まさかの伐採
なんやかんや意味の分からない討論がちょろちょろ見え隠れしながらも、結果、出た結論は「伐採」だった。絶対時間かかるやん……。まぁ、虫が来たら追い払えばいいだけだから、そんなに難しいものでもないからいいけど……。
「……はぁ。そう言えば副団長」
あれだけ怒鳴り合って出た結論が草むしりという何とも残念な方法だったことに落胆しつつ、副団長の能力でしまわれているアギトのメンバーについて聞くことにした。
「なんですか?」と、少し首を傾げて問うてくる。
「アギトのメンバーはどうする?一応報告しといたほうが良い気がするんだが……」
「ああ……。いえ、騎士団が去った後にこっちで解決したいので、一旦は閉じ込めたままにしておきます」
「そうか」
確かにあの人たちの前でさらに新たな問題を提示するとめんどくさそうだ。
そして、特にやることが無くなった俺たちは、しばらく何をするでもなく窓の外を眺めていたのだが、街の方へと向けていた視線を遠くの方に移すと、一瞬、ほんの一瞬だけ、黒くうねうねとうごめく何かが見えたような気がした。これはクネクネというやつかな?いや、だとしたら白いしなぁ……。
なんてのんきに考えていると、「全員、集まれ!」という声がかかった。騎士団の団長の声だ。ほんと、あの穏やかな顔から出ているとは思えない野太い声なんだよな……。
そして、声の元である屋敷の庭に行くと、騎士団は見事なまでにきっちりとした列を作り、逆に、警備団は胡坐をかいていたり、鼻くそをほじっていたりしている人たちがいた。ちょうどいいのいねぇのかよ。
「早速作業に取り掛かる!虫には気を付けろ!ハサミで花を切れ!落ちたときに花粉が飛ぶ危険性があるから、そこだけは注意だ!」
「「っは!!!!」」
「「「つー」」」
なにこれ。別次元にいるの?
とはいえ、文句を言うとまためんどくさくなりそうだからな……。
俺がこの異質な空間を呆れ半分の目で見ていると、後ろから突然手を握られ、反射で振り払ってしまった。
「あ、すいません!悟さん!私と一緒に行動しましょう!」
「え?お、おう……。じゃあ、ステラも……」
「ステラさんは秘薬の製造に注力しているみたいです。なにせ、今回の伐採作業でまた新たな犠牲者が出ないためにって」
「……そうか」
困ったなぁ……。気まずいなぁ……。なんて思いながら、頬のあたりを優しく掻きなでていると、ツンツンと俺の脇腹をつついてくる。
「固いですね……」
「何やってんだ?」
「えっへへ。いやぁ、改めて悟さんは規格外だなと……」
「そうなのか?俺はよくわからんが」
「いや、異常ですよ。私でも魔力強化して同等かどうか……。言っときますけど、普通は魔力強化した人に、普通の人が勝てるわけないんですからね!」
「……それはほら、勇者特典的なあれじゃないの?知らないけどさ」
言ってみると、あっははと、からかうような笑い声が返ってきた。
「勇者の特典は炎を纏わせる能力だけですよ!」
「……そうか。なんか……、地味だなそう思うとやっぱ」
「そうですか?」
「いやだって、副団長の話によれば星を作ったりとか、この前の奴も、正直チートじみた能力だったし……」
「まぁ、悟さんは人力チートですから」
人力チートってなんだよ。初めて聞いたわ。でも、悪い気はしないな。ふへへへ。キモ。
「それではこれより、作戦行動を開始する!騎士団は西側を!警備団は……」
「「「おっす!」」」
「あ、ちょっと待て、私がかっこよく決めるとこだぞ!」
そんな騎士団の団長の言葉を全く意に返さず、皆ばらばらに解散していった。といっても、二人一組になって、ちゃんと感染した時のことも考えているみたいだった。
「……こっちは皆に任せれば大丈夫そうだし、街の外を確認してくるか」
「そうですね!」
やけに元気だなおい。別にいいけど、可愛いし。なんか、こうして見てみるとちょっと妹とか娘って感じがしなくもない。うんそうだ!そう思う事にしよう!無理だ!やっぱ無理!だってあざといんだもん。事あるごとに上目遣いで来るんですよ?無邪気じゃないって分かってしまうから、娘って感じには見えん!
そんなことを、街の外を調査しながら思っていると、「悟さん」と、今度は真剣な表情の副団長。
「なんだ?急に……」
問うてみると、俺の前に立って、辺りを見渡してくるっと振り返り、また真剣なまなざしで俺の目を見てくる。ついつい先日のキスを想い出してしまって、ついつい目をそらしてしまう。
「やっぱりおかしいですよ」
「……何が?」
「あの屋敷ですよ!なんであそこだけ花が咲かないんでしょうか」
「…………まぁ、それは確かに気になるけども……」
唐突に真面目な話をぶっこまれて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべながら、同意の意思を示した。
「……こんなこと言いたくはないんですけど、やっぱりステラさん怪しいですよ!」
「…………そんなこと」
「花の件もそうですけど、悟さんについてもです。絶対なにか隠してるとしか思えません!」
「……………」
いつもなら、真面目に話す副団長に対して、そんなことないだろと冗談半分で跳ねのけてしまうところだったが、今回は違った。確かに不気味だった。
恐らく、その不気味さを助長しているのが庭だった。
何故ならあそこには彩色豊かな花が咲き、それこそいつもだったら蝶々なんかが好んで近づくようなところなのだ。そして、今回の件が花粉を付着させた虫の仕業だとするならば、必然的にあの庭、ひいては屋敷にはあの花が咲くのだ。
そのことが自分の中では疑念の種のようにもなっていたし、その他の行動なんかはそれこそ肥料の様のものだった。
だが、逆にステラがこんな風に疑われることを予測できないとは思えない。彼女は人並み以上には賢いし、判断力もないわけではない。いくら利益を出せるといっても、リスクが大きすぎる。それに、彼女の人柄的にも言えた事だ。
「でも、どうする?どうするべきだ?直接聞くわけにはいかないだろうし……」
「そこなんですよね……。難しい問題です……」
最近ねれねぇ!