魔獣襲来の現実と【勇者の館】(4)
「面を上げよ」
ルーカスの前には、今迄とは違って怒り顔ではない国王の顔が見えた。
王都の危機的状況の対策に奔走していたホトム・ジャロリア国王としては、正直、大して期待していなかった【勇者の館】が脅威を排除した事に安堵し、【癒しの雫】に出していた緊急帰還依頼を撤回して落ち着いた所だった。
国王の表情を見た時点でルーカスは不条理な理由での降格は確実に無いと判断し、少々笑みが漏れてしまう。
「ルーカスよ、此度は王都の危機を良く救ってくれた。やはり個人でSランクは伊達ではないと言う事だな。ギルドもBランクになってはいるが、Aランクへの昇格を認める」
「…Sランクではないのでしょうか?」
普段であればこのような物言いは不敬罪で厳しく罰せられるが、今は国を救った英雄的立場になっている事から、少々強気で行く事にしたルーカス。
この場にいる【勇者の館】関連の者は自分だけであり、余計な事を言ったり表情を変化させたりする者がいないので、交渉もし易いと判断した。
「ギルドとしての成果で一ランク上げておる。AランクであればSランクであったのだが、BランクであればAランクになるのは妥当であろう?」
「しかし、今回王都の危機的状況を救ったのです。多少武具の損傷はありましたが、対応したメンバーにも大きな怪我もなく、盤石のギルドであると確信しています。であれば、Sランクが妥当ではないでしょうか?」
ここで引く訳には行かないルーカス。
今回と同様の結果を上げるのは今の自分達ではかなり難易度が高いと分かっているので、この機を逃すわけにはいかないのだ。
呆気なく気絶している内に、最大の脅威が始末されていた等と言う奇跡的な状況は二度とない事も理解している。
「では、既に依頼を出している魔獣対策、その中でSランク魔獣の始末が出来た時点で昇格を検討しよう」
国王としては、実力は再度確認する事が出来たのだが、今迄の実績からムラがありすぎる事、今までの【勇者の館】の横柄な態度を含めた素行による評判の悪さ、ギルドに未提出の書類が多い事を知っているので、簡単にはSランクに上げる事が出来なかったのだ。
どうあってもこの場では昇格はさせない判断の国王を見て、引けないルーカスは多少脅しめいた事を言う。
「であれば、我が【勇者の館】としては、他国でのSランクギルドを目指す事も視野に入れざるを得なくなりますが?」
「……」
国家としての最強戦力、最強ギルドを失う事は非常に痛手だ。
今はBランクからAランクになる予定だが、ある程度の実力がある事は理解している国王。
そのギルドが他国に流れてその国家でSランク認定されれば、国家としての損失は計り知れず、対魔獣戦力を易々と流出させたと批判される可能性が高い。
そこをルーカスは的確につき、国王ですら手玉に取れる事に愉悦感を覚えていたのだが、ジャロリア国王は迷う事無くルーカスを切り捨てた。
「構わんぞ」
「えっ?」
自ら仕掛けたくせに、反撃されて驚くルーカス。
「構わんと言ったのだ。まさか脅しめいた事までしてくるとは思わなかったぞ。どうやら貴様はAランク昇格では納得できないようだが、戦果にムラがある今の状態を改善しない限り、Sランクには昇格させられん。他国ではどうか知らんがな。希望通り、他国に移籍しても構わんぞ?」
「し、しかし、今回の様な魔獣が来た場合の対処は我らでしかできないでしょう?国民を見捨てるのですか?」
自分達の評価を過剰に上乗せしているルーカス。
「貴様の代わりがいるように、貴様のギルドの代わりも存在する。戦果にムラがなく、安定して貢献している【癒しの雫】だ。提出される資料も非の打ち所がないとリビル公爵を通してラクロスから聞いておる」
「あのようなポッと出のギルドを、長きにわたり国家に貢献してきた【勇者の館】よりも信頼するのですか?」
【癒しの雫】には、フレナブル、クオウ、そして自分達が追い出した元【鉱石の彩】がおり、そこが国王に自分達以上に評価されている事を許容できないルーカスだが……
「ハッキリ言えばそうだな。だが、今回の件については助かったのも事実。【癒しの雫】唯一の欠点は、所属人員が少ない所だろうな」
取り付く島が無く、この場でルーカスはAランク再昇格だけを受け入れてギルドに戻る。
メンバーにはBランク降格の事実を伝えていない為、今回は褒賞なしと言う事だけを告げる。
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