四星(1)
ジスドネアの目の前には、三人の魔族が跪きつつも真剣に話を聞いている。
彼らの目の前には憧れの四星の席が見えているのだが、その席に座れるのは二人。
残りの一人は脱落する事になるのだ。
「【鋭利な盾】とか言う奴らの情報は持っているな?」
黙って頷く三人。
この魔王領にかなりの頻度で攻め込んで来ている者の情報を得ていない様では、四星には相応しくないと思って軽く問いかけたジスドネアだが、最終選考に残る程の実力者だけあって、全員が情報を持っているようだ。
この【鋭利な盾】と言うギルドは【勇者の館】と同じく人族のSランクギルドであり、所属国家はアルゾナ王国となっている。
このアルゾナ王国は【勇者の館】を抱えるジャロリア国王の同盟国家であり、少し前には【癒しの雫】が訪問していた国家でもある。
その国家に認定されたSランクギルド。
その中で主だってゴクドが魔王になってから積極的に攻勢をかけているのは、ギルドマスターであり、ルーカスと同じく個人でSランク認定されている老年のホスフォ、所属員のAランカーであるフィライトとエンの三人だ。
「やり方は貴様らに任せる。いつもの通りであればここ数日以内に奴らはやって来るだろう。準備に時間をかけるもよし、即出撃して対処するもよし。結果が全てである以上、手法は問わない。では行け!」
同じ立場の四星になるのだが明確に立場を分からせる必要があるので、今から少々高圧的に接しているジスドネア。
その言葉に反応して三人は夫々が勝手に行動し始めるのだが、誰一人として事前準備を行うそぶりは見せない。
そのような時間があるのであれば、一刻も早く【鋭利な盾】が来そうな場所に到着して迎撃する方が四星の席を得られる可能性が高いと思っているからであり、自分の力に対する自信の表れでもある。
これはある意味時間との勝負であり、準備を行っている最中に他の二人に【鋭利な盾】を撃破されては四星の席を失う事になる事だけは間違いないからだ。
ゴクドからの命令で、ジャロリア王国に魔獣を差し向ける事になったジスドネア。
自分の眷属をフレナブルがいるジャロリア王国への攻撃に向かわせるわけにはいかないので、適当に集めた魔獣に対して支援魔術で強化して嗾ける事にしている。
取り敢えず【勇者の館】を一度撃破できているスピナは必須とし、他のAランクの魔獣を適当に探しているレゼニア。
「あっ、見つけた」
その視線の先には、ピオンと呼ばれているサソリ型の魔獣。
どのように硬い場所でも地中に潜れ、主に毒を使って攻撃してくる魔獣だ。
もちろん新魔王ゴクドの制御下にあるので、その配下であるレゼニアに対して牙をむく訳もなく、すんなりと命令に従うピオン。
夫々二体の計四体に対して支援魔術で強化した上、自らの眷属に運ばせてジャロリア王国近くの森に到着するレゼニア。
「いいかい?君達は僕達が消えた後にあっちに見える人族を好きに襲って良いよ。僕の力で強化しているから、結構楽に蹂躙できるはずだよ。じゃあ、任せたよ!」
魔獣の本能も破壊であり、目の前のレゼニアから確かに強大な力を与えられた事もわかるので、レゼニアの指示通りに嬉々としてジャロリア王国に向かう。
新魔王ゴクドの手下による攻撃を受けている各国、特に余計な襲撃が多くなっているジャロリア王国では厳戒態勢になっており、未だ森の中にいて蠢いているスピナ二体は直ぐに発見された。
残念ながら、既に地中に沈んでいるピオンは発見出来てはいない。
「何!またスピナだと!直ぐにギルド本部に国家として依頼を出せ!」
当然国王の元に即報告が行き、ギルド本部に国王からの命令が到着する。
その報告を聞いているギルド本部の受付の一人であるツイマ。
緊急事態の対応であれば今まで通りに【勇者の館】への依頼となるべきところ、自らが担当している【勇者の館】への指名依頼ではない事に焦りを覚える。
本部へは対処依頼を即実行するだけの指示であり、今迄は無条件に【勇者の館】へ指名依頼となっていたのだが、今回は指名ギルドの明確な指示がないのだ。
国王としては無条件に【癒しの雫】に指名依頼を出したい所ではあるが、再び向かってきているのは以前【勇者の館】が始末して見せたスピナと言うのだから、得手不得手も有る可能性を考えて、敢えてギルドを指名しなかった。
その辺りは、現場を良く知るギルド本部に一任しようと考えたのだ。
そもそも【勇者の館】はスピナを始末しておらず全員仲良く気絶していたのだが、公には彼らが前回のスピナを始末した事になっているので、真実を知らない為にこの様な判断になってしまった。
ツイマとしては、ここで【勇者の館】が成果を出せば再びSランクに昇格して自らの地位もギルマスへ返り咲けると思っているが、依頼すら来ないのであれば復帰の目はないと感じているので、思わず口を出してしまう。
「であれば、前回見事にスピナを始末して見せた【勇者の館】へ依頼を出すべきです」
真実を知らないギルドマスターのラクロスとしては、ツイマの言っている事にも一理あると考えていた。
適切な助言を受け入れる事が出来る懐の大きな人物であったのだが、万が一にも対処できるように、二の手を打つ事も忘れない優秀な人物でもあった。




