死滅の森の怪奇
なんやかんや進みながらアギトのアジト……。アギトのアジト……。芳ばしい香りがするな。を、探していると、ふと『死滅の森』と呼ばれている理由について気になった。
「……死滅の森って、なんでそう呼ぶんだ?魔物が多いって理由だったら、魔物の森とかじゃダメだったのか?」
「あぁ……、なんか知らないんですけど、ここでは時々、魔物たちも一気に死んでしまう不思議な現象が起こるんです」
「魔物も?」
「そうなんですぅ」
気になる現象だな……。魔物が侵入者を殺すから死滅の森なのかと思ってた。
こんな物騒な名前とは打って変わって、森に咲く花々やら木の実は、どれもみずみずしく綺麗で、鬱蒼とした中に、確かに生命の美しさというようなものが見え隠れしていた。
「ちょっと木の上登ってみる」
「あ、はい!気を付けてください!」
「そっちも気を付けてな」
そう言ってそこらへんにあった木に登る。上から眺望したところ、なにやら景色が上下しているような気がした。特にこちらの世界は暑いわけでもないし、陽炎だとしても揺らめき方がおかしい。疲れているのだろうか……。
思えば、ここ数週間で色々あったしなぁ……。現実世界でもなんやかんで気を休められてないし……。この眺めは、そんな疲れ切った俺のことを、僅かながらに癒してくれた。
しばらく景色を眺め、深くため息を吐くとゆっくりと木から身を降ろした。
「……特になんにもなかった」
「そうですか……。そう言えば、大丈夫ですか?悟さん」
「何が?」
「いや、そろそろ眠たくなるのではと……」
そう言えば、そうだった。今回めっちゃ長いこといられてるけど、もうとっくに活動限界が来ていたはずだ。
意識してしまうと本当にそうなってしまうもので、急に睡魔がやってきた。
「あ……、ちょっと、もう……」
「大丈夫です。この辺にはもう魔物はいないらしいので、ゆっくり休んでください」
「ああ……。でも、危なかったら、緊急措置を使ってくれ」
緊急措置って言うのは、もしもの時のために、俺の意識と関係なしに俺の体を動かす措置だ。あまり使わないけど、今回は使えそうだ。
「……副団長、ステラを守ってく……れ」
「悟さあああん!」
なんだこの今生の別れみたいなの……。副団長も地味に乗ってくれたし……。
今日も今日とて、流美先生は未婚だ。
「今日はなんで呼び出されたんですか?なんですかついに彼女無しの高校生と結婚するつもりですか?控えめに言ってやばいですよ?」
「しねぇよ。高校生は大好物だが、お前とは絶対に結婚しない。今回はあれだ、私がオカルト部の顧問になってしまったことを、一応お前に報告しとこうと思ってね」
そういやあの部活顧問誰か分かんなかったな……。まさか俺の永遠の宿敵、流美先生とは……。
「なんだその、永遠の宿敵を見るような目は?言っておくが、私は君には負けないよ」
「先生が勝てるのは、未婚歴いや、彼氏いない歴だけですよ」
「ほう……、じゃあ君は私より早く誰かいい人を見つけるという事か?」
「あ、まぁ……、そう、っすかね」
きまり悪く、自信なさげに答えると、何か言いたげな表情を向けて、くるっと自分の席に目を向けた。机の上には、結婚情報誌やら、「今からできるオシャレテク!」などと、ピンク一色に固められたものが乱雑に置かれていた。
ホントに仕事してんのかこの人……。
「私も昔はそう思っていたんだ。だけど……、グス。見てみろ!この哀れな机上を!……ズズ」
はぁ!なんてことだ!この先生はあろうことか、自らの体たらくを俺に見せることによって、慢心することの危険を教えるとは!教師の鑑か!?
「へへ、ドンマイ(笑)」
「…………結婚する?てか、してみよ?禁断の恋、始めてみよ?」
「それを堂々と職員室で言いますかね?ていうか、さっき言ったこともう忘れたんですか?」
「だって、結婚したいんだもん!」
ついに言いやがった!これまではそれとなく誤魔化してきてたのに……!もうプライドもかなぐり捨てる気か!?
「でも実際、何がいけないのかさっぱりわからん。単純に聞きたいんだが、男の人ってどういう事で好きになるんだ?」
「……まぁ、優しくされたり」
「常日頃から心がけてる」
「……それとなく好意を伝えたり」
「常日頃からやってる」
「常日頃を辞めてみたり……」
「なんでだ!?矛盾しているぞ!?」
まぁ、確かにそうなんだけどさ……。
「あーや。ほら、なんか皆にそれやってると、『え?この人ホントに俺が好きなの?』とか、『はいはい、優しさのバーゲンセールね』とか、思われたりするんだと思いますよ?……因みに聞きたいんですけど、好意を伝えるって、どんな感じでやってるんですか?実践してみてください。それ見てアドバイスあげます」
「そりゃあ……」
先生は得意げにそう言うと、俺の腰に巻き付いてきて、「あなたが好きです結婚してください!」と叫んだ……。
「うっわぁ……。せんせ、それやばいっすよ」
「何がだ。これぐらいの方が情熱が伝わるだろ?」
「先生からは哀愁しか伝わってきませんでした」
「そんな!?」
小林とは全く違うベクトルで恋愛が下手。男性に話しかける勇気と根性はあるし、こんなことをする行動力もあるのに……、この人に訪れるのは、いつも惨憺たる結果のみなのだ。悲哀の教師……。嫌なあだ名だ。
流美先生……。いい人ではあるんだけどな……。いい人……。なんか、自分の中のトラウマが!