星と勇者の物語。4.5
今日はしんどいのにもかかわらず、眠れなかった。というより、眠らなかった。今の状態でまた夢に入って、騎士団長と出会うのは、大変危険なことだと判断したからだ。勢い余ってぶん殴りそうだし、そうなれば、あの小太りの腹は、一気にへこむことになるだろう。どうも、最新のダイエット機器、悟です。
にしても、今日が夏休みで良かった。宿題は最後にやるのが俺の中で決まっている。だから、まぁ、端的に換言すれば、やることがないわけだ。
今頃、オカルト部では小林と滴が特に会話をするでもなく同じ部屋にいるのだろうか?そして、剣道部は皆頑張っているのだろうか?俺がいなくて泣いたりしてないだろうか……。あいつら、いっつも俺の事師匠師匠ってしたってくれてるしな……。
一方その頃剣道部では。
「今日は化け物がいないですね」「そうだな。毎回毎回、攻撃を入れる前にやられるから、あんまり楽しくないんだよな……」「強いんだけどね……。あと、優しくはあるんだけど……」「なんというか……」
「「悲しき巨人みたいな人だよなぁ……」」
うぅ……。ごめんよ!みんな!俺がいなくて悲しいよな!早く治して、そっち行くからな!!
そんな風に、持たなくてもいい罪悪感を抱きながら、異常な倦怠感にさいなまれていると、家、というか、今は店か。の、インターフォンが鳴った。誰だろうか?宅急便でも来たのだろうか?どうしよ。親父は店を回してるし……。
重くなった体を起こそうと奮起するも、やはり起きない俺の体。体が使えないってこんなにももどかしいのか……。いつもなら、これだけ奮起してベッドから体を飛ばした際には、壁に穴をあけていたところだったろうに……。そして、そのまま母さんのお仕置きでケーキが1か月間出されなくなるのだろう。
未だかつてない経験に、いろんな想像が膨らむ。これは果たして大丈夫なのだろうか?このままぽっくり死んでしまうなんてことは無いだろうか……。或いは、この日を境に変な能力に目覚めたり……、なんてことはないか……。モンタンしたい……。
光さす窓際で、目に見えない努力を必死に費やす。誰か俺を応援して!!今来た人でも誰でもいいから!
なんか、こんなことをしていると、男子で犯罪者予備軍総括などと蔑称されているおれだが、ひどく寂しさが胸を差すもので、カーテンの隙間からこぼれる光を、必死につかみ取ろうとしてしまう。こういう時は、存外、現実でも彼女が欲しくなってしまうのだな……。
いや!ダメだ!!俺はステラ一筋……。ステラ……。結局、曖昧にしてしまったな。多分、今度また夢の世界に行っても、結局曖昧なまま終わってしまうのだろうな……。
日の光は、いやが上でも、部屋の中に漂う塵芥を明らかにするのに、俺はいつまでたっても明らかにしない。探求心は、好奇心は、こんな日の光さえも塗りつぶしてしまうほどに、輝かしく、うっとうしく、胸の内を張り付いて、焼き付けてやまないのに……。
…………俺は、そんな心をそのまま行動に移す奴を知っている。そんな奴が、滅多に病気にかからない俺が病気にかかって、探求心を燃やさないわけがない。好奇心をただ胸の内にとどめておくだけにするはずがない。そうか……。来たのはあいつか……。
そんな勝手な推理が頭の中に浮かび上がって、いつの間にかガチャリと音を立てていたドアが開き切る前に、「滴か?」と口が開いていた。
「…………よくわかったわね。すいません。ありがとうございました」
「おう!」
滴の声の後にしたのは、元気な親父の声だった。
そして、僅かにどうともしない静止の時間が過ぎると、ゆっくりとドアが閉まっていき、それと同時に、トゥン、トゥン、と、鈍い足音がする。その足取りはずいぶんゆっくりで、いつも活発な滴からは想像できないものだった。
何故だか調子の悪い、苦しそうに顔を苦くするところを見られたくなくて、ドアの方とは反対の、壁に向かって寝ることにした。その時ようやく体が動き、少しだけ嬉しくなった。
「……まさか本当に寝たきりとはね」
「……どうしたんだ?」
「……なにその話し方!溶けたような口調じゃない!!」
けたけたと笑うように、滴は言った。こんな時でも、俺を馬鹿にするのには抜かりが無いらしい。
「どうしたもこうしたも、心配だから見に来ただけよ!」
「……しんぱい、か。めずらしいことばがでてきたな……」
「……そんなことないわよ」
「…………そうか?」
「えぇ……、そうよ。私は……。なんでもないけど、別に心配ぐらい私だってするわよ!」
若干言い淀んだ感じもするが、気にしない気にしない。
「てっきり、『あの都市伝説級の悟が、寝たきり!?興味深い!!』とかってりゆうできたのかと……」
「半分正解だけど……」
「せいかいかよ……」
俺がしょぼくれた言い方をしてしまったが為か、「はぁ……」と、少し呆れたようなため息が聞こえた。そんなに呆れないでくれ。俺も今はフェードアウト中なんだ……。
「……一応、ヲカリとか買ってきたけど、何かしてほしい事とかある?」
「…………してほしいこと?」
んー…………。あんまり思いつかないけど、なんかあるかな……。
「……しいて言うなら、いやしがほしい」
「難しい注文ね」
そうだよな……。俺も思いつかないもん。当の本人が何を求めてるのか分からないんだから、滴が匙を投げるのは仕方のないことだ。と、そう思っていると、耳の少し上あたりに、温かく、柔らかい何かが乗るのを感じた。
「!?」
急なことだったので、肩をぴくと跳ねさせてしまった。
「しょうがないでしょ。癒しなんて言われたら、頭をなでるぐらいしか思いつかないし……」
「…………ありがと」
「……べ、別に、大したことはしてないわよ……。でも、そうね、これからも何か辛いことがあったら、頭ぐらい撫でてあげるから」
今までにないほどに優しい声が、動くことをあきらめたようにビクともしない体に、ふんわりと熱を灯したのを感じた。すごく居心地がいい……。
「…………滴も、なんか辛いことがあったら、言ってくれ。なんでもする」
「……なんでもか。じゃ、辛くなった時はケーキでも作ってもらうわ」
「それはいいな……」
気が付くと眠りについていた。その時は夢を見ることは無く。そしてどうやら、小林と美代も来てくれたみたいで、小林は少しばかりのクッキーを、美代は何故だか分からないが四字熟語ドリルを置いていった。一体どういう気持ちでおいていったのだろうか……。まぁ、暇つぶしの道具かな?
滴はなんやかんやいい子です。