再び国王との謁見
「ルーカス様、陛下よりお声がかかっております」
未だ改修中の為、無事だった一部屋で執務を再開している【勇者の館】ギルドマスターのルーカスの所に、事務職のルーニーがやってきた。
「……あの魔族の襲来の件、報告を上げたのだろうな?」
どう考えてもこのタイミングで呼ばれるのは魔族襲来の一件だと分かっているので、その報告について事務職のルーニーに確認するルーカス。
「と、当然でございます」
慌てるように回答するルーニーだが、提出しているとの報告である為、その結果導き出される結論は、魔族二人を始末した事についての話し以外には有り得ない。
とすると、魔族を瞬殺して見せた事による褒賞……つまりは【勇者の館】Sランク再昇格の話になる可能性があるのだ。
と言いつつ期待に胸を膨らませて王城に向かった前回、手痛いしっぺ返しを食らっているので、過度な期待はしないように戒めつつ王城に向かう。
「面を上げよ」
再び謁見の間に到着しているルーカス。
そしてなぜか本部ギルドマスターから転落しているツイマ、現ギルドマスターのラクロスがいた。
「ルーカス。【勇者の館】に魔族が襲来したそうだな。ギルドは大ダメージを受けて再建中。そこだけ見れば気の毒に思わん事も無いが、まさかこの王都にまで魔王配下の者が容易に侵入してくるとは、大問題だとは思わんか?」
「仰る通りでございます」
何を当たり前の事を……と考えつつも同意するルーカス。
「何を他人事のように言っておる!その方ら【勇者の館】に魔王の対応を国家として依頼しているであろうが!余も先代魔王討伐実績を鑑みて今迄信頼しておったが、魔王の手の者が王都に侵入してくるとあっては【勇者の館】だけに任せるわけには行かん」
Aランクに落ちたとはいえ、魔王関連の依頼を独占して受注している【勇者の館】は当然それなりの報酬を得ており、活動に対してもかなりのサポートを受けている。
「お、恐れながら申し上げます。私達が知り得る情報では、他国のSランクも新魔王の攻勢の対応に手いっぱい。どの国家も変わらないかと思いますが?」
「馬鹿モンが!他の国家では王都に魔王の手の者は侵入しておらん!そもそも貴様のギルド本丸を破壊される醜態を曝け出して、その言い草はなんだ!おいっ、ラクロス!」
ここで本部ギルドマスターであるラクロスが呼ばれる。
「はっ。こちらがこのツイマから受け取りました【勇者の館】魔族襲来に関する報告書です」
手にしているのは一枚の紙。
「これを受け取るツイマもどうかと思いますが、出す方も相当だと言わざるを得ません」
王都、そして王国最強ギルドを魔族に破壊された報告書を提示するラクロス。
あってはならない事態ではあるが、その情報を国家として共有する必要がある程の案件であり、緊急事態の報告書は詳細を記載する必要がある。
いつ何時、目的、被害状況、相手の種族、能力、年齢、攻撃方法、癖、見た目、性別……そして考えられる対策に至るまで詳細を記載する必要があるので、一枚の紙程度で収まる訳はない。
「貴様の所は、この非常事態に共有できる情報がこの程度なのか?結果的に他に被害はなかったから良い物の、これでは何の対策も立てる事は出来ない。今までは新魔王の脅威に対抗できそうなのが貴様しかいなかったから我慢したが、もうその必要もなくなった。だが貴様の戦力自体は魔族を瞬殺した事を鑑みSランクを維持してやる。だが、ギルドの体を成していない【勇者の館】はBランクに降格だ。ツイマ、貴様もこのままでは本部を首だ。覚悟して仕事に励め!」
ルーカスが反論する機会もなく、あっという間に謁見が終わる。
「俺達以外に、どこが魔王に対抗できるんだ!」
最早特別視される事の無いレベルにまで下がってしまった【勇者の館】。
ルーカス個人がSランクである事、そしてAランカーを多数抱えている事しか他のギルドと比較して優位性はないのだ。
自分達だけが、諸悪の根源であり人族の最大の敵である魔王に対して対抗する術を持っていると疑っていないルーカスは、愚王の自分達以外にも戦力がいると言う言葉は虚勢であると思っていたのだが……
「ルーカス様!その……噂で聞いたのですが、魔獣対処のギルドに【癒しの雫】が選定されたと聞こえてきましたが、事実なのでしょうか?」
丁度ギルドに戻った所で、受付の一人からこう告げられた。
国内に侵入されてしまった以上は即対応する必要があるので、国王としてはこの依頼の詳細をルーカスに告げる前に既に発行しており、【癒しの雫】が国に戻り次第正式に動かす事にしていた。
魔王の攻勢による魔獣対処は国家の最重要依頼の内の一つであり、冒険者達は情報収取に余念がないために既に噂となっており、一部の冒険者達は所属ギルドから【癒しの雫】へ移籍を今まで以上に真剣に検討している程だ。
現に一部の冒険者は【癒しの雫】のメンバーが不在であるにもかかわらずギルドに特攻し、警備をしている騎士につまみ出されている。
そこに、ギルド本部の受付に成り下がったツイマがルーカスの【勇者の館】に飛び込んで来る。
「ルーカス様、緊急事態です。二体の高ランク魔獣が防壁に向かってきていると報告を受けています。至急対処をお願い致します。緊急依頼ですので、後程書面はお持ち致します!」
その報告に対して、ルーカス率いる【勇者の館】は沸き立つ。
通常であれば、町が襲われる事に対しての懸念がある事、戦闘に駆り出される事から不安視する声が大きくなるはずだが、彼らは再びSランクギルドへの昇格を目指しており、その実績にもってこいの状況になった事を喜んでいた。
先ずは目障りな【癒しの雫】が不在である事。
ルーカスとしては、Bランクに降格してしまって間もないが、この危機的状況を【勇者の館】の力で脱する事が出来れば、当然最低でもAランクに昇格する可能性が極めて高い事によって興奮状態になっていた。
一方で【勇者の館】の冒険者達は、未だBランクギルドになってしまった事は聞いていないので、Sランク再昇格と言う意識を持っている。
「良いだろう。その依頼はこの【勇者の館】が受けた。だがツイマ、あの件、余計な事は言うなよ!」
「承知しております」
こうしてかなり気合の入った状態で、【勇者の館】の冒険者達は各自武具を手に持ち門の外に急ぎ移動する。
移動中、町には既に魔獣襲来の一報が流れ始めているようで、戦う力を持たない住民達が【勇者の館】に向ける期待の目は多い。
「フン。これが、本来俺達【勇者の館】が受けるべき視線、得るべき期待なのだ」
実はこのまま上手く魔獣を始末しても、確実な書類を提出する実力を持った人材がいない為、正確な評価がなされない事を、今を持って理解できないルーカスだ。
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