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異世恋は、夢の中で……  作者: おうないがー!
過去と体育祭と
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知らなくていいこと、確かめなくてはいけないこと

ペペロンチーノ!

 今日、悟は剣道部の大会に向けて練習中。美代も同じく。だから、この部室には、携帯をいじりながらも、こちらをチラチラと確認する由美だけ。そして、ネットで都市伝説を探し、暇をつぶす私だけ。


 あまりに沈黙が長かったからなのか、由美が携帯をしまい、「あー……」と、気まずそうに声をあげる。もはや断末魔にも聞こえてしまう。


「あ…のさ?昔?去年?まぁ、どっちでもいいんですけど、何があったんですか?」

「……何?急に……」

「いや……、なんか、悟っていっつもあたしたちと若干変な距離あるというか、なんか距離をうかがってるっていうか?な~んか変なんだよねって、思っただけで……」

「ああ。そういうこと?……まぁ、これから同じ部活で活動するし、教えてもいいけど、これで自分が嫌な気分になったり、自分には無理っぽいな~……。みたいなことを思ったのなら、すぐに悟と関係を切りなさい」

「え?」


 由美は目を見開き、不思議そうに私を見た。そして、僅かに逡巡を介した後、「聞かせて欲しい」と言った。


 まぁ、別にそんなやっばい話ではないんだけどね。


「―――去年の今頃」


 ―――去年の七月。

 夏休みも近くなっていき、高校に入ったばかりとは言えど、人々は夏休みに彼女、彼氏を得たいがために、恋に花を咲かせていた。それは、悟とて一緒だった。それどころか、電車の中でカバーを付けてはいたが、『絶対成功の恋愛術!』なんて本を熟読したりしていた。


 そう、そんな休みの日の電車内で、事件は起こってしまった。


「この人痴漢です!!」

「……え?俺?」


 そう叫んで女性が手を掴んだのは、悟の腕だった。周囲は一瞬にしてざわめき、よどんだ。


「それは違うわ!その人、気持ち悪いぐらい本に熱中してたし、しかも両手で本持ってたし、人違いよ!」


 偶然居合わせた滴は、気持ち悪いぐらい本に熱中する悟を不審に思い、見張っていたがために、逆に悟の無実を証明することができた。だが……。


「いや……、でも……」


 女性は周りを見渡す。後ろには、優しそうに女性を見つめるイケメンや、穏やかな顔をした人たちばかりだった。その中で、やはり悟は断トツで怪しかったのは事実だった。これで、明らかに怪しかったり、気持ちの悪い人がいたのなら、話は違っていたのだが、結局、この痴漢の事件はうやむやなままに収束していった。


 この不明確さが、最悪を生み出した。


 休みの日に電車に乗る学生など、決して珍しくない。滴や悟以外にも、その電車、その事件の現場に居合わせた同じ学校の生徒はいた。


 そして、その学生は、事実を面白おかしく歪曲した。そこからは、芋づる式に噂となってその話は広がっていった。もちろん、彼が無実であることはある程度知られていたが、人は、面白いものがあればそれが嘘であっても食いつく。その人の気持ちなんて慮ることなく、悟には様々な悪口や、冷遇を強いられた。


 当時仲が良かった美代は、最後まで悟の味方をしたが、結果的に美代まで孤立する事態に陥った。


 残酷だ。つくづくそう思う。その学校の奴らが最低だ、とかそういうわけでもない。たまたま悟が人相が悪く、犯罪者顔に見えただけで、その噂はより真実味を帯びていたのだから、どこでも起こりうるし、悟だけが特別なわけでもないのだろう。


 もちろん、時間と共にその噂の勢いは衰えていったし、今では表立って彼をいじめる物もいない。


 ただ、未だに彼と一緒に居る人間は白い目で見られるし、彼自身もそれは同じだ。


「―――てわけ」

「……なるほど、だからあの時あたしから離れようとしたのか……」


 由美の中で、何か一つ疑問が解けたらしい。


 とはいえ、その顔は決して明るいものではなかった。ためらいや、不安、苛立ちなんかが混ざった表情だった。


「彼が目立ちたくないのも、そういう苦い記憶があるからね。それで、あたしが彼に人間関係を限定しようとするのも彼が悩まなくて済むためよ」

「…………」

「それで、聞いてもいい?」

「……はい」


 由美は覚悟めいた表情をしていた。膝に乗せられていた手は、力が入り握りこぶしになっていた。切り捨てるのだろうか……。まぁでも、それもしょうがないと思う。別に悪い事じゃないんだから。


「あなたは、どうする?彼とはもう関わらないようにする?」

「別に、悟は何もしてないんですよね?」

「……え、えぇ」

「なら、関係ないじゃないですか!あたしは全然友達でいるつもり!」


 由美は、さもそれが当たり前のように、自信満々に言い切った。


「で、でも、孤立するかもしれないのよ?」

「残念だけど、あたしは元からヤンキーとか意味わかんない噂もち。確かに友達もいるけど、あたしは悟のこと結構気に入ってるから、全然大丈夫!」

「……そっか」


 私はなんだかうれしくなって、口角が自然と上がった。


「嬉しそうですね、滴先輩」

「……まぁ、私の大事な友達だから」

「ふーん……。ちなみになんですけど、美代さんは結局まだ悟の友達って感じですけど、実際あそこってどういう関係なんですか?」

「いや、普通に友達だと思うけど。まぁ、一年の頃、美代の練習に悟がよく付き合ってあげてたから、結構な付いちゃったのかもね」


 何がともあれ、悟もまだ見捨てられるだけの存在ではないのは、素直に嬉しい。

ちゃっちゃちゃたやた

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