“送り”の少女 6
言葉に詰まったように、テアは黙りこんだ。彼女がどこか目的地があって進んでいるのではないことを、カロンは感じ取っていた。だからこそ次の村の位置がわかると言ったときは驚いたのだ。
食料やミズトドメを持たず。“砂布”さえ身につけず。“送り”であるテアがなぜそんな無謀なことをしているのかはわからない。踏み込めない。聞かれたくないのはお互い様だ。無意識に布でぐるぐる巻きにした右手に触れていた。
「僕は、僕がやるべきことを探しているんだ」
遠いところを見つめ、呟くように言ったカロンの横顔を、テアは何も言えずに見つめた。
音がした。
二人が話しているすぐ近くで、砂ぼこりが舞う。そちらに目を向けると、砂の中からカロンたちより少し年上の少女が現れる。朝日を眩しそうに見上げた彼女は、カロンとテアを見つけ、驚いたように目を丸くし──表情を強ばらせた。その表情で二人は、自分たちが歓迎されない存在であることを悟る。
カロンが何かを言うより早く、テアはすっくと立ち上がった。
「わたしは、たびの“送り”よ。すこしやすませてもらっていたの。よければ、このひとはもうしばらくいさせてあげてほしい。わたしはすぐにたちさるから。」
抑揚のない淡々とした声で、テアは早口にそう言って歩き出そうとする。
「え、ちょっと待って──ッ!」
とっさにテアを呼び止めようと慌てて立ち上がったカロンは、そのままガクンと崩れ落ちる。急に動かしたせいもあるのだろうが、まだ、左足が言うことを聞かない。
テアは僅かに目を見開いて、カロンのそばに戻った。心配そうに出された手が、触れてもいいのかと宙をさ迷う。呆気にとられてそんな二人を見ていた少女は、困ったように微笑み、彼女が今しがた現れた穴を手で示した。
「こちらへどうぞ。貧しい村ですが、身体を休めることはできると思います」
「いいんですか?」
村があるのか。そんな疑問と驚きを飲み込み、カロンは問うた。“送り”は別として、旅人を受け入れられない村は少なくない。先ほどの少女の反応はまさにそうだ。少女は呆れを含んだ笑みで答える。
「そんな状態のあなたたちを追い返してしまっては、“私自身”に怒られてしまいます」
少女の言葉に、カロンとテアは顔を見合わせることで互いに聞き覚えのない言い回しであることを確認した。だが少女は二人のそんな様子を気にする素振りはなく、テアの銀色の髪を硬い表情で見つめた。
「ただ…あなたは、“送り”の方…ですよね?」
言いにくそうに、彼女は続ける。その先の言葉は、テアも、カロンも予想できていた。テアと最初に出会った際にカロンが言ったように。「石になる者を送ってほしい」。それが“送り”の役割であり、当然の反応だ。しかし──
「“送り”のことは、この村の中で話さないで下さい。石になる人がいても…送らないで下さい」
「?!」
少女はテアをまっすぐ見つめると、意を決したようにそう言った。
「な、なぜですか?」
カロンは思わず声をあげた。カロンだけではない。言われたテア当人も、戸惑いを隠せないでいる。
少女は少しだけ痛みを秘めた、しかし決して曲がらない強さを感じさせる笑みを浮かべカロンたちを促した。
「長老会のもとへご案内します。そちらでご説明しましょう」




