結局、皆怖くて仕方ないのだ。
時間は夜十時。学校前。高鳴る鼓動!なぜか浮足立ってしまう!
夜の学校……。どうしてこうもワクワクしてしまうのだろう……。
だが、他二人はそんなに乗り気ではなさそうで……。
「……どうした、特に小林。ホラー好きじゃなかったのか?」
「だーら、言ったじゃん!怖いから好きなの!だから怖いの!普通にマジ怖いし!」
そう言いながら、滴の背後で震えている。が、当の滴本人も、少し顔を青ざめさせている。
「……じゃあ、行きましょう!」
「……大丈夫?無理そうだったら辞めとけば?」
「だ、大丈夫。一回こういうことしてみたかったし。それに気になるし……」
声を震わせながら小林は言う。
「……まぁ、それなら止めないけど、無理そうならちゃんと言えよ?」
「う、うん……」
そして俺たちは校門を通り、学校に侵入する。この背徳感たるや、修学旅行で夜遅くまで恋バナをしているみたい。……もっと良い例えがあったな。
二人ともおぼつかない足取りで、結果的に俺が一番前を歩く。スマホのライトに照らされた視界の先は、いつもより不気味で俺の歩調も若干崩れてしまう。
おいおい。夢の中ではあんなに勇敢に行動できたじゃん!「何だったら俺一人で行ってこようか?」って言えるぐらい勇敢だったじゃん!ふざけんな!
俺は初めて俺に文句を言った。結局、俺も現実ともなると怖いのだ。
さっきまであった妙な高揚感も、この不気味な雰囲気のせいで薄れ、心臓バクバク。歩調はがったがた。
そんな俺を見かねたのか、滴が俺の背中をちょんちょんとつつき、いつもとは違うしおらしい声で言った。
「だ、大丈夫?わ、私かわろっか?」
チクショウ!こんなしおらしい声で言われたら、変わってくれなんて言えねえじゃん!元から言うつもりないけど……。
てか、何を情けなく恐れてんだ!俺がしっかりしなくちゃダメだろ!冷静になれ~……。
「すぅ……はぁ」
俺は、後ろの二人にばれないくらい小さな深呼吸をして心を落ち着かせる。
少し平常心を取り戻した俺は、ゆっくりと、今度はしっかりとした足取りで進む。たまに後ろの二人の様子なんかを確認しながら、着実に音楽室に近付いていく。
「階段だから気を付けろ……」
「「うん」」
そんな風に俺が軽いナビゲートをしながら探索し、ようやっと音楽室に。
中では、綺麗に並べられた座席が、何故か無機質な恐怖を掻き立て、風で窓が揺れたときなんかは、どぎまぎしてしまう。そして、この恐怖からか、俺たち三人はろくすっぽベートーヴェンの方を見ることが出来ないでいるのだ。
「……誰が確認する?」
「……私は無理」
「あたしも……」
「奇遇だな」
なんて情けない会話なんだ。この場にいる全員がそう思った。
そして、僅かに静寂が流れた後、風が窓を揺らした。その音が、俺達を催促しているような気がして……。
「……一斉に見るぞ」
「「……」」
二人は黙ったまま顔を見合わせ、こくりと頷いた。
「……いっせーのーで!」
「「「はい!」」」
すると、視界に映ったのは、確かに赤く両目を光らせたベートーヴェンが!
「ぎぃやあああああ!」
「ひぃぃぃぃぃ!」
「うわあああ!」
一番最初に悲鳴を悲鳴をあげたのは、小林だった。そこから順当に滴、俺が叫んでしまう。俺はベートーヴェンにビビったというよりも、予想外に大きい小林の叫び越えに驚いてしまった。
二人は、混乱してしまったのかそれぞれ別々の方向へと走り出してしまった。
俺ははぐれたらまずいと思い、まず滴の方に全力で走って行き、腕を掴み、強引に抱きかかえる。多少じたばたしていたが、全く問題はない。次に小林のもとへ全力で走り、小林の前に立ちふさがる。
小林は驚いて腰が抜けてしまったらしい。その場でしりもちをつき、荒い呼吸を繰り返していた。
滴をゆっくりと降ろし、二人の顔を交互に見やった後、落ち着かせるために、なるべく優しい声で言った。
「……焦ると怪我につながる。落ち着け。大丈夫だ」
「ふぅ。ごめん。もう大丈夫」
滴の方は何とか持ち直したらしいが、小林の方が安堵とかもろもろが要因して涙がジワリと浮かぶ。
「……ずず、本当に光るとか……、ひっく……聞いてないし!」
そう言いながら、必死に涙を拭う。
悟はポケットからハンカチを取り出し、ゆっくりとかがむと、優しく涙を拭ってやるのだった。
「怖かったな。でももう大丈夫だ。帰ろう。調査も出来そうにないし、事実確認ができただけいいよな?」
悟は小林の涙を拭いながら、後ろで呆然と立ち尽くすしかできない滴に問いかけた。
「……あ、うん」
「ひっく……ごめん。悟。放って逃げて……」
「いや、全然いいから。とりあえず立てるか?」
「……ごめん。無理かも」
困ったな……。こうなったら誰かが抱えてあげないといけないのだろうけど……。
「行けるか?」と、目で訴えてみると、首を横に振る滴。その足は小刻みに震えていて、確かに人を抱えて歩けるような状態でもなさそうだった。
「……小林。俺の背中に……」
俺がそう言うと、小林は俺の方に手を回し、ギュッと捕まる。相当怖かったのだろう。その手の震えは相当なものだった。
小林の膝を抱え、おんぶをし、滴には肩の端の方を掴ませた。
「……ごめん。重いよね……」
「いや、軽い。てか、謝んな。とりあえず深呼吸しな。そしたらもうちっと落ち着くから」
実際軽い。小林は女子の方では身長が高い方だから、確かに他の女子よりは重いのかもしれないが、とはいってもやはり女子。俺よりは身長低いし、それに小林がしっかりつかまってくれてるのもあるのだろう、全く重いなんて感じることは無かった。
「滴は大丈夫か?」
先ほどから全くしゃべらず、スマホで前を照らす滴が少し心配になり聞いてみたが、「うん」と微妙な返事が返って来た。
オカルト部とは言っても、やはり怖いものは怖いのだ。