ルーカスの依頼(13)
まだ【癒しの雫】の納品は続いているのだが、クオウに脅された事を根に持っているのか、ここでもルーカスが大声で聞こえる様に口を開く。
「はっ、Bランクの特殊個体三体……大した成果だ」
だが、まるでコバエが飛んでいる程度と思われているかのように、またもや完全に無視されている。
「最後は私ですね。王都から最も遠い場所を担当いたしました。成果は……そうですね、先ほどからが虫が煩いので、あちらの成果を先ずはお伺いしても宜しいですか?」
「フフ、そうですね。【癒しの雫】の皆さんと同じ依頼を受けたギルドの方々の納品、Aランクが50体近く納品されておりますが、全て一般的な個体でした」
恐らくフレナブルはAランクを狩っているだろうと判断したラスカ。
討伐数は少なくとも、そもそも【癒しの雫】は冒険者四人で【勇者の館】は20人のAランカーとSランカーのルーカス、それに補助的なメンバーを引き連れていたのだから単純比較はできないが、同じレベルを狩れていると言う事実を公にすれば少しは静かにしてくれるはずと言う思惑があった。
ラスカにしても【癒しの雫】にしても、街道の安全のために行っている本部からの依頼であり、決して【勇者の館】と競っている訳ではないので、結果的に討伐された情報を公にしても問題ない。
そもそもルーカスはわざと人目に付くように処理していたのだから……
「そうですか。私はこの個体です。シア様によればSランクに分類されているようですので、これで少しは虫は静かになるのではないでしょうか?」
フレナブルも魔術ではなく、あえて貰っている収納袋から大型犬程度の大きさのキリンに見える魔獣を取り出す。
「えっ?これってジュラ……フレナブルさん!こんな魔獣が街道の奥にいたのですか?」
最早虫からは意識が吹っ飛び、目の前に出されたジュラと言う魔獣に全意識が向く受付ラスカ。
その声に反応したのはルーカスだけではなくこの場にいる全員、他の受付さえも出された魔獣を見てしまう。
「こんなに危険な魔獣、Sランクが街道に?このジュラ、ありとあらゆる魔術を行使し、自らも各種耐性を持ち合わせているのですよ?」
これほどの強敵を倒した称賛と、これほどの強敵が街道近くにいたと言う驚きが混ざって混乱している。
「あら?そうなのですか?では、今回の依頼で仕留める事が出来たのは良かったです。これで安全が確保できましたね」
「そ、そうですよね。ありがとうございます」
等しく雑魚の魔獣について熱く説明されても興味がわくはずもないフレナブルは、ラスカの言葉をあっさりと躱して今は安全であると強調するが、ラスカにしてみればまたしても極上の状態で納品されたSランクのジュラを見て、やはり【癒しの雫】が依頼を受けてくれて良かったと心の底から安堵していた。
「ば、Sランクのジュラだと?しかも、あの状態?どんな方法で仕留めたんだ?」
その後ルーカスの声がギルドに響き、他のギルド関係者も徐々に騒ぎ出し収拾がつかなくなっていった。
「俺にも見せてくれ!」
「俺が先だ!」
「Sランクの魔獣だと?一目見せてくれ。いや、触らせてくれないか?舐めるだけでも!」
ギルド本部でフレナブルがジュラというSランクの魔獣を納品した事で、周囲のギルド関係の者達が沸き立ってしまった。
普段お目にかかる事の無い魔獣、そもそも目撃した時点で死亡する可能性が高いので、その目で見る機会がない魔獣が完全な状態で納品されたのだから、一目見ようと殺到するのは仕方がない。
一部自我を失っているような事を言っている者さえいる。
「バカな、本物か!?」
ルーカス達も騒いでいるが、偽物の訳がない。
本部受付は高度な知識、そして鑑定術が要求される。
そこから落ちぶれたのが、今【勇者の館】にいる受付エリザなのだが……
鑑定術を持つ者は自らの力以上の魔獣の鑑定は出来ないが、対象が死亡していれば話は別だ。
その結果、鑑定の出来る受付がジュラと認めている以上、偽物であるわけがないのだ。
当然魔道具によるボードで再確認が行われているのだから、間違いようがない。
Aランクをいくら狩っても、量は非常に少ないながらも市場に素材として流通しているので、希少ながらも目にする事は出来る為にここまで騒がれる事はない。
Sランクにもなると全く話は変わり、国宝レベルの品物になり、民は余程の事が無い限り見る事は出来ないのだ。
「明日からも街道の安全確保のために活動しますので、【癒しの雫】にお任せください」
フレナブルがこう告げると、【癒しの雫】は一週間後の依頼完了時に纏めて清算するとだけ伝え、そそくさと喧騒から逃げるように【癒しの雫】のギルドに戻る。
ギルド本部では、残された【勇者の館】の三人が差を見せつけるつもりが逆に見せつけられた事、Sランクがいる可能性による戦力強化の必要性に対して、共に苦い顔をしていた。




