海色悟は、笑顔が好きだ
持ってきたケーキをテーブルにゆっくりと乗せる。
「どうだ?可愛いだろ。くまさんケーキ」
「……う、うん」
「…………」
そこで、「ちょー可愛い!」って、いつもの満面の笑みで言ってくれたら、こっちとしても嬉しいんだけどな……。
「……もっと喜んでほしかったんだけどな」
「……」
俺がわざとらしくいじけたように言うと、こっちをチラチラ確認して、「そーじゃなくて」と、ボソッと言った。俺が視線を小林に向けると、何故か申し訳なさそうにしているのが見て取れた。
「どうした?」
「……さっき考えたんだけどさ。……くまさん切っちゃうの可哀そうって思って」
「…………!」
なるほど。まぁ正直言うと、それは俺も毎回思う。試食とかさせられるとき、パンダのケーキとかも食ったが、確かに申し訳なかった。ま、結局美味しくて罪悪感消えちゃうんだけどね……。
「でも、溶かしてしまったり、腐らせるよりはいいだろ。それに、そう思ってくれるだけで、クマさんも嬉しいだろ。だから、お前は思う存分味わえばいい」
「……そっか」
安心したようなころッとした笑みを浮かべた。そして、耳のところとか、端に添えてあるチョコなんかから食べて、少しずつ食べていった。その時々に、「おいしい!」と、いつもの全力の笑顔を浮かべてくれる。
なんでかこっちも嬉しくなる。だから、小林の笑顔は好きだ。
でも、だからこそ、もったいないと思ってしまう。それを他の人にも見せることができたなら……、変な偏見も無かったろうに……。
「……なぁ、小林。お前はなんで彼氏が欲しいんだ?」
「……あー、それは単にやっぱ高校と言えば恋愛っしょ!って感じで……」
やっぱり、小林はその場所とか、状況とか、キャラとか……。そう言うので自分を縛ってしまう節があるみたいだな。もちろん、空気を読むって言うのは、凄くいいことなんだけど……。でも、これはやはりだめだ。
「……別に、無理して恋愛することねえだろ。自分が好きになった人がいるんなら、全力で投球すればいい。好きな人がいないうちにやると、だんだん悲しくなるから。目標は分かりやす方が良い」
「……まぁ、そうなんだけどさ。でも、好きな人ができてからじゃ遅かったりするじゃん?」
「まぁ確かにな。でも、恋愛が嫌になるよりいいと思うぞ?それにな、誰かのために、何かのためにって思ってる間は、強くなる可能性を秘めてるんだぜ?」
「…………そっか。ま、でも確かにそーかもね。じゃ、ま、とりあえずいい人探すことにする」
小林は軽く伸びをして、ケーキの前で手を合わせた。そして、「ごちそうさまでした」と、小さな声で呟く。
「それで、どうするこの後……。どっか行くか?」
「う~ん……。じゃ、服とか買いたいかも」
「おっけ」
よっこらせっと、重い腰を上げ、ふぅっとため息。
……横に視線をやると、思った以上に満足げに伸びをする小林。
「……さ!いこっか」
「うい……」
でも、なんかやっぱ忘れてるような……。
「まさか、こんなにも約束を破ってくるとはね!」
「……今回は、俺にも言い分がある」
どうやら、先日小林と会っていたことがばれたらしい。だが、今回はマジで言い分がある。というか。前回もあった。
「なに?試しに言ってみて?」
「今回はだな、小林が『滴先輩も来ます』って言われて、それで安心して行ったら、結局二人で行くことに……」
「ふ~ん……。ま、今回は信じるけど、次からはちゃんと確認するようにしなさい!」
うぅ……。お前はおかんか!と、言いたいところだが、言いかけたところで悪寒が走ったのでやめておいた。おかんだけに。ふへへ。
「何気持ち悪い顔してるの?」
「気持ち悪いって……」
いや、気持ち悪かったかもしれない。ふへへって思ったし……。なんなら俺の人生史上一番うまかったかもしれないまであるからな……。
「どーも」
と、滴にお説教を喰らっているときに、小林が姿を現した。
「由美?この前この人の過去について話したよね?ちゃんと私を誘ってもらえるかしら」
「……はぁ?それはおかしくない?別にあたしは周りからなんて思われてもいいし、気にしなくていいですから」
「そうなのかもしれないけど、一応……」
「ま、まぁ、次から気を付けようってことでいいじゃん。今回はなんにもなかったんだし」
俺が説得すると、惜しみ深そうに席に座った。
こんな風に神経質になっているのも、俺のためではあるが、あんまり過剰に反応しすぎると、滴にとっても良くない。何か解決策ないかね?