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招かざる客

 クオウとシアが、シアの両親が遺したギルド【癒しの雫】で会話をしている所で、入り口が大きな音を立てた。


……バン……


 と同時に、クオウは見覚えがある人物がいる事に気が付いた。


「シア、いい加減に俺達の条件を呑め。お前が俺達【勇者の館】傘下に入れば、冒険者としても一気に活動しやすくなるんだよ。こんな外れにあるギルド、即座に素材買取できる事しかメリットないだろ?俺達も、態々町の中央にあるギルドに素材を持って行くのが面倒なんだよ」


 クオウの記憶によれば、一月ほど前に【勇者の館】に所属した冒険者の一人だ。


「マルガさん。こちらも何度も申し上げている通り、ここは私の両親との想いが詰まったギルドです。それを、【勇者の館】の素材買い取り場所にするわけには行きません」

「シア……良いか?名ばかりギルドマスターのお前が、掃除やら何やら小間使いをして生計を立てているギルド。冒険者なんて一人もいないだろ?薬草採取すらできないギルドに未来はない事に気づけ!」


 マルガはクオウに気が付いているが、特に反応しない。

 クオウは【勇者の館】の事務員であった事、そして既に解雇されている事を知っているマルガだが、冒険者が存在しない【癒しの雫】では何の力にもなれないと思っているからだ。


「俺はお前の為を思って、こうして日々通ってやっているんだよ!早く決断しないと、このギルドの買い取り価格も下がる一方だぞ!」


 最近【勇者の館】の勢力、登録冒険者や支店の存在が急増していた事は把握しているクオウ。

 しかし、まさかこんな恐喝の様な行動が行われているとは思ってもいなかったのだ。


 不快感に襲われ、思わず口を挟んでしまった。


「マルガ……だったな。ギルドマスターのシアがここまで明確に拒絶しているんだ。【勇者の館】所属冒険者ともあろう者が、脅迫まがいの事をするのか?」

「あん?その【勇者の館】で大した事も出来ずにクビになった奴が偉そうに何を言っている?そもそもお前は【勇者の館】について語る資格もないし、まして【癒しの雫】についても何も権利はないだろう?」


 本来クオウの力が有れば、目の前の冒険者マルガ程度は軽く息を吹きかける程度の力で消滅させる事が出来るのだが、目立ってしまうと戦闘職として活動させられる事から力を秘匿してきたので、その流れでグッと堪えるクオウ。


「シア、このギルドももう先は見えている。こんな奴しか中に入ってこないギルドだからな。早めに言う事を聞いた方が利益になるぞ。そうそうクオウ、お前は【勇者の館】と一切関係がないんだ。【勇者の館】のギルドカード、俺が返却しておいてやる」

「……俺は数か月ギルドで生活していたから、カードも俺の部屋に放置しっぱなしだ」


 このギルドカード、表面には各ギルドで認めたレベルと所属ギルドの紋章が印字されており、裏面にはギルドの紋章とギルドのレベルが大きく象られている。

 事務員であったクオウは、レベル表記ではなく事務職と言う標記だが……


 その言葉を聞いたマルガはクオウを小ばかにするようにフンと鼻から息を吐き、【癒しの雫】を出て行った。


「クオウさん、庇って下さってありがとうございました。私はこれから仕事がありますので、失礼しますね」


 涙目になりながら笑顔を作りカウンターの方に向かおうとするシアを、クオウが呼び止める。


 自分を追い出した古巣がまさか脅迫まがいの事をしていた事は、元魔王である自分としても驚きを隠せなかった。

 そして自分は今無職であり、目の前のギルドはどう見ても事務職がいない事、止めはシアの力になってやりたいと思った事もあってクオウは決心し、こう述べた。


「シアギルドマスター。良ければ俺をここで雇ってもらえないだろうか?多少の戦力にはなると思うけど……それに、報酬は俺が適当に魔獣を始末してくるから、ギルド自体は利益が出ると思うんだ。結果的にギルドの実績にもなるだろうしね。だけど、話した通り俺は事務職だったから、軌道に乗ったら戦闘からは外れる事が条件になるけど。どうだろう?」


 マルガに対しての話し方ではなく、素の普段の話し方に戻っているクオウ。


 話し方はさておき、中身はギルドにとってはメリットだらけ、いや、ここまでくるとクオウには何のメリットもないので、普通の感性を持つシアには許容できなかったようだ。


「それって、ただで働くと同じじゃないですか。初対面の人にそこまでして頂くわけには行きません」


 本来は喉から手が出るほどに嬉しい申し出のはずなのだが、頑なに固辞するシア。


 そんな態度にも好感が持てたクオウは、ここで引き下がるわけには行かないと決意を新たにしていた。

 長く事務処理をしていたので、人族の性格は凡そ把握しているクオウ。

その知識から、シアの性格であれば正攻法では跳ね返されるだけなので、情に訴えかける事にした。


「シアギルドマスター、正直に言うと、マルガが言っていた通りに俺は【勇者の館】をクビになっているんだ。だから仕事を探していて……何とか雇ってもらえないだろうか?」


 少々タメを作る所がクオウ的には情に訴える一つの技術であると理解していた。

 その技術が功を奏したのか、少し困った顔をしたシアはクオウの申し出を受ける事になった。


「わかりました。でも、本当に良いのですか?ご覧の通り登録している冒険者は一人もいません。私が日々町の雑務依頼を受けて何とか継続しているギルドですよ?」

「全く問題ありません。ギルドマスターのために、このギルド【癒しの雫】の発展のために働かせて頂きます」


 少々おどけて、わざと丁寧に返すクオウ。

 今後はギルドマスターと職員と言う立場になるので、この辺りは弁える必要があるだろうなと思っている。


「フフフ。ありがとうございます、クオウさん。では、事務職のギルドカードをお渡ししますね」


 カウンターの中に入って魔道具を動かすシア。

 この魔道具、ギルドを立ち上げる際にギルド本部に登録費用を収めると受領できるもので、所属ギルドを明確にするギルドカードを作成できるものだ。


 当然二重登録は出来ないので、こうしてギルドカードが作成できるという事は、【勇者の館】に置いているギルドカードはいつの間にか無効化させられていたことになる。


「ハイ、できました。これかよろしくお願いします!」

「任せて下さい、ギルドマスター!」


 手渡されてギルドカードは、表には名前と事務職と言う印字。

 冒険者であればこの“事務職”の部分は事務職ではなくF~A、そして別格の強さを持つと言われているSの表記の何れかとなっている。


 冒険者の実績、そしてその実力に応じてランク分けされているのだが、Bランクまでは各ギルドで判断してランクを与える事が出来る。


 その為、Bランク以下の冒険者には実力に開きが存在する。

 厳格なギルドであればかなりの強さを持っているし、適当なギルドであれば相当な弱者である場合もある。


 結果的に依頼側としては、信頼のおけるギルドに依頼を出す事になるのだ。

 そしてAランクと更に別格の強さと言われているSランクになるとギルド本部と国家の承認がいるため、この二つのランクだけは共通した強さであるのは広く知られている。


「私の夢はこのギルドからAランク、欲を言えばSランクを輩出する事です。そしてギルドもSランクになればと……フフ、おかしいですよね。冒険者の一人も登録してもらっていないギルドなのに……」


 クオウと言う仲間が出来た事から口が滑らかになっているシア。

 【癒しの雫】の現状を見たら誰もがシアのこの言葉を笑うだろうが、クオウは違う。


「任せて下さい、シアギルドマスター。その夢、共に叶えましょう!」


 クオウの実力であれば、Sランクが何人束になろうと手も足も出ない実力があるのだから……事務職だけど。


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