砂の大地で生きること 2
「幼い頃に怪我をしてね。それが原因で石化が始まったんだ。何人もの“送り”が村に来て音楽を奏でてくれたけど、僕は“墓石”どころか、石にもなれなかった。石化が始まってから十年以上経った今でも。
それ以外は、さっき話した通りだよ。ミズトドメの実が枯れだして、僕以外のみんなも石化が始まって…」
やわらかな口調で話すカロンを、テアは複雑な表情で見つめる。ザァと吹いた風が砂を巻き上げ、彼方へと運んでいった。砂の行く先を見送りながらカロンは言葉を続ける。
「僕の石化は、止まっているわけじゃないんだ。ゆっくり、だけど、確実に進んでいる。…でも、僕が石になるよりも、村のみんなが石になる方が早かった。
石化が進んでいったみんなは、残り少なくなった食料やミズトドメをすべて僕に渡すと決めた。“石になるまで生きなさい”って。」
遠くを見つめながら話すカロンの表情は、ただただ静かで、その心は見透かせない。…石化は、多少の個人差はあれど止まることはない。“送り”に送られずとも、始まれば必ず一年以内に石となる。
「みんな、石になることを受け入れていた。“墓石”になれないことを受け入れていた。そうして生きていくことに、何の疑いも抱いていなかった。でも、僕は…」
初めて、カロンが顔を歪めた。歯を食い縛り、言葉を絞り出す。
「…分からなくなってしまった。石になることは当然だったはずなのに。送られずに“墓石”となることも、定めだと受け入れられたはずなのに。僕らはみな、石になるために、生きていくはずなのに…」
苦しげに息を吐き出したカロンを、テアは静かな目で見つめる。
石になる人を見送る者の気持ちは、テアにも分かる。自分もずっと、送ってきたから。
石化が始まっているのに石になれない者の気持ちは、テアにはわからない。同じ“石になれない”者どうしだとしても、テアは石化を経験すらしたことがないから。だが──。
「「どうして、生きなきゃいけないの」」
吐き出すように。零れるように。
小さな呟きが重なって、風の音色をかき消した。ひとかけらの音もしない静寂の中、テアとカロンは見つめ合う。驚きと確信、同じ感情を宿した瞳が互いを映す。大地の底が蠢いたように感じた。
「…はい、テア。君の分」
先に動いたのはカロンだった。出し損ねていた食料を取り出し、テアに差し出す。テアは躊躇し、しかしそれらを受け取った。
「…ぬののあまりはある。」
手の中にある食料をじっと見つめ、テアが呟くように尋ねる。意図を図りかね、答えられないカロンに彼女は続ける。
「にもつ、はんぶんもつわ」
「!…ありがとう」
カロンはカバンの中から予備の布を取り出し、彼女の分の食料やらミズトドメやらと一緒に手渡した。
渡された荷物の量の少なさに、テアがわずかに不満を覗かせた気がしたが、絵の道具は自分で持ちたいからというカロンにこくりと頷いた。
「わかったわ。ありがとう…カロン。」
呟き、手早く布で荷物を包んで肩から斜めに提げて、二人はどちらともなく歩き始める。
こうして、少年と少女の石と砂の世界の旅路は始まった。




