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ルーカスの依頼(17)

 暗殺に関しては絶対に負けないと自負していたペトロだが、為す術なく拘束された挙句に自害の毒もいつの間にか無毒化されている状況に陥っている。


 つまりは……シアの言う通り、人族にここまで出来るはずがないのだ。


「まさか……」


 ペトロシアのその視線の先にはクオウがいる。


「想像通りですよ。それと俺だけじゃないですね。フレナブル、アルフレド!」


 呼ばれた二人は、一歩前に出る。


「私とアルフレドも魔族です。どうぞよろしくお願い致します」


 フレナブルは、既にペトロシアが【癒しの雫】に加入する前提で挨拶をしてきているのだが、頭が追い付かないペトロシアは黙り込む。


「突然の事で驚かれていると思います。ですが、私達【癒しの雫】は互いに信頼出来れば、裏切らなければ、全員が仲間です。種族ではなく信頼を重視しているギルドです。ペトロさん、ここで生まれ変わってみませんか?」


 そこにシアが優しく諭すように話す。


 どう見ても少女のシアが、ここまで強い意思で話して来るのだ。


 一癖も二癖もありそうな種族の異なるメンバーを見事に纏め上げている目の前の少女を見て、自分は何処で間違えたのかと思いつつも、その提案を断りたくないと言う思いが溢れ始めている。


「で、でも、私は皆を殺そうとした……」


 【癒しの雫】に入って必要とされたい、生まれ変わりたいと思うのだが、どうしても引っかかるのがこの件。


 命を奪いに来た者に対して、シアの言う信頼が得られるのかと言う問題だ。


「プッ、ハハハハ、なんだ、嬢ちゃん、あの程度の事を気にしているのか?俺にとっちゃ良い実戦練習になった程度なんだがな」


「そうだ。悪いが一応俺達にもプライドがあってな。三対一であの醜態。今後は……こっそりと鍛えて貰えるとありがたい」


「おい、ロレアル、言っている事が良く分からないぞ。だけど、クオウさん、マスターが認めているなら俺達は何も問題はない。歓迎する!」


 実際に刃を交えた三人にこう言われて、徐々に心が解れるペトロ。


 生活の為、そして自分の存在を守る為、望まない仕事を命懸けで行い、心を閉ざしていたのだが、その心が解れてきたのだ。


()が、入って……良いの?」


「大歓迎だよ!ペトロさん!!」


 被せ気味に元気に肯定するシアに抱きしめられ、動けなくなるペトロ。


「よしっ、それじゃあ俺達と同じBランカーかな?」


「そうね。これから宜しくね。私はカスミ。こっちは旦那のシルバ。今後共に行動する事も有るとは思うけど、誘惑だけはしちゃダメよ?」


 徐々に何時もの【癒しの雫】らしく、騒がしくなり始める。


「じゃあ、改めて歓迎会でもしましょうか」


「流石クオウの旦那だぜ。もちろん酒……あるよな?」


 こうして食堂に戻り、未だ少々オロオロしているペトロに食事を勧めながら楽しい一時は過ぎる。


 未だかつて、ここまで大勢で楽しく美味し食事を食べた事が無いペトロ(・・・)は、全てに感動していた。


「ペトロさん、はい。これが【癒しの雫】のギルドカード。実力は申し分ないので、ギルドで選定できる最高のBランクです。この建屋の裏に部屋が余っているので、好きな部屋を使ってください。全員この敷地内に住んでいるので、ペトロさんにもそうして貰えると嬉しいな」


 困惑し続けているペトロに、クオウが話を進める。


 シアの言った今後の話もあるのだが、ケジメをつけなければならない事があるからだ。


「ペトロさん。改めまして、事・務・職のクオウです」


 事務職を殊の外強調しつつ、ギルドカードを見せるクオウ。


 そこには事務職と大々的に印字されている。


 まさかこの強さの男が事務職であるとは思っておらず、驚くペトロをよそにクオウは淡々と話す。


「あなたの事なので、所持品はそこの収納袋に全て入っているのでしょう?ですから、これからはマスターの指示通り、拠点はここ、【癒しの雫】となります。良いですね?それと、今回の依頼について、依頼金を依頼主に手紙と共に戻してはどうでしょうか?」


 既に分かっているが、誰からの依頼なのかは口にしないクオウ。


 その相手、ルーカスには【闇夜の月】の逆襲に気を付けろと脅しをかけたが、そんな事をペトロにさせるつもりはなかった。


 あの程度の男に構う必要もないと感じているからだ。


「……はいっ、そうします。ありがとうございます、クオウさん。シアさん、皆さん……」


 そこには、漸く呪縛から解放されて年相応の笑顔を見せるシアよりも少し年上の少女がいた。


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