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“送り”の少女 4

 テアがどこに向かっているかも分からないまま、カロンはひたすらに彼女の後を追い続けた。テアは歩くのが早かった。足を引きずるカロンでは、立ち止まろうとしない少女に追い付くことは出来ない。見失わないように追いかけるのがやっとだ。


 方角を確かめるために足を止めることさえ、彼女はしなかった。日が暮れたからといって、身を休められる場所で休もうともしない。満天の星空の下、砂の大地をひたすら歩き続ける。


 夜の大地は、“主”の世界。地中が蠢き、大地はその様を一晩で変える。また、太陽という指針が無い中、この砂の大地を移動するのは、あまりにも無謀だ。彼女は何を考えているのだろうか?カロンを引き離そうとわざとそうしているのか?


 だが、もう引き返すことはできない。テアを追いかけるカロンは次の村への指針を失い、自分が今どこにいるのか、どこに向かっているのかもまるで見当がつかない。先に見えるテアの背中が、唯一の道標だ。


 夜通し歩き続けた。カロンの息はひどく荒い。通常の者でもこの砂の大地を歩き続けることは、楽ではない。足が不自由なカロンにはなおのことだ。次第にテアとの距離が広がっていく。


 視界が霞む。遥か先に見えるテアの背中が、ひどく遠い。前に進もうにも、左足は自身の意思を無視して崩れ落ちる。カロンはそのまま砂の大地に倒れこんだ。先の村を発ってから三度目の太陽が昇ろうとしていた。




「…だい、じょうぶ…。」


 意識を手放しかけたカロンの耳にそんな言葉が届いた。目を開けると、ずっと先にいたはずのテアが傍にしゃがみ込んでいた。カロンが倒れたことに気付き、引き返してくれたのだろう。彼女の息はわずかに弾んでいた。


「ああ…うん。歩くの、早いね」


 カロンは弱々しい笑みを浮かべて答えたが、その声は掠れていた。テアに追いつくことに必死で、ミズトドメの果汁を飲むことさえ忘れていたのだ。喉はカラカラに乾いていた。


 テアはすっと手を持ち上げ、一点を指差した。見ると、少し行ったところに朽ちかけた林と石たちが見えた。テアを見失わないように彼女の背中だけを見つめ歩いていたカロンは、まったく気付かなかった。


「あそこまでいきましょう。」


 そう言うとテアはカロンに手を貸そうとする。カロンはそれを左手でやんわりと制した。


「大丈夫。自分で歩けるよ」


 身を起こし、ゆっくり左足に体重をかける。大丈夫。この距離なら歩ける。カロンはそろり、そろりと歩を進めた。その後ろを、下ろすタイミングを見失った手を胸の前にあげたまま心配そうなテアが続く。


 木の根元までたどり着くと、カロンは身を投げ出すようにして座り込んだ。不自然に痙攣する左足が、これ以上の移動を拒んでいる。しばらくは動けそうにない。そんなカロンの横に、一人分の間隔を空けてテアが座った。


 ここは、かつて村だったのだろう。絞り出さなければ果汁を得られそうにないほど貧弱な実をつけたミズトドメを見て、カロンは呼吸を整えながらぼんやりと考えた。


 整然と並べられた、砂に還るのを待つ石たち。少し離れたところに見えるのは“祭壇”だろうか。“祭壇”を形作る石は崩れ、もはや“門”としての役割を保てているのかは怪しかった。


 村であるために必要なものはそろっているのに、そこに人の生活の気配はなく、朽ち果てるのを待つだけのような静けさに満ちていた。


「これ。村の人たちから。送ってくれて、ありがとうって」


 その空気を壊すように、カロンは声を掠れさせたまま抱えていた布袋をごそごそと探る。中から預かっていたミズトドメやら食料やらをテアに差し出した。困ったように眉を下げるテアの方へそれらを押しやり、カロンは自分用にもらったミズトドメを取り出した。手が震えて上手くヘタがちぎれない。テアは黙ったまま、押し付けられたミズトドメを手に取りヘタをちぎりとると、カロンに差し出した。


「ありがとう」


 礼を言って受け取ったカロンはテアに再びミズトドメを渡し、彼女が口にするのを待つ。観念したようにテアがミズトドメのヘタをちぎって果汁を啜るのを見届けてから、ようやくカロンも実を啜った。


 二人同時に息をつく。カロンは一気に飲み干したい衝動をぐっと堪え、少しずつ果汁を啜った。テアも同じなのか、じっと手の中のミズトドメを見つめている。そんなテアをカロンは盗み見るように窺った。

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