の気持ちもわからない。それでも…一緒に行きたい。だからかもしれないね」
「…そう」
テアはそれ以上何も言わず、再びちびりと汁をすすった。やがてずずっと食べ終わった音がする。カロンも、何も言うことなくホタルビソウの灯りを見つめる。燻るように燃え続けていた炎は、ふわりと白い煙を上げて消えた。
カロンはその煙の行方を追って視線を上に向ける。
白煙を吸い込む空は、濃紺の背景に満天の星を浮かべていた。




