癒しの雫の帰還
アルゾナ王国で相当羽を伸ばす事が出来た【癒しの雫】一行。
全員がジャロリア国王のギルドに戻る。
「警護、ありがとうございました。また明日から活動を始めるとお伝えください!」
シアは、ギルド周辺の警護に当たっていた騎士にこう告げつつも軽いお土産を渡している。
普通は任務でありお礼を受け取る事もない騎士達も、少女から笑顔と共に負担にならない程度のお土産を受け取る事に抵抗はないようで、全員が笑顔でシアからのお土産を受け取っていた。
「皆さん、私は町の人に戻った挨拶をしてきますので、よろしくお願いします!」
その後シアはギルドを後にする。
ギルドの評価にならない依頼になってしまうのだが、シアの両親の時代から直接依頼を出してくれている町の人を大切にしているのだ。
この町の人々は、シアがマスターとなって非常に困窮していた時も、特段依頼する必要のない依頼を出して少し色を付けた報酬を渡していた。
そんな人に挨拶をするためにシアが去ると共に、周囲の騎士達も撤収を始めている。
「クオウさん、シアマスターにお伝えすべきところを失念しておりました。皆様が不在の間、ギルド新規加入希望者が殺到しており、中には明らかに素行の良くない者達も含まれておりましたので、ご報告しておきます」
「そうですか。わかりました。ありがとうございます」
ギルドとしての評判の上昇に伴い、起こり得る事だろうと思っていたクオウにとってみれば驚く事ではない。
そこに、撤収を始めている騎士の方向から突如として現れたのはリリア。
「漸く帰っていらしたのですね。リアントさん、待っていましたよ!」
明らかにリアント狙いで、いつも通りに突撃してきたのだ。
その高い地位を隠すかのように、こちらもいつも通りに冒険者風の出で立ちで突撃してくるのだが、クオウ一行が到着と共に突撃してきたと言う事は、公爵の力を無駄に使って情報収集していたのだけは間違いない。
今までも露骨に親愛の態度で接してくるリリアに対してリアントもすっかり慣れて心を許したようで、邪魔にならない位置にさりげなく移動して二人で戯れている。
主であるアルフレドや同じくリアントを構い倒すカスミも、暫くリアントに会えていなかったリリアに配慮してギルドの掃除を始める事にしていた。
「では、俺も不在時の町の情報収集と、本部の依頼を確認してきます」
こうしてクオウもギルドを後にする。
【癒しの雫】を開けてはいないため、来客はないまま作業は進められる。
その様子を遠目から見ているのは、【勇者の館】所属の冒険者の一部だ。
ルーカスから聞いた話では、今回のスピナ討伐を行ってもSランク再昇格は行われないばかりか、不当に【癒しの雫】の評価が高い話だけを国王から聞かされたと聞いているのだ。
嘘ばかりの報告を受けた冒険者達が【癒しの雫】に対して鬱憤が溜まるのは当然で、自分達のギルド建屋が被害を受けている事もあり、同じ目に遭わせてやろうと企んでいる所だったりする。
彼らにしてみればアルフレドは裏切り、【鉱石の彩】も裏切り、そんなメンバーが集まっている【癒しの雫】を許すわけにはいかないのだ。
「丁度、冒険者じゃない二人が不在。多少きつめの攻撃をしても死にはしないだろう」
「一人、誰か知らねーのが中に入って行ったが、そいつも冒険者の様な格好だったからな、大丈夫だろ」
こうして遠距離からギルド本体の被害を与えるように炎魔術、風魔術を行使して即座に離脱する。
その攻撃、フレナブルやアルフレドは即座に感知したのだが……何もしなかった。
魔族の二人にとっては懐かしい気配をギルドの外に感じたからだ。
二人の思惑通り、【勇者の館】冒険者の魔術はギルドの建屋に着弾する前に霧散している。
「フレナブル様、やはり来てしまいましたね」
「仕方がないでしょうね。寂しがり屋ですから、今回は良く持った方だと思います」
軽く話をしながらギルドの表に出る二人の魔族。
その視界の先には、少し前にジャロリア国王の王都を襲おうとしていたスピナを軽く始末して見せた兎が、小さな尻尾をせわしなく動かしながら座っていた。
「もう少しでクオウ様も帰ってきますから、大人しく待っていてくださいね、ラトール」
ラトールと呼ばれている兎の魔獣は、以前シアの安全確保のためにクオウが召喚しようとした存在であり、その見かけとは裏腹に、実力は控えめに見積もっても現魔王であるゴクドよりも遥かに強い個体だ。
フレナブルと同じくクオウ一筋であり、長きにわたって会えない寂しさから、匂いと魔力を頼りに人族の町まで単独でやってきたのだ。
間もなく主に会えると喜ぶラトールに、フレナブルはいくつか注意する。
「良いですかラトール。クオウ様はこの【癒しの雫】のメンバーをとても大切にしております。もちろんあなたは気がついているでしょうが、中にいる魔獣リアントも含めてです。そこの所は忘れてはいけませんよ」
コクコク頷くラトール。
主が大切にしている存在は、自分も大切にするべきだと分かっている。
何も知らないラトールが突然暴れたり【癒しの雫】のメンバーに害を与えたりする事が無いように、事前にフレナブルが釘を刺したのだ。
逆にきちんと理解させればこれ以上ない程の戦力となるのだが、以前危惧した事を解決すべく、もう一つ注意するフレナブル。
「ラトール、あなたの力はクオウ様の指示なしに無暗に使ってはいけませんよ。今回の大した事のない魔術を消し飛ばす程度は良いとは思いますが、貴方の力が公になれば、クオウ様が大切にされている【癒しの雫】に余計な被害が出るかもしれませんからね」
全てにおいてクオウの為と言い含めれば、このラトールは非常に聞き分けが良い。
もちろん言ってくる相手が信頼できる人物である事は必須だが、ここまで言えば当面の問題はないだろうと思っているフレナブル。
ギルドに対して攻撃を仕掛けてきた冒険者はBランクであり、決して大した事のない魔術ではないのだが、その辺りは、残念ながらフレナブルもアルフレドも感覚が大きくズレている。
既に防壁の外であり得ない力を使ってスピナを二体始末しているのだが、その手柄は【勇者の館】が横取りしている為に、今のところはラトールの力に気がついている者はいない。
「じゃあ、お入りなさい。後で全員に紹介するので、大人しくしているのですよ」
フレナブルが扉を開けると、嬉しそうにピョンピョン跳ねてギルドの中に入っていく。
その姿だけを見れば、まさか魔王ゴクドすら捻り潰せるほどの力を持っている魔獣とは想像できない。
「これで益々【癒しの雫】は盤石ですね」
「そうですね、フレナブル様。これからは本腰を入れてマスターのサポートが出来そうです」
時折シアを守るためにペトロと共にその力を割いてきたアルフレドは、ラトールの出現でその必要は一切なくなるので、その分シアのサポート、特にギルドの評価にならない町の依頼を受ける事が出来ると考えており、すっかりシアの仲間としての考えが定着しているのだった。




