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フレナブルと言う女性

 ジャロリア王国最強のギルド、最も信頼のおけるギルド【勇者の館】。

 そのギルドで高ランクの認定を受ける事が、この国の冒険者の大多数の夢であったりする。


 ギルド本部・国家認定のAランクやSランクになるにはギルドの推薦が必要であり、当然飛び級での認定は今まで行われた事は無い。


 信頼度の低いギルドの推薦である場合、その実力を把握するための数々の試験が課せられるのが一般的で、先ずは本来持ち得ているであろうBランクの実力があるかが試される。

 【勇者の館】の認定があればそのような事態にはならず、単純にAランクに相応しい実力があるかの試験となるのだ。


 受験者としては、余計な確認試験を受けさせられた場合には疲労蓄積量も大きくなり、この時点で仮に正しくBランクの実力を持っていた者であったとしても、【勇者の館】所属の冒険者と比べると相当不利になる事は否めない。


 そう言った事から、【勇者の館】に所属して高ランク認定を受ける事が冒険者の希望であり野望なのだ。


 その事を熟知しているギルドマスターのルーカス。

 目の前の女性にBランク認定と言う有り得ない褒賞を提示して勧誘をした。


「えっと、せっかくクオウ()の情報を下さったのですから、質問にお答えしますね。私の名前はフレナブルと言います。それと、ギルドへの加入ですが、お断りさせて頂きますね。興味ありませんので」

「はっ?」


 名前を教えてくれと言う事に関する回答は良いが、まさか検討する素振りすら見せずにギルド加入を一刀両断の元断られたルーカスは、語彙力が一気に低下した。


「なんで?えっ?どうして?Bランク認定なのに?」


 Sランク冒険者としては有り得ない挙動をしているのだが、目の前の女性フレナブルは美しい所作と笑顔で一礼すると最後にお礼の言葉を述べて、まるでスキップするかのような足取りで【勇者の館】を後にした。


「それでは皆様、失礼いたします!」


 ほぼ全ての冒険者が憧れているギルド【勇者の館】。


 そのギルドで無条件に高ランク認定されると言う超破格の待遇に一切の興味を示さずに、話から確実にクオウの元に向かっているのだろうフレナブルを黙って見送るしかない、【勇者の館】所属の一同。


 その後ろ姿さえ荒くれ者の冒険者達を引き付けるほどの魅力をまき散らしながら、やがてフレナブルは視界から消えていった。


「何だったんだ……しかし、またクオウか。忌々しい!」


 漸く我に返り自室に戻るルーカスと、余りの美貌に見とれた冒険者達がフレナブルの噂で賑わう受付だった。

 その話には、何故か片手で持ち上げられていたBランクの冒険者も顔を赤くしながら嬉々として加わっていたのだ。


 それほどの衝撃を【勇者の館】に与えたとは一切思っていない女性フレナブル。

 心底恋焦がれている、いや、崇拝していると言っても良い想い人であるクオウに会えることを楽しみにしていた。


 その美貌から、普通に歩いていても第三者からの視線が絡みついて不快に思っていたフレナブルだが、今この時だけはその視線が一切気にならなかった。


 クオウの事で頭がいっぱいだからだ。


 この城下町についてはかなり調査していたのである程度把握しているフレナブル。

 即座に【癒しの雫】に到着して、少々古い扉を開ける。


 当然目の前には、どちらかと言うと狭いギルドである【癒しの雫】のギルドマスターであるシアと、そのシアと打ち合わせでもしているのだろうか、立ちながら真剣に話しているクオウが見えたのだ。


「クオウ様!」

「うん?アレ?フレナブル??久しぶりだけど……どうしてこんな所にいるんだ?四星はどうしたの?」


 人懐っこそうな表情のクオウを見て、思わず走り寄って抱きしめてしまうフレナブル。

 女性としては長身のフレナブルだが、クオウの方が身長は高いので、若干かがんでクオウの胸に顔をグリグリと擦り付けるフレナブル。


「もう!わざと負けて、どこかに行ったと思ったから必死で探していたのに!心配したのですよ?クオウ様!」


 未だグリグリと頭を動かしているフレナブル。

 クオウにとっても、四星の中で唯一自分を慕ってくれていると理解できた人材であったのだが、どこから情報が洩れるか分からなかった為、<勇者>にわざと負けて魔王を引退すると言う計画は誰にも伝えていなかったのだ。そもそもそれほど時間もなかったし……


 残りの四星はあっさりと騙されているのだが、どうやら姿すら隠蔽していたクオウの事もこのフレナブルはしっかりと認識していたようで、本来は赤の他人と誤魔化すべきところを条件反射で返事をしてしまったクオウ。


 今後、万が一にも他の四星に目を付けられて面倒な事になると事務仕事に影響を及ぼすと考え、何故自分の事を元魔王だと分かるのかを問いかける。


「なぁ、フレナブル。なんで俺だと分かったんだ?」

「え?間違いようがないじゃないですか。匂い、雰囲気、全てがクオウ様ですよ!!」


 嬉しそうにクンカクンカしている胸元のフレナブルを見て、急に自分の匂いが気になりだしたクオウ。自分自身何年生きているのかも良く分からないが、人族で言う加齢臭なるモノがあるのか不安になった。

 内心怪しい匂いが出ていないか冷や汗ものだったのだが、フレナブルの姿を見ると不快な匂いではなさそう……と自分を無理やり納得させた。


 と同時に、フレナブルの言う判別方法は他の魔族には使えないだろうと判断するのだが、今日はしっかりと体をいつも以上に洗おうと決意する。


「えっと……クオウさん、その女性はお知り合いなのですよね?」


 突然ギルドに入ってきたと思ったら、飛び込むような勢いでクオウに抱き着いて幸せそうにモゾモゾしている絶世の美女であるフレナブルを見て、【癒しの雫】ギルドマスターのシアがオズオズと聞いてくる。


「あ、あぁ、はい。元同僚で、唯一信頼の出来る仲間だったフレナブルです」


 ここで初めてフレナブルはシアを認識する。

 もちろんクオウにこう言われて蕩けそうな表情になっているのだが、クオウからはフレナブルの表情は良く見えていない。


「それでフレナブル、こちらは俺がお世話になっている、いや、今日からお世話になるギルド【癒しの雫】ギルドマスターのシアさん」

「シア様……ですか。クオウ様はこのギルドで働かれているのですか?」


「そうだよ。今日からこのギルドを盛り上げるために、しっかりと働く所さ。楽しみで仕方がないよ!」


 シアと言う存在は、何を言っても聞いてくれないような無責任なルーカスとは違う事は分かっているので、これからの仕事が楽しみで仕方がないクオウ。

 あの達成感を早く味わいたかったのだ。


「クオウ様。その……もしよろしければ、シア様もですが、私もこの【癒しの雫】で働かせて頂けないでしょうか?」


 クオウ一筋で、クオウの為だけに魔王国を一人脱走してきたフレナブルは、これ以外の選択肢は存在しなかった。


 しかしクオウとは異なりその姿は他の四星には正しく認識されているので、場合によっては戦闘になってしまうかもしれない。

 実際には四星三席にもかかわらず、その実力はクオウに次ぐ実力者であるのだが、ゴクド側の搦手も含めて考えると少々危険な立ち位置にいるのだ。


 自分のために、そんな危険に陥る事すら無視して行動してくれたフレナブルを見放すわけには行かないクオウ。

 シアの様子を伺うように見ると、こちらは驚きと共に嬉しそうな顔をしていたのだ。


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