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【癒しの雫】の方針(2)

 対戦相手として、少女であるシアよりも少しだけ年上に見えるペトロを名指しするブレム。


自分よりも弱そうな見た目で対戦相手を選択した事は明らかだが、【癒しの雫】の誰しもがブレムを憐れむような目で見ている。


 因みに男性冒険者であるアルフレドはギルドの移籍と言う形になっており、Aランクを維持している。


「兄ちゃんよ、俺の方が対戦相手に相応しいと思うが、どうだ?」


 あまりにもブレムが哀れで、シルバが対戦相手に名乗り出る。


 ペトロと同じくAランクギルド【癒しの雫】のBランカーであるが、時折ペトロにも鍛えて貰っている立場である為、自分が相手をする方がブレムにダメージが少ないと配慮してあげていた。


 そんな優しさが分かるはずもないブレム。


「はっ、こんな見た目でBランカーを名乗っている不正がバレるのが怖いのか?その手には乗らねーよ」


「……お前、バカだな。俺なんかより何倍もペトロの方が強いんだけどな」


 もうどうしようもないと匙を投げるシルバ。


「テメー、何抜け駆けしていやがる!!」


 そこに新たに乱入してくる冒険者。

 明らかに目の前のブレムと同じ匂いがする存在であり、それが数人いるのだ。


 対戦相手に名指しされたペトロは、相当力は抜くがボコボコにしてやろうと思っていたのだが、鬱陶しいのが増えてくると露骨に嫌そうな顔をする。


 その表情を見て何を勘違いしたのか、ブレムが更に増長すると言う収拾のつかない事態になってきた。


「貴方達、少し煩いですわね」


 今日はお忍びではないのか、こうなる事を予想したのかは分からないが、騎士を伴って明らかに貴族と言う装いで【癒しの雫】にやってきたリリア。


 普段のリアントに向ける情けない表情とは打って変わって、今この時は凛々しい表情をしている。


 その姿を見れば、明らかに反論してはいけない存在であると分かるブレム達は途端に黙る。


「少し事情を聞かせて頂いておりました。言い掛かり、ギルドの意向を無視した押し売り行為である事、疑いようはありませんが、ここで開放しては後々禍根を残すでしょう。ですから、ペトロ様には申し訳ありませんが、一度お相手をして頂けますでしょうか?」


「シアさん、良いですか?」


「もちろんです。やっちゃってください、ペトロさん!」


 ギルドマスターの許可も取れた事から、俄然やる気になるペトロ。


「では、今後こう言った事が無いように大々的に行う事が肝要かと思います。我が公爵家が手配する鍛錬場での公開模擬戦でいかがでしょうか?」


「はい。それでお願いします。対戦相手は、そこにいる全員一緒で問題ありません」


 ここまで侮辱されては、幾ら公爵令嬢の前とは言えブレム一行はブチ切れて一週間後に対戦が行われる事になった。


 【癒しの雫】に加入しようとした冒険者は多数いるのだが、その中でも自分の実力を超過大評価している一部の者達が、加入と言う名の押し入りをかけて【癒しの雫】所属の冒険者と模擬戦をすると言う事が広まっているジャロリア王国。


 【癒しの雫】に対して悪い感情を持つ【勇者の館】のルーカスなどは、さりげなく高価な武具を彼らに提供して、模擬戦の最中に大怪我を負わせる事が出来ればと企んでいたりする。


 他のギルド、例えばブレムが現在所属している【薄刃の神髄】から見れば、所属ギルドを纏める立場からすると背信行為以外の何物でもないため、既に除名処分となっていたりする。


 こんな騒動を起こしつつも、【癒しの雫】はギルド本部の依頼と町の依頼を受けつつ活動して一週間が過ぎる。


 公爵家の力を使い、国王すらも知る所となった【癒しの雫】の所属冒険者と加入希望者との模擬戦は、一大興行となっている。


 新魔王の脅威に対抗し続けていながらも、【勇者の館】が明確な成果を出せずに悶々としているこのジャロリア王国。


 そこに、突然降ってわいた次代の担い手と名高い【癒しの雫】の模擬戦。


 その実力を垣間見る事が出来るチャンスと共に、数少ない娯楽になると判断され、立派な観客席がある闘技場が準備されている。


 その闘技場の周囲には多数の出店が出るほどの盛況ぶりで、何の祭りなのかと勘違いする程だ。


 模擬戦としては一試合、【癒しの雫】のBランカーであるペトロ一人対、ブレムを始めとした有象無象八人と言う謎の形式の戦闘になるのだが、既に【癒しの雫】に絶大な信頼を寄せている国王、そしてこの模擬戦を主導しているリリアの父、サステナ・リビル公爵は大して時間はかからずに終了すると見ており、前座を十分に準備していた。


 そのおかげか、既に長い時間祭りのように盛り上がっている。


 警備が必要になる程の盛況ぶりが予想されていたので、国家からギルド本部に対して依頼が出ており、本当に辛うじてギルド受付と言う職を失わずに済んだツイマも何故か雑務の一環として警備に駆り出されていた。


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