ルーカスの依頼(2)
ルーカスの目の前にいる正体不明のこの存在こそが、闇ギルド【闇夜の月】のギルドマスターであるペトロシア。
本名ではないだろうと言う事は容易に想像できるがそこはどうでもよく、突然現れた事もいつ通りと言えばいつも通りなので流す事にしたルーカス。
「フン、まぁ良いだろう。今回の依頼は今までに比べれば何と言う事は無い。とあるギルドの雑魚共を始末してくれれば良いだけだ。【癒しの雫】を知っているか?」
「知っている。あのフレナブルと言う女、相当だ」
「ハン、ペトロシア。お前も焼きが回ったか?確かにあいつの成果は中々だ。だが、あれは魔道具、武具によるところが大きい。過大評価だと思うがな?」
「……それで、ターゲットは?」
他人が下した評価はペトロシアにとっては何の指針にもならないので、ルーカスの言葉には耳を貸さずに、仕事の内容を聞く。
他者からの情報は本当に参考程度にしかしておらず、自分自身で確認した事だけを信じてきたからこそ、ここまで生き残っているとも言える。
そこから導き出される事は、明らかにフレナブルは真の実力者であるという事なのだが、ルーカスにはその真意は分からない。
「当然【癒しの雫】だ。だがそこには冒険者、フレナブル達は含まれていない。俺達と魔獣共を始末する合同依頼に参加するはずだからな。その時にギルドに残っている雑魚共、元【鉱石の彩】の三人、ギルドマスターのシア、事務職であり元【勇者の館】のクオウを始末してくれりゃー良い。簡単だろう?」
「仮にその中の誰かが不在なら?」
「それはそれで構わない。だが、元【鉱石の彩】の三人は確実に仕留めろ。あいつらは俺達には手を抜いた武具を提出し、【癒しの雫】には今の快進撃の原動力ともなる武具を作っていやがる。そこさえ潰せば、後はどうとでもなる」
「わかった。【鉱石の彩】三人の実力は知っているつもりだ。問題ない。報酬は?」
こうして、依頼の詳細はこの場にいる二人以外は誰も知らない状態で、【癒しの雫】に対する襲撃依頼、前回とは異なり、確実に命をとりに来る依頼が成立した。
その数日後、ギルド本部に来ていたシアとクオウは、担当受付であるラスカから合同依頼の話を聞かされるのだった。
「……と言う訳で、極端に言いますと【勇者の館】の尻拭い的な依頼なので申し訳ないのですが、【勇者の館】だけでは活発化した魔獣を抑えきれていないので、街道も時折危険がある事は事実です。安全確保のために【癒しの雫】でこの依頼を受けてはいただけないでしょうか?」
本部からの指名依頼と言う形になっており、達成すれば信頼度・実績共に急上昇するので、断る理由は無かった。
「ルーカス様、【癒しの雫】はあの依頼を受注しました。指名依頼にしたので喜んでいたようです」
「そうか。これであいつらの本性がジャロリア王国に知れ渡るのだな。愚民共に対して俺達【勇者の館】がいかに優れているか、改めて認識させる良い機会になるだろう!」
この依頼、【癒しの雫】としては民の安全と言う事で受けているのだが、裏で指名依頼を出すように指示していたルーカス達【勇者の館】としては、同じ依頼を同時に実施し、その成果を比較させる事によって自らの優位性を確立する一つの手段に過ぎない。
「期限は明日から一週間、街道周辺の魔獣を重点的に始末する依頼にしております」
「わかった。だが、町の近くではダメだ。町に近い魔獣共は幾らでも後から始末できる。少々離れた場所にいる高ランクの魔獣に対象を絞れ!」
依頼場所が町に近い場合、【癒しの雫】のギルド襲撃時にフレナブルを始めとした冒険者が戻ってきてしまう可能性がゼロではないので、取ってつけたような理由を告げるルーカス。
あまり考える事をしない本部ギルドマスターであるツイマは、成程……と納得してその旨了解した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「皆さん!明日からは本部からの直接指名依頼で、街道沿いの安全確保のために魔獣の討伐を行います。場所は町から離れた場所と追加指定がありました。【勇者の館】も以前から同じ依頼を受けてはおりますが、あまり結果は芳しく無い様で、今回私達【癒しの雫】にも声がかかりました。【勇者の館】と張り合うつもりは一切ないですし気にする必要はないのですが、住民の皆さん、街道を利用する皆さんの安全のために張り切って行きましょう!!」
「やったじゃねーか、いよいよ本部からの指名依頼が入るようになったかよ!マスター。ここで成果を出せば、次は王侯貴族ってとこか?良し、こうしちゃいられねーな。お前ら、武具を出せ。最終チェックだ」
沸き立つ【癒しの雫】。
先ずは武具の整備が大切だ!と、鍛冶担当の三人が意気込みを新たに冒険者四人から武具を半ば強制的に回収する。
新規加入のアルフレドに対しても防御性能が高い盾の武具を渡していたので、夫々から回収すると、三人はさっさと仕事場に消えていった。
彼らの作業場はギルド裏手奥、少々距離がある為に、くぐもった三人の声で武具の整備、追加機能などの話が聞こえている。
「フフ、お三方に任せておけば武具は問題ありませんね。では、もう少し具体的な依頼内容ですが、明日からは町から離れた街道沿いの魔獣を一週間の期限で狩る事になりました。指定はその位ですので、通行人の安全確保と言う理由である以上、少々街道から外れた場所まで攻める必要があるのではないかと考えますが、如何でしょうか?」
フレナブルとアルフレドは魔族であり、はっきり言って他のどのギルドの冒険者と比較しても別格の強さを持っていると理解しているシアは、ギルドの依頼をそのままの意味で理解して作業するのではなく、積極的に安全を確保するために動こうと提案する。




