いつもの日常
大体夕食は賑やかになる【癒しの雫】。
当日の依頼について、翌日の依頼について、が主な話題なのだが、今日のように依頼が大成功で終わって有りえない報酬を得た時には、豪華な食事が準備されて宴会が行われる流れになっている。
もう慣れたもので、宴会の終わりもギルドマスターであるシアが見計らって終了の宣下を出している。
「はい、じゃあ明日は通常営業なので今日はこの辺りにしましょう。翌日が休みの日に改めて昇格祝いを行います!」
シアの一言で、誰しもが自主的に片づけを始めて就寝の準備を整えて行き、各自が部屋に戻る。
その日の夜、ギルドの裏手、【癒しの雫】拡張のために購入済みの場所ではなく、元からあったギルドの裏手にシアはいた。
「お父さん、お母さん。私、頑張っているよ。今日は、国王陛下に謁見して、Aランクギルドになれたし、すっごい美人の冒険者フレナブルさんがSランクになっちゃったの。凄いでしょう?Sランクだよ?正直信じられなくて、今でも夢じゃないかと思う時があるけれど、これからも皆と頑張るから……安心して見ていてね!」
墓標も何もないただの裏手。
ここからはギルドの建屋が見えるだけの場所……そこから両親と過ごしていた思い出のギルドに向かって、今日の出来事を報告しているのだ。
これは、シアが一人でギルドを切り盛りしていた時から毎日続けている事で、誰にも相談できずに行き詰っていたシア唯一の心の拠り所だった。
ここで話しかける事で、今は亡き両親が応援してくれているような気持ちになれるのだ。
「フフ、今はクオウさんが入ってくれてから仲間が増えて、本当に楽しく過ごせているよ。もちろん、町の皆からの直接の依頼も疎かにはしないよ!でも、フフフ、ミハイルさん達の包丁は切れ味が良すぎて、時々性能を落とす様な依頼が来るの。本当に信じられない依頼だよね?」
そんなシアの姿を遠くから見ているのは、【癒しの雫】の全メンバー。
ギルドの裏手に新たに建築したメンバーの各自の部屋からシアがいるこの場所は丸見えなのだが、誰もがシアに気付かれないように部屋の明かりは消した状態でこっそりと覗いている。
シア以外は身体能力が高く、多少の明かりがあれば少々距離が離れていても表情まで確認できている。
一部魔道具に頼っているメンバーもいるのだが、そんな彼らの目には、シアの表情は本当の笑顔に見えているので心底安心して眠りにつくのだった。
そして翌日……いつもの通り突然公爵令嬢のリリアが【癒しの雫】に突撃し、リアントをかまい倒しつつこう言った。
最近は服装も冒険者風で来るほどの力の入れようだ。
「そう言えば皆様、陛下からの伝言ですが、今回のギルドの昇格、そしてフレナブル様の昇格に対して、高ランクになった以上はその顔を他国にも認識される必要があるとの事です。費用は国家が持ちますし、その間の依頼については免除、一定の評価が付与される事となりますから、友好国であるアルゾナ王国だけには一度向かってください。でも、リアントさんはその間私と生活して頂いて構いませんよ?」
さりげなくリアントとの生活希望を告げていたのだが、あっさりと拒否されたのは言うまでもない。
リリアとしては、リアントとの仲を深める絶好のチャンスだと思ってきたのだが、悩む素振りもなく拒否されて少々涙目になっていた。
「まぁ、何時でも会えるじゃないですか?」
「いいえ、アルゾナ王国に行っている間は会えないです!」
まるで駄々っ子で、本気で悲しそうな表情をしているのだが、こればかりは譲れないので、何とか納得してもらうために苦心するクオウだった。
「お疲れ様でした、クオウさん」
「いや~、参りましたよマスター。まさか……でも、この対応も事務職の力が試されたと言えなくもないですね!」
そんな会話がなされていたとかいないとか……




