ルーカスの依頼(4)
ツイマの宣言を聞いた後に二つのギルドに所属するメンバーは街道に向かって行くが、街道に向かう途中にある【癒しの雫】でシアが離脱し、その姿をルーカスはしっかりと確認した。
これで生きている小娘は見納めだな……と思いつつ。
「私はここで失礼しますね。皆さん、頑張ってください!」
シアが離脱した後にも二つのギルドは依頼を達成すべく進んではいるのだが、街道と言っても、当然道は一つではない。
「俺達はこっちの道に進ませてもらおう。異論はないな?」
ルーカスは、事前調査でランクの高い魔獣の存在を確認した街道を選択する。
【勇者の館】はAランカーを20人、そしてルーカス自身もこの依頼に身を投じている程の力の入れようだ。
少しでも【癒しの雫】に対して不利な条件を与えようと思っているのだが、【癒しの雫】としては街道の安全確保の依頼を受けており、【勇者の館】と比較されるとは思ってもいないので何の気なしに了解し、全く異なる道に進む。
「フレナブルさん、俺達三つに分かれますよね?どのような配置にするのかな?」
「そうですね。シルバさん、カスミさんの安全も考慮して、私とアルフレドが前後、お二人が中央でいかがでしょうか?」
何もないとは思うが、不測の事態に陥った時に魔族の二人が同時に駆け付けられるように、人族の二人を中央の位置で活動させる方が良いと判断したフレナブル。
【癒しの雫】冒険者としてはフレナブルがリーダー的な立ち位置であり、理にかなった意見である為に誰も文句は言わずにこの方針が決定された。
「それでは、少しだけ急ぎましょうか?」
フレナブルの指示で、四人は移動速度を早くする。
「この辺り、アルフレドに任せましたよ。シア様が心配する可能性もありますので、今日は一旦ギルドに戻ろうと思っています。ですが今日の結果によって明日以降の行動、戻らず活動するのか、夜は戻るのかを決めましょう」
「じゃあまた夕方に!アルフレドさん」
「リアントちゃんも怪我しないようにね?」
「わかりました。では夕方にこの辺りでお待ちしております」
アルフレドとリアントは、三人と別れを告げて街道の奥にズンズンと進んで行く。
その街道の奥には、同じAランカーである【勇者の館】所属冒険者、そしてダンジョン攻略時に同行していたドリアスとハンナが待ち構えていた。
この二人にしてみれば【癒しの雫】の冒険者の中では誰が来ても良かったのだが、取り敢えずギルドランク降格の最大の要因と思っているアルフレドが来てくれたおかげで、復讐が出来ると喜んでいた。
この行動、もちろん単独行動ではなく、ギルドマスターであるルーカスからの指令。
【癒しの雫】に対して妨害行為をする事で、魔獣討伐の成果を上げさせないようにすると言う本当に無駄な作業だ。
最早自分達のプライドを保つ事だけに頭が向き、国家・民に対しての意識は無くなっている【勇者の館】。
遠ざかる【癒しの雫】の三人の気配と、近づいてくるアルフレドと使役している魔獣であるリアントの気配も感じ取り、その姿を現すドリアスとハンナ。
「久しぶりですね、裏切り者のアルフレド!」
「お前のおかげで俺達のギルドランクが下がったんだよな。どう責任を取ってくれるんだ?」
……キチチチチチ……
リアントは威嚇の音を出す。
リアントは街道に入って警戒を始めた瞬間にこの二人の存在は感知してアルフレドに伝えていたのだが、構わず進む主を見て、対策せずにここまでやってきた。
「俺を勝手に死んだ事にしたのは君達だろう?それに、リアントの事、随分と惨く言ってくれていたよね。自業自得じゃないかな?」
「はぁ?あなた、随分とおしゃべりになったのね。【癒しの雫】で情けをかけて貰って調子に乗っているのではないかしら?いつ潰れてもおかしくないギルドでチヤホヤされて、勘違いしましたか?それにその虫、気持ち悪いから視界に入れないでいただけませんか?」
「ふざけたギルドとその虫を、纏めて俺達がブチッと潰してやろうか?」
二人の言葉、共に【癒しの雫】を下げる言葉を使ってしまったのが良くなかった。
リアントの威嚇の音が消え、攻撃態勢に移行したのだ。
「リアント、抑えて。マスター達に迷惑をかけるわけには行かない。気持ちは分かるけど、ここは俺がやるから」
攻撃態勢に入っていたリアントに慌てて待ったをかけるアルフレド。
仮にリアントが攻撃してしまうと加減が上手く行かず、目の前の二人は呆気なく死亡する。
その結果、どうやっても最終的には【勇者の館】が【癒しの雫】に言いがかりをつけてくる結果になると思い至ったのだ。
「ハハハ、大した自信じゃないか。俺達は【勇者の館】Aランカー。お前も同じランクだったが、所詮は操術しか能がない男。そのリアント、Bランクの魔獣の力がなくては何もできないお荷物だ」




