英雄の物語
それは突然だった。足元から、アジトで見たことのある物体が伸びたのは。
「な!?」
「これは……」
これは、副団長が能力で封じていたあの勇者の能力だ。
……奴を副団長が出すとしたら、恐らくこの化け物の倒し方でも聞こうとしたのだろう。だが、協力してくれなかったんだろうな。こんな時にも協力してくれないとは、よほど厄介な奴らしい。そして、こっちにも厄介な人はいる。
「な、なんだ!?これは!?くそ!!」
あの勇者の能力。正直初見では避けるのがムズイ。というか、不可能に近い。だが、避けれないことは無い。この物質が伸縮するのにはわずかにタイムラグがある。戦いの中でそのタイムラグは大きい。だが、正直やばい。
針地獄のように地面から謎の物質が現れては、俺達を突き刺そうとする。
それを物の見事に避ける騎士団長。マジですごい。凄いのにもったいない。
「…………この物質はこちらではどうしようもありません。地面がダメなら、せめて空中だけでも自分たちのものにするべきです。早く魔物を倒しましょう!」
「分かってる!おい!騎士団長!!飛べ!!」
「無茶言ってんじゃねぇ!」
騎士団長は必至に勇者の攻撃を振り切りながら、魔物たちと戦う。だが、流石に厳しいのか、さっきまでより魔物に攻撃の隙を与えてしまっている。
「くっそ!!」
厄介だ。やはり勇者の能力はかなりチートだ。俺も勇者なのに、こういう巨大な奴には手も足も出せない。
魔力強化があるから、一度地面に着けば、しばらくの間は対空出来るほどに飛べるからいいが……。
と、魔物や謎の黒い物体たちに翻弄されていると、視界の端で魔物に突き飛ばされてしまった騎士団長。助けないわけにもいかず、急いで騎士団長のもとに向かう。
何度も、何度も、ドアの前に立って、その扉を開くかを迫られる。そして、いざ前に進もうとすれば、後ろから肩を掴まれて、後ろを振り向けないでいる。
魔物の一体が、伸縮する物質に足をとられた私の方へと攻撃をして、私はついにその攻撃をまともに喰らってしまった。
そして、痛みで動けなくなっているところに、黒い物体が無数にやってきた。
あぁ……、死ぬのか。俺……。本気でそう思った。疲れで動きも鈍くなってきて、魔術も使うなと言われているから使えない。
本当に後悔ばかりの人生だ。頭の中が真っ白になった後、そんな言葉が、頭蓋の裏で鳴り響いた。
「……き、緊張しますね」
「大丈夫だ。訓練ではいい成績だったんだから、誇りを持てよ」
隣にいるのは、スキンヘッドのいかつい男だった。名前はクレン。訓練では優秀な成績を取っていた男で、その横顔には確かに頼りがいがあった。
「それにしても、団長怖いな……」
「そうですね……。何というか、目つきが鋭くて……」
「がっはは!ま、お前とは真反対だわな、テルニア」
「そ、そうですかね?」
僕たちが談笑をしていると、隊列の最前線から声がした。
「お前らああ!!きばれぇ!気張れよ?気張らないと、うんこは出ないからな!」
「「……」」
なんか、思ってた人と違うかも。いや、まぁ、変にお堅い人よりか全然いいんだけど……。
「うんこって……」
「なんか、人をまとめる奴って変とは聞いたけど、まさかここまでとはな……」
二人して引いていると、団長がぎろっとした目でこちらを睨みつける。怖い!
「お前らぁ!!ちょっと前でろ!!」
「ひぃぃ!」
「だ、大丈夫だって!開幕早々うんこかました人だぞ?」
「うんこかましたって?うんこはかましてねぇよ!良いから来い!」
その声は若干笑っているように聞こえたので、少しだけ緊張がほぐれた俺たちは、恐る恐る前に出た。すると、団のみんながこちらを品定めするような目で凝視する。
「よし。……お前らは、今回ここに配属された二人だよな?よろすぅ!!」
よ、よろすぅ?
「よ、よろしくお願いします!ゲザリカ団長!」
「よ、よろすぅっす!」
「あっはははは!お前ノリいいな!んでもって、お前はちゃんと気が張れてんな!よし!簡単な自己紹介だけ頼んだ!……団員の方に向かって」
団長のことを見ていたせいか、小さな声で注意されてしまった。
「あ……、えっと……、あ、く、クレン。先に……」
「緊張すんなって。まぁ、いいけどよ!……すぅ。俺はクレンっていいあす!第134期生だったものっす!よろーす!」
「……できれば、目標なんかも言って言ってくれ」
「あ…っす。えぇ、目標は、結婚することでっす!」
クレンが言い終わると、「おぉ~~」という声がチラホラ聞こえてきた。そして、俺の番になり、出来る限り大きな声で自己紹介を始めた。
「あ…、ど、どうも、えっと…、て、テルニアっていぃます……。クレン君と同じで、135期生で……、っと、も、目標は、英雄になることです!」
僕が言い終わると、「英雄か……」「マジか!」と、少々場がざわめいたが、少しすると「拍手!」と後ろから大きな声がした。僕はその声にびっくりして、体をビクンと跳ねさせてしまう。
「はははは!そんなに緊張すんなって!俺たちは、来るもの拒まず、去る者支援しまくるって感じだからよ!よろしくな!」
「は、はい!」「うーっす!」