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村の選択と『祝いの歌』 2

 この村は、生活に必要な最低限の物でさえ揃わない。少しでも砂嵐の被害による資源の消費を避けるため、地下に居住空間を移したが、ミズトドメも限られた畑でつくる作物も上手く育たず、村人全員に行き渡る食料は確保できない。栄養不足から石化する者も後を立たなかった。


 地下に居住区を移してからは、旅人が訪れることも稀になった。旅人が訪れても、村人全員が生きていくための資源さえ賄えないような村だ。彼らをもてなすことはできず、当然、商人たちと交渉できるものは何もない。


 近隣にあった村とも、関係は薄かった。村人分や、たまに訪れる旅人たちの分は確保できていても、無償で他の村を援助できるほど余裕のある村はなかった。


 せめて、“送り”がいれば、これらの問題は解消できた。“送り”は、言ってしまえばこの砂の大地で最大の交渉材料だ。“送り”を派遣するのと引き換えに資源を分けてもらえばいい。だが、高齢のヌシャでさえ、“送り”には会ったこともはなかった。


 それでも信じて待ち続けた。銀色の髪を持つ“送り”の話を語り継ぎながら。


 村では、年々生まれる子供の数も減っていた。採れる作物の量も少なく、村の人口はどんどん減少した。そして。


「もう十年ほど前になるんだろうか。方向を見誤った“送り”の一行が、村の近くで倒れていた。…その年は特に厳しくてね。村には石化が始まった者たちが幾人もいた。それでも我々は話し合い、飢えと渇きで今にも石になりそうな彼らに、ミズトドメと食料を分けたんだ。


 元気を取り戻したまだ若い“送り”は、お礼だと言って、持っていた笛を奏でてくれた。とても美しいその音色は、石化した者を“墓石”へと変えた。ただ石になるのを待つばかりだった彼らを、送ってくれたのだ。


 皆、とても喜んだ。語り継がれてきた話は本当だったのだと。回復した彼らは、我々に希望を残して去っていった」


 ヌシャはそこで、言葉を切り、しばし無言で糸を依り続けた。


「“送り”たちが去り、しばらくして。皆が感じたのは、絶望だったよ。


 “送り”は存在する。“墓石”となり、ナハテに行くための手段は、本当に存在していたのだ。それを知ってしまったが故に、皆が抱いた絶望もまた、大きかった。


 この村に、“送り”はいない。いつかを信じるには、あまりに時が長過ぎた。


 だから我々は、当時そのことを理解できる者皆で話し合い、決断した。もう“送り”のことを語り継ぐのを止めると。


 我々は石となる定めを受け入れる。ナハテに導かれることなく、砂の大地をさ迷い続けることを受け入れる。石になることを、“新しい旅立ち”として祝い、受け入れる。そう決めたのだ。


 これが、この村の事情だよ」


 ヌシャはテアたちに微笑みかけた。ただただ優しい笑みだった。ややあって、テアは静かに口を開く。


「そういうことなら、わたしがこのむらにいるわけにはいかないわ。このひとをたすけてくれてありがとう。わたしは、むらをでるわ。」


「僕も行くよ。…ここは、旅人がいていい村じゃない。それに、“送り”を一人にするわけにはいかないよ」


「ひつようないわ。ずっとひとりでたびしてきたもの。」


 すっくと立ちあがったテアに続こうとカロンも立ち上がる。よろめくカロンを、テアは一瞬気遣うような眼で見たが、ふいと顔ごと視線を逸らした。どちらの瞳にも、頑なに自分の意思を貫こうという強い光が宿っている。そんな二人をまぶしそうに見上げながら、ヌシャはゆっくりとした口調で言った。


「この村はね、諦めた訳ではないよ。全てを受け入れることにしたんだ。それは旅人である君たちに対しても変わらない。テア、君にも何か事情があるのだろう。しかし、まずは身体を休めて行きなさい。“送り”である前に、君は一人の女の子なのだから」


 テアは何も言い返さず黙り込んだ。穏やかなヌシャの声には、思わず甘えてしまいたくなるような、不思議な響きがあった。ヌシャはカロンにも優しい目を向ける。


「カロン、君もだ。そんな状態で旅はできないだろう。何もしてあげられないが、せめてゆっくり休んでいきなさい。フキ、二人のことを頼んだよ」


 はいとフキはかしこまって返事をした。何も言わないテアの分も含め、カロンは深く礼をした。

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