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再起動後の冒険者一号

来年も、よろしくお願いいたします。

 最後に残っていた駆け出し冒険者のマルガが脱退してから一月少々の間、幼いギルドマスターだけで運営していたギルド【癒しの雫】。


 多数あるギルドの中では、新人冒険者として登録する時点で試験が行われるギルドも少なくない為、何の試験もない【癒しの雫】に登録したマルガだったのだが、その男すらいなくなり、厳しい状況を理解しつつも、両親が遺したギルドを守りたい一心で必死にギルドを一人ボッチで運営していたシア。


 そこに事務職希望でありつつも、魔獣を狩ってくると平然と言ってのけたクオウが加入し、更には美人と言うのも憚られる程の神々しい存在のフレナブルも加入を熱望しているのだ。


 クオウと同じく事務職希望なのか冒険者登録なのかは別にして、一気に仲間が二人も増える事に嬉しさがこらえきれないシアは、感動から涙を流してしまった。


「えっと、ギルドマスター……どうしたのですか?」

「グスッ、クオウさん。ごめんなさい。なんだか嬉しくて……」


 暫しシアを何とか慰めるために右往左往するクオウとフレナブル。

 漸く落ち着きを取り戻したシアを含めて、三人で席について話を進める。


「見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません。それで、フレナブルさんはどの様な仕事をご希望でしょうか?」

「そうですね。端的に申し上げますと、私はクオウ様と共にお仕事ができればそれだけで満足ですので、特にこれと言った希望はございません」


 態度の通り、クオウ以外に全く興味がないと言い切るフレナブル。

 実はクオウがギルドマスターであるシアを少々気にしている様子である為に、フレナブルとしてもシアと言う存在は完全に認識している。


 クオウがシアを気にしているのは、何となくではあるが父親が子供を気遣っているような雰囲気である事を理解しているので、フレナブルとしても大きな心でシアを見る事が出来ている。


「じゃあフレナブル。このギルドには今冒険者がいないから、冒険者登録してもらえないかな?」

「お任せください!シア様、私冒険者登録を希望致します。ええ、今すぐに!」


 少し前の態度とは異なり、かなりの勢いで冒険者登録する事を希望しているフレナブル。

 

「えっと、ハイ。でもランクはどうしましょうか?」


 ギルドで独自に与えられるランクはBまでだ。

 それ以上になると本部での試験になるのだが、そこではギルドの信頼度が大きく影響する。


 ギルドの信頼とは、ギルドがこなした依頼、特にギルド本部管轄の討伐や採取依頼では、各ギルドが本部に素材を納品する。

 大きなギルドではしっかりと素材として加工できる状態で納品し、そうでなければ、魔獣をそのまま納品する。


 実績によりギルドの信頼度が変動するのだが、それ以外の依頼……そう、シアが特に受けていた町人の手伝い的な依頼は、ギルド本部へ何かを報告する義務もないし、受け付けてもいないので、何の評価にもならない。


 そんな信頼を得ていないギルドに登録されている冒険者が、仮にAランク昇格の試験を受けようとした場合、本来必要なBランク相当の実力があるかを確認されてしまうのはやむを得ないだろう。


 実績を偽り、魔獣を金銭で購入する事や、他人が狩った魔獣を持ち込む事すら可能なのだから……


 話が逸れたが、そんなギルドの信頼度としては既にゼロである【癒しの雫】。

 その為、Bランクとして登録しても何の問題もないので、どのランクが良いかをシアは聞いているのだ。


「マスター。こう言った事はキッチリと実力通りにしないと、最終的には上手く行かなくなりますよ。ですが、ここにいるフレナブルの実力は……Bランクでは収まりませんので、どのランクでも問題ないと思います。ギルドの規定上そこが最高ランクですからね。今回はBランクで我慢してくれるか?フレナブル」

「もちろんです。ウフフフ、これでクオウ様と共にシア様のギルドの一員になれるのですね。であれば、ランクは全く気になりません」


 シアとしては、現状を打破するために動き始める景気づけとしてBランクを与えても問題ないと思っていたのだが、そこはキッチリするべきとクオウより注意を受けてしまったのだ。


 しかしフレナブルの実力的にはBランクでも全く問題ないどころか、それ以上と自信満々に言い切るクオウを見て、迷わずBランク登録をする事にしたシア。


 その登録情報……冒険者は各ギルドがギルド本部から渡される魔道具によって登録されるのだが、その情報はギルド本部が一元管理している。

 つまり、初めて登録した冒険者がBランク認定された事は知られてしまうのだ。


 元から信頼が無くなってしまっている【癒しの雫】である為に、ギルド本部が態々緊急監査を行う事は無いのだが、数日以内にBランク相当の実力を証明する事が出来なければ、即魔道具の没収、つまりギルド認定を取り消す事が決定していた。


 ギルド本部でそのような動きになっている事等分からない【癒しの雫】。

 三人で楽しそうに作業を開始する。


「フレナブルが来てくれたおかげで、俺は事務処理に専念できるよ。先ずは、そうだね、余り強い魔獣を突然納品すると悪目立ちするから、適当な所を数体持ってきてくれる?」

「フフフ、お任せくださいクオウ様」

「フレナブルさん、気を付けて下さいね」

「大丈夫です。ご安心下さい、シア様」


 両親が亡くなってからは、討伐依頼を一切受ける事が出来なくなっていた【癒しの雫】の再始動に胸が躍りつつも、唯一の冒険者であるフレナブルの心配をするシア。


 フレナブルの本当の力を知ればそのような心配は無駄な事だと分かるものだが、こればかりは仕方がない。


 【癒しの雫】に来るときと同様、クオウと共に活動できることに心躍らせているので、踊るようにギルドを後にしたフレナブル。


「さっ、マスター。今回の獲物を本部に納品できれば、本部からの討伐依頼をボードに張り出す事が出来る様になりますよ。先ずは第一歩です」

「そうですね。楽しみです」


 ギルド本部からは討伐依頼が不可能と判断されている【癒しの雫】は、本部からの依頼を受け取る事が出来なかった為、各ギルド内部で処理可能な案件しかボードに張り出される事が無かった。


 薬草採取も、直接依頼者の薬師に持って行けばよいので各ギルド案件になるのだが、少なからず魔獣に襲われる心配がある為に塩漬けになっていたのだ。


 そんな寂しいボードに、ギルドの本懐とも言える討伐依頼書が張り出される事を想像して喜ぶシアと、そんな少女の姿を見て頬を緩めるクオウ。


 いつもの通りシアは町内の簡単な手伝いの依頼を受けに外出し、残ったクオウはギルドのボード整理や清掃、受付内部の整頓を開始した。


 整理整頓を行って小一時間程度だろうか、ギルドの扉が開く


「クオウ様!早速狩ってまいりました!適当に目についた数体を仕留めて来たのですが、どちらに出せば宜しいでしょうか?」

「そうだね……裏に来てくれるかい?」


 ある程度掃除しているので、ギルドの中の構図は理解しているクオウ。

 ギルドの裏庭にフレナブルを案内する。


 フレナブルが小一時間で帰ってきた事、そして手ぶらである事は気にしないクオウだが、通常の冒険者から見れば極めて異常な事ではある。


「ここに頼むよ!」


 こうして裏庭に、巨大な熊の様な魔獣が二体突然現れる。


 もちろんフレナブルによる魔術によって保管されていたのだが、その魔獣を見て事務員として長く勤めていたクオウは少々眉をひそめた。


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