【癒しの雫】の方針(1)
徐々に他のメンバーも仕事を終えて帰って来るのだが、そこに紛れるように一人の男がギルドに入ってきた。
「あんたがマスターのシアだな?」
さりげなく他のギルドメンバーがシアを守る位置に移動しつつ、その男の話を共に聞いている。
【癒しの雫】は既にジャロリア王国で有名になっており、そのギルドマスターであるシアもかなり認知されている。
特に幼いので、必要以上に目立つのだ。
「俺は【薄刃の神髄】って言うBランクギルドでCランカーのブレムってモンだ。ここんとこ【勇者の館】よりも有名になっている【癒しの雫】に加入してやっても良いかと思って来てやった。どうだ?一依頼金貨8枚(80万円)か、月給白金貨2枚(200万円)ってところで良いぜ?」
あまりにも自信満々の男の勢いに、クオウ、フレナブルでさえ呆気に取られていた。
突然乗り込んできた加入希望の冒険者。
クオウ達が不在時にギルドの警護に当たっていた騎士が言っていた、真面ではない冒険者の一人の様だ。
実は今の【癒しの雫】のメンバーは固定給であり、どれ程依頼を受けようが、逆に受けないようにしようが、白金貨2枚(200万円)で活動している。
今のメンバーは、固定給であったとしても自ら率先して活動する信頼できる仲間であり、その上クオウ、フレナブル、アルフレドが魔族である事、そしてペトロが魔族とのハーフであり、伝説とも言える暗殺ギルド【闇夜の月】のマスターであった言う秘密を共有し、決して口外しないと言える程の信頼関係がある。
そこに、何故か自信満々に現れた【薄刃の神髄】所属冒険者のブレム。
この【薄刃の神髄】は、ギルドマスターであるハシズミが【癒しの雫】の武具に惚れ込んで、本部に武具作成を依頼した経緯がある。
その頃から【薄刃の神髄】では【癒しの雫】の話が持ちきりになっており、ブレムは機会があれば移籍しようと企んでいた。
BランクギルドでCランカーであるにもかかわらず、図らずも今のギルドメンバーと同等の報酬を要求するのだから、流石のクオウも開いた口がふさがらなかった。
「おいおい、何を黙っているんだよ。この俺、Cランカーが加入してやるってんだから、さっさとどっちの報酬形態が良いか判断してくれよ、ギルドマスターさんよ!」
「……えっと、申し訳ありませんが、当方にはSランカーもおりまして、その方も他の方も同じ固定給の報酬形態にしております。ですが……」
「丁度良いじゃねーか。流石の俺もSランカー、フレナブルだったよな?そんな人と同じレベルの仕事ができるとは思わねーが、そう遠く無い未来に同じレベルに成れる自信はあるぜ?そんな原石を固定給で雇えるんだ。お前はラッキーだ!」
どこまでも無駄に前向きなブレム。
その腰には通常の剣が装備されており、剣術を持って討伐する冒険者である事は間違いなさそうだ。
「おい、兄さん。獲物はその剣であっているか?」
鑑定士のバーミルが剣を鑑定してその実力を判断したようで、その剣がブレムの物であるかを確認している。
「あぁ、これがSランカーになるべく生まれたこの俺の相棒だ」
「はぁ~、そうですか~」
バーミルの気の無い返事を聞いて、目の前の男ブレムの実力は自分達の想像通りであると全員が納得した。
一目見て【癒しの雫】に当てはめるならばDランクも怪しいと言った実力である事は分かっていたのだが、あまりにも自信満々な態度なので、自分が間違っているのかと思ってしまっていたのだ。
最強と言わしめた先代魔王クオウが、自ら下した判断すら不安にさせるほどの態度だけは称賛される所だろう。
「その、ブレムさん」
「おう、ブレムで良いぜ、マスター!」
その勢いに飲まれそうになるシアだが、ここで折れてしまっては次から次へとやって来る有象無象を無駄な費用をかけて雇う事になりかねないので、マスターとして威厳を見せる事にする。
不安ではあるが、自分を支えてくれる仲間がいる事が自信につながっているのだ。
「ブレムさん。残念ですが貴方を我ら【癒しの雫】に加入させるわけにはいきません。そもそもあなたのCランク、当ギルドで査定するならば、FよりのDランクになります。そんな方に、それほどの報酬をお支払いする義務を背負う訳には行きません」
「なっ、聞いていたのか?俺はSランカーになる男だぞ!」
まさか明確に断られるばかりか、自分のランクすら初心者レベルと判断されては納得がいかないブレムだが、シアはきっぱりと拒絶する。
「Sランクになってから言って下さい。これからなると言うだけならば誰にでも言えます。私にだって言えますから」
「納得いかね~」
これから、こんな勘違いしている人達を相手にしなくてはならないのかと思うとうんざりするシアだ。
「納得いかね~って言ってんだよ。それ程言うなら、俺の実力を見せてやろーじゃねーか。おい、テメーら冒険者だろうが?Sランカー、Aランカー、それに残りがBランカーだ?そんな高ランカーばかりの訳がねーだろうが。良し、お前!Bランカーだろ?俺と戦え!」




