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砂の大地で生きること 1

「あのむらは、もうすぐ、おわるわ」


 砂を踏みしめ、呟くようにテアが言った。今度は、テアはカロンを引き離そうとしなかった。ゆっくり歩くカロンに合わせて、隣を行く。


「そうだね」


 目を閉じ、カロンは頷いた。テアが意外そうに自分を見たことに気付いたのだろう、静かな笑みを浮かべ付け加える。


「あの村は僕らが──旅人がいるべき場所ではないからね」


 フキは“送り”の存在を知っている。ナハテのことも、人が送られずに石になることが意味するものも。今の幸せを願う代償も。


 フキだけではない。ヌシャも、他の村人たちも。“送り”であるテアに、誰一人として「送ってくれ」とは言わなかった。奥の間にいた者のうち、石化が始まっている者は少なくなかった。…広間にいた子供たちにも。にも関わらず、彼らがテアたちに望んだこと。フキがカロンたちに送った言葉。それは、この砂の大地においてあまりにも異質だった。


    ──我々は諦めたわけではないよ。すべてを受け入れることにしたんだ。


 優しく笑ってそう言ったヌシャの顔が思い浮かぶ。


 すべてを受け入れることを選択した彼らには、彼らの生き方がある。それだけの覚悟をもって、彼らは生きている。


 空と大地の境界線を、それよりももっと遠くを見つめるように前を向いていたカロンは、ふっと息を吐き、隣を歩くテアに笑いかけた。


「足はもう大丈夫だけど、さすがにお腹減ったよ」


 声の調子を変えて、前の村で渡されていた食料をカバンから取り出し、テアに差し出す。


「テアも、一緒に食べよう」


「ひつようないわ」


 振り払うようにきっぱりと。彼女は言った。その瞳はまっすぐカロンに向けられている。


「たべなくても、へいき。」


「でももう三日以上食べてないでしょ?」


「へいきなの。」


 ザァッと、強い風が向かい合うテアとカロンの間を吹き抜ける。彼女の銀の髪がサラサラと音を立てて風になびいた。


「もうずっと、なにもたべてない。でもへいきなの。さっきのミズトドメも、くちにしたのはいついらいなのか、おぼえてないわ。」


 サラサラ。サラサラと。髪や衣服が音を立てる。風の中でも、彼女の声ははっきりと耳に届いた。


「あなたはさっき、わたしとフキがはなしていたのを、きいていたのでしょう。」


 畳み掛けるように淡々と、テアは言葉を口にする。カロンを見つめる感情の読めない瞳には、確かな強い意思が宿っている。


「わたしは、むらびとをひとりでおくったわ。でもそれは、あなたのむらのように、びょうきがはやったわけでも、みんなにじゅみょうがきたわけでもない。わたしがいしにしたの」


 吐き出すように。訴えるように。


「わたしは、すべてをいしにする。すでにいしになったひとも、まだせっかがはじまっていないひとも。」


 テアは話した。


「むらびとみんなをいしにして、すなへとかえして、わたしはむらをでたの。…いらいずっと、たびをしてるわ」


「…どれくらいになるの?」


 堰をきったように言葉を口にするテアに寄り添うように、カロンはそっと尋ねた。


「わからないわ」


 目を伏せ、静かに首を振ったテアの瞳には、諦めともとれる色が浮かんでいた。


「にひゃくをこえたあたりで、かぞえるのはやめたの。

 わたしは、すべてをいしにする。このちからは、きっとほかの“送り”とはちがう。」


 呟くようにそう言ったテアは、カロンの右手に目を向けた。


「…すくいをもとめるなら、わたしじゃないわ」


 カロンは小さく笑った。どこか、ほっとしたように。


「僕も、石になれるのかな」


 胸のつっかえを吐き出すようにこぼれた言葉に、その口調に、テアはえっ…と声を漏らした。


「君の推測通りだよ。ほら、触ってみて」


 差し出された右腕に、テアはおそるおそる触れた。かたい。肉の感触ではない。これは、まるで──


「僕、半分石なんだ」

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