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村跡にて_3

「よし、せっかくだから、久しぶりにごはん、作るか」


 次の村までは何日もかかる。その日は村跡で夜を明かすことにした。


 しかし、持っていた食料を渡そうとしても、ミズトドメを渡そうとしても、テアは「必要ない」一点張りで受け取らない。彼女の言い分としては、食べなくても飲まなくてもそのときになれば“砂戻り”をするから大丈夫らしい。


 だが一緒に旅をする身となったカロンとしては、それはできれば避けてほしい。資源は消費しないに限るというテアの理屈もわからないでもないが、それは寂しいと思う。なんとかしてテアにごはんを食べてもらおうと考えた末、一人だと携帯食で済ましがちであまりしなかった料理をしようという結論に至った。


 カロンの大きな独り言に、ちらりと視線をよこしただけのテアだったが、カロンがカバンから取り出したものには目を見張った。


「“火付け石”…ひをもっていないとおもっていたら、そんなものをもっていたのね。」


 カロンがテアの持ち物を気にしていたのと同様に、テアもカロンの持ち物を見ていたらしい。


 料理や明かり取りとして重要な火だが、通常つけるのがひどく難しい。ユスノキの枝などを、煙が出るまで休みなく擦り合わせ、燃えやすいホタルビソウや細かく削った木くずで火をおこす。文字に起こすとそれだけのことであるが、その摩擦に耐えられる芯の硬い木が、砂の大地ではほとんど手に入らない。


 そのため、一度おこした火は絶やさないよう守っている村が多い。フキの村の奥の間は、大人の話し合いの場としての役割の他に、火の守をする場でもあった。


 だが、カロンが取り出した“火付け石”を用いると、日があるうち限定ではあるが、簡単に火をおこすことができる。


 石とは言うが、“火付け石”は普通の石と明らかに異なり、透明で反対側が見通せる。木くずやホタルビソウの綿にその石をかざすと太陽の光が集まり、しばらくすると火がおこる。砂嵐などで巻き上げられる古代の遺物のひとつだ。


「さすがだね、“火付け石”のことを知っているなんて。僕の村では昔から使われていたんだ。…触ったことはなかったけどね。

 じいさまたちが、村を去ることになる僕のために持たせてくれたんだ」


 手許の石を、カロンはじっと見つめた。以前ともに旅をした商隊の者たちは、石の使い方と、“火付け石”がいかに貴重なものかを教えてくれた。その商人たちは、砂嵐に巻き込まれ…助かったのはカロンだけだった。


 日が落ちてせっかくの“火付け石”が使えなくなる前に火をおこす。ホタルビソウにつけて種火とし、料理の準備をする。あまり凝ったものは手持ちの食料的にも作れない。


 カロンはミズトドメの実を殻刀(ナイフ)で輪切りにしながら、イロリノキで作った鍋に入れていく。刃を入れるたびに果汁が滴り落ちるので、溢さぬように受け止める。一本切り終える頃には、果汁の中に実がぷかぷかと浮いている状態になった。毎度ミズトドメが含む水分の豊富さには驚かされる。料理に使うには多すぎるので、半分は水筒に移しておく。


 ひたひたになったミズトドメの果汁と果肉に、干した豆と野菜を刻みながら入れる。種火だった火に枯れ葉や枝をくべて火を大きくし、同じくイロリノキ製の支えを使って鍋を火にかけた。ミズトドメの果汁を吸ってカラカラに乾いていた干した豆や野菜が水分を取り込むが、火にかけられたことでミズトドメの実がさらに水分を放出するので鍋が干上がることはない。


 ほどよく戻ったところで椒の実の粉末と月桂木の葉をちぎって入れ更に煮込むと、何ともいえない良い匂いが辺りに漂い始めた。カロンの手際の良さを感心したように眺めていたテアも、身を乗り出しして鍋の中を覗いている。


「さいごにいれたははなに?」


 見慣れない植物だったのか、テアが珍しくカロンに聞いた。少しだけ得意げにカロンは答えた。


「月桂木っていう植物なんだって。以前立ち寄った村でもらったんだ。ほら、乾燥していてもとてもいい匂いがするんだけど、料理に入れるとその匂いが他の具材にも移って、おいしそうになるでしょ」


 その地域以外では生えていないのか、料理に月桂木を使っているのをその村以外では見たことがない。その名の通り月に生えている植物で、月光とともに地上にやってきたのだとその村の者は言っていた。

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