その関係は、深くても壊れやすいそうだ
家族。それは最も崇高な関係性であり、だからこそ他者の介入がしにくい分、客観性が欠落しているともいえる。だからこそ、体罰をしている家庭の子供は、体罰のある日常を普通だと思ってしまう。
俺は家に帰り、都市伝説検証チャンネルの動画をいくつか見てみたが、確かに過激なものが多い。
ただ、未だにこの人が勇雄君だという確たる証拠が見つかったわけではない。
しいて言うなら、あの叫び声と動画の声を聴き比べるだけしかできない。
一番手っ取り早いのは本人に確認するのが一番だが、如何せん虐待ともなってくると簡単に触れていいものか迷う……。まぁ、虐待という確証もないのだが……。
なにか出来ることは無いか?
俺はベッドに横になりながら、自問を繰り返した。
仮に俺がこの状況に陥ればどうだろう……。何をしてほしいんだろうか。周りに何を求める?
迅速に対応していくことが最善か?いや、何か彼らにしかない事情があるかもしれない。それが分かるまでは下手に触れるべきではないだろう。
ならば、このまま様子見をするのが正解か?否。それは絶対にダメだ。きっと勇雄君は、今回の件も適当に理由を付けて皆を心配させないように振舞うだろう……。だからこそ、あの場でストレスにやられたのだ。
知ることだ。何よりもすべきことは、知るために彼に少しずつ心を開いてもらうしかない。
考えていくうちに、俺は夢の世界へと落ちて行った。
「おはようございます」
「ああ……。君か」
「大丈夫ですか?体調がすぐれない様ですが……」
「大丈夫。心配してくれてありがとう」
やはり、こっちの世界は癒される……。
「今日、デート行こう」
「はい!」
「どこ行こうか……。そうだ!この前最近できたステーキの店にでも行こうか」
「はい!一緒に食事するの楽しみです!」
そして、人のごった返す西洋風の街道を歩き、あれやこれやと指を差しながら談笑を楽しんだりした。
店に着き、カランカラン!と軽快な音が俺達を迎合する。店の中の世界は、また何かむさくるしい感じで、癒しとも違う気楽さがあった。陽気な音楽に包まれ、芳ばしい肉の香りに心が躍り、そこはまるで舞踏会に来たかのような活気にあふれていた。
案内された席に座り、メニューを開く。向かいの席があるというのに、隣同士で座るのは、この世界でしかできないことだ。
「結構種類があるのですね!」
嬉しそうにそういう彼女は、本当に美しくきれいだ。おっとりと眺めてしまう。
「ステーキ屋に来るの初めて?」
「はい!普段は屋敷で出されるので……」
「そうか。今日は新しいステーキを楽しんでみるのもいいな」
少女は幾分かメニュー選びに苦戦していたが、何とか選び出し、注文を済ませた。
俺が彼女の横顔を見つめていると、ふと目に入ってきたのが、幸せそうな家族だった。
「わぁー!やわらかーい!」「ほんと、ほっぺが落ちそうねぇ」「そうかそうか!今日は特別だからな!いっぱい食べるんだぞ?」
微笑ましい……。俺の口角が自然と上がり、慎ましくも微笑みを浮かべてしまう。
あんまりに見つめすぎたせいか、少女が俺に話しかけた。
「微笑ましいですね……」
「そうだな。やっぱり、家族っていいよな。一番固い絆で結ばれているというか……」
「…………」
そう言うと、少女は少し濁ったような表情を浮かべて、幸せそうな家族を一瞥した。
「固い、というわけではないと思いますよ」
「……え?」
「家族の絆は、固いのではなく深いんです」
「…………」
まぁ、どっちでもあんまり変わらないような気がするが……。
「何が違うんですか?」
「う~ん……。家族の絆っていうのは他人からは触れにくいんですよ。影響を与えるのも難しいです」
「…………」
「でも、内側が崩壊するとその牙城は一気に様相を変えてしまいます。だから、固くはないんですよ。深いだけで」
背筋がぞっとしてしまった。でも確かに言いえて妙なのかもしれないと、心のどこかで同意してしまったのだ。
家族程厄介な関係性もないのかもしれない。素敵なものでもあるのだけどね。