レゼニアの眷属とルーカス一行
「クソが!何故この俺様が、このSランクであるルーカス様があそこまで言われなくてはならないんだ!」
王城から戻ったルーカスは、【勇者の館】ギルドマスターの執務室兼私室であれに荒れている。
いつもであれば隣にいるエリザはルーカスが帰ってきた瞬間に扉から現れるのだが、ギルド到着前から荒れているルーカスの剣幕を感じ取ったのか、部屋の中で大人しくしていた。
「ルーニー、ドリアス、ハンナを呼べ!!」
部屋の中から大声で指示を出すルーカス。
程なくして指名された三人が、少々怯えつつもギルドマスターの部屋に入ってくる。
少し時間が経ったおかげか、落ち着いたルーカスは王城での出来事を説明する。
「……結果、あのダンジョンを一月以内に潰さなければ俺達は降格だ。わかるか?そうなると補助金の一部は無くなり、信頼度も下がる為に依頼の報酬金額も一気に下がる。そんな事が【勇者の館】で許されて良いわけがないだろう?ジャロリア国王の国家的損失になる事が理解されていない!」
まさか国王から直々に降格宣言を受けたなどと説明されるとは思わなかったので、突然呼び出された三人も狼狽する。
「だが逆に言えば異常な魔獣、前回の様なAランクの目撃情報すらないあのダンジョンを潰せば、Sランクは維持されると言う事だ」
「そ、そうですね。その程度は俺達にとってみれば容易いですね」
「ドリアスの言う通りです。私も精一杯サポートさせて頂きます」
「ではルーカス様、こちらで補助要員を選定いたします」
三人はルーカスの一言で絶望から光明が差したため、やる気に満ち溢れている。
「ルーニー、今回は万が一も許されない。ありとあらゆる武具、魔道具を準備し、万全の態勢を整えろ。それと、アルフレドにも声を掛けておけ」
アルフレドと言う名前が出た瞬間、同じ冒険者であるドリアスとハンナの顔は明らかに曇る。
もちろんその表情を見逃すルーカスではない。
「安心しろ。アルフレドはお前達と同じAランクではあるが、だからと言って真面に意思疎通ができているとは思っていない。あいつは魔獣には饒舌だが、人相手だと中々口を開かないからな。少々気味が悪く感じるのは分かっているさ。だが、今回の任務は絶対に失敗は出来ない。そこは理解してくれ」
ルーカスの言う通りにアルフレドと呼ばれている冒険者はAランクであり、魔獣を使役している操術の使い手だ。
アルフレドが使役している魔獣、Bランクに位置している魔獣でリアントと呼ばれており、中型犬ほどの大きさで魔獣としてはさほど大きくないのだが、真黒な外皮に覆われている蟻のような魔獣なのだ。
同じギルドメンバーとは殆ど口を利かないくせに、その魔獣とは饒舌に話すアルフレドは、実力はあれども異端児としてギルドのメンバーからはあからさまに距離を置かれていた。
その男すら今回のダンジョン攻略に引きずり出す程、ルーカスの今回の依頼に対する想いは強かったのだ。
Sランクギルド所属のAランクという事で、こちらも相当美味しい思いをしているドリアスとハンナは、降格だけは何としても防がなくてはならないとルーカスと同じ思いであったため、アルフレドの同行を拒否する事は無かった。
「慎重に準備しろ。だが、期限は一月と決められている。精々準備に費やせる時間は二日だ。お前らもそこまでに必要な物資を調達しておけ。重ねて言うが、油断はするな。万全を期すのだ」
こうして三人はルーカスの部屋から退室して、即ダンジョン攻略の準備に取り掛かっていく。
今までに前例がないレベルで既に把握されているダンジョンの詳細を再度精査し、十全に対応できる魔道具を手配、更にはその状況から想定される最悪の事態も綿密に想定していたのだ。
この国王からの依頼、いや、ルーカス達【勇者の館】の実力の再評価とでも言うべき任務は、その結果で降格が判断されると言う部分だけは厳密に秘匿されて、即座に国内に大々的に公表された。
「あいつら、Aランクの特殊個体が出たばかりのダンジョン攻略依頼を陛下から受けたらしいぜ!」
「先日本部に行っていた俺の所のマスターによれば、あいつら結構あくどい事をしていた証拠が出たとか言っていたけど、陛下から直接依頼を受けられるって事は、誤解だったのか?」
「確かに良い噂は聞かねーし態度も横柄なのはわかっちゃいるが、少なくとも、今この時点で陛下の信頼はあるという事だけは間違いないだろ?」
ジャロリア国王が態々この噂を流した目的は、正にこの冒険者達が噂をしているようにルーカス達【勇者の館】の評判をこれ以上悪化させないようにする為だ。
攻略を失敗してランクが下がれば【勇者の館】は明確に国王の信頼を失ったとなるし、成功してランクが維持された場合には、悪い噂は害でしかないので、今の内から対策する必要があったのだ。
この情報によって、魔王国がダンジョンに新たな戦力を送り込むとは誰も思っていない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今回は、お前にしよう。あそこのダンジョンの下層は空が高いし、森もあるから丁度良いね」
とある場所で四星四席のレゼニアが選んでいるのは、【勇者の館】の実力を試すためにけしかける眷属だ。
「凝りもせずに同じダンジョンに来るなんて……人族って何を考えているんだろ?」
間者によって、魔王ゴクドが【勇者の館】の中でも最も危険視しているルーカスも含めたメンバーで、少し前にAランクの魔獣ランドルを生み出したダンジョン攻略が行われるという情報を早くも掴んでいる魔王サイド。
ジャロリア王国内部で大々的に公表されているので、あっという間に情報は魔王国にまで届いていた。
その情報を基にダンジョンで待ち受け、【勇者の館】の戦闘を観察する事で彼らの実力を見極める事にしているのだが、実力を見るという事になっているだけで、始末しろとは言われていない。
その為に眷属を無駄に死なせたくないレゼニアとしては、眷属が逃げる事も考えて急襲する階層、そして魔獣の選定をしていた。
その結果選ばれたのが、Aランクのレムリニアと言われる個体。
見た目は鳥そのもので、羽からは魔術ではなく物理的な衝撃波による攻撃が出来、口からは炎魔術を行使できる。
そして襲う場所は下層に位置する空が高く、森もある階層。
森の中で襲い、逃走時には空高く舞い上がり高速で離脱する予定だ。
レゼニア自身は自分の力でその気配を消しつつ、距離を取ってルーカス達を観察する事にしていた。
「早く任務を終わらせて、ゆっくりしたいな」
そんな事を言いつつも現地を確認するために、既に魔王ゴクドによって掌握されているダンジョンを悠々と移動するレゼニア。
どのダンジョンでも、魔王ゴクドの配下であれば何のトラブルもなく自由に移動する事が出来るのだ。
目的の層に到着してレムリニアと動きを確認する。
その後、これ以上何もする事が無くなったレゼニアは、緊張感のない態度で眷属であるレムリニアをゆったりと撫でているのだった。




