森の中
お守りがあんまり熱かったので、慌てて服の中から取り出しました。取り出しながら、熱くてうっかり上げた可愛くない声を誰かに聞かれなくて良かったと思いました。しかしそれで一人なのがより一層実感され、また涙を零すのでした。
泣いているパンネは、近くの茂みが音を立てたのにも気付かず、泣き疲れ、膝を抱えて眠ってしまいました。
しばらく経って、寝ていたパンネは何かに起こされました。
涙で濡れたほっぺを何かにチロチロと舐められているようです。
何かを手で払おうとしましたが、その手をパクッと咥えられてしまいました。
――――?
目を擦りながら開くと、目の前に大きな緑色の何かがありました。
パンネほどもある大きなカエルです(多分)。
呆然と視線を動かすと、カエルの口から伸びているのが自分の腕だと気付きました。
パンネは叫びました。
大きな声に驚いたカエルの口からパンネの手が離れます。
パンネは叫びながら駆け出しました。
ビヨーン ビヨーン と後ろから音がしますが振り向きません。ナタさえあればと悔やみながらも全力で逃げました。
しかし実際には見ても見なくても一緒でした。
カエルはその場でジャンプするごとに高く跳び上がり、終いにはあの先の見えない大木の天辺までたどり着きました。
そして姿が見えなくなりました。
カエルは太い幹の中を通って下へ下へと降りて行きました。しばらくすると見えてきたのは、灯りに照らされたドアです。
「グエェ」
一声鳴いて、カエルは中へと入って行きました。
部屋の中は、一体どこからでしょう。柔らかな明かりが入り込んでいて壁一面の棚には沢山の瓶や壺が、床は木箱や籠が雑然と置かれているのが見えました。
一人の青年が木箱をガサゴソと漁っています。頭には三角巾。丈夫なエプロンをつけて、手には箒と塵取り、麻袋を持っています。
「グエェエ。おい、クェマ。ゴミが落ちてたぞー」
カエルが声を掛けると、クェマと呼ばれた青年が振り向きました。
「ああティコ。拾ってきてくれたのか。食べちゃってもいいのに」
「なんだ。食べても良かったのかー。味見したら逃げられたちゃったーグエェェ」
「また生き物を食べようとしたんだね! 死んでからにするんだよ。そしたら掃除の手間も省けるしね」
興味がなくなったのか、青年はまた木箱を漁り出しました。
「どこにいったかな。どこにいったかな」
「何を探してるんだ」
多分カエルなティコも木箱を覗き込みます。
「ハタキがないんだよ」
ティコはクェマの足元に落ちていたハタキを拾って渡しました。
「俺も掃除に付き合うぞー。グエエ、さっきの子、食えるようになってるかもー」
ゲゲゲと楽しげに笑います。
「瀕死だったの?――――さっきの子?」
「人間の女の子だったー」
青年は掃除用具を手にしたまま走り出しました。ティコが入って来たドアとはまた別のドアを開けると、そこはもう外でした。
「ティコもくるんだ! 案内頼む!」
「ゲェ! いいけど。そうだー。あの子おかしなモノ持ってたー。あれ、魔物寄ってくるかもー」
なんか気になったんだ、オレ魔物じゃないけどゲゲゲゲゲとご機嫌なティコに青年はどなります。
「そういうことは早く言うんだ!!」