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魔王ゴクドとルーカス

「おい、レゼニア。侵攻具合はどうだ?」

「徐々にではありますが冒険者達を撃破できており、順調に侵略は進んでいます。僕も頑張っていますので……」


 魔王城の一室には新魔王のゴクドと、四星がいる。

 四星と言っても、筆頭であったゴクドは魔王を名乗りフレナブルは失踪しているので、ゴクドとジスドネア、そしてレゼニアしかこの場にはいない。


「しかしゴクド様、少し前にダンジョン管理の習得のため、ランドルを出されていましたね?それが地上に出る前に始末されているようですが」


 既にダンジョンの制御権は持っているゴクドだが、ここに来てようやく本当の制御ができ始めているので、練習の意味も兼ねて、とあるダンジョンにAランクの魔獣四体を出現させて人族領に侵攻させようと思っていた。


 ダンジョン内部の魔獣は、地上で問題なく活動するためには少々ダンジョン内部でその存在を確実なものにする必要がある。


 産まれて直ぐに地上に出ると、不安定な存在であるが故に長くは持たないのだ。


 その慣らし期間とでも言うべき時期に、Aランク四体が始末されてしまったと言うのだ。


「何?それは確かか?」

「はい。あのダンジョンを管轄しているジャロリア王国にいる間者からの情報ですので、間違いありません。何やら、例のふざけた<勇者>がいる【勇者の館】ともう一つの弱小ギルドである【癒しの雫】と言うギルドによって始末されたようです」


 少しだけ事実は異なるが、概ね正しい情報がゴクドに伝わる。


「……【癒しの雫】とか言うギルドは捨て置いても良いだろう。どうせ【勇者の館】にくっついている腰巾着だろうからな。だが、あの先代を倒した【勇者の館】には気を付けろ。あの時は大金星だと思ったが、冷静に考えればもちろん俺達の脅威になり得るのだからな」


 事実と異なる報告が、【癒しの雫】にとっては良い方向に転がった。

 今回のAランク魔獣ランドル討伐に関して、魔王サイドは【勇者の館】によるものだと断定したからだ。


「今の俺の練度では、そうそう高ランクの魔獣を生み出す事は出来ない。ましてSランクなど出そうものなら、制御しきれないからな。結果的にこちらに牙を剥く事も有り得なくもない。始末は出来るだろうが、正直手間暇かかるのは間違いない」

「では、我らが出陣いたしますか?」


 ダンジョンからの攻撃ができないとなれば、今まで通りに通常の魔獣による侵攻を行う以外には他の魔族、更には最終的に四星が出るしかない。


「ジャロリア王国だけにお前らが直接的に力を使うのは愚策だ。だが、放っておいては【勇者の館】に調子づかれるか……レゼニア、お前の配下にAランクがいたな?そいつを【勇者の館】の部隊にぶつけて様子を見ろ。今のあいつらがどれ程の力なのか、見定めて来い!」

「わかりました。では僕はこれで……」


 オドオド自信なさげにしている四星四席のレゼニアだが、その実力は一級品。

 もちろん人族の分類でいえば、Sランクに該当している。


「レゼニアももう少し自信が持てれば、更に一皮むけるのですが……」

「そう言うな、ジスドネア。あいつは先代を始末する際には良い囮になったのだ。あんな奴でも使いようはある」


 一応幹部ではあるレゼニアだが、その性格故か立場はそれほど良くはない。

 

「ふ~、今回は調査だけだから、僕は隠れてれば良いよね。攻撃させるのは誰にしようかな……」


 そのレゼニアはただひたすらに、上の者からの命令を実行する事だけを考えていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ギルド本部で大醜態を晒した【勇者の館】。


 国家からの依頼は継続しており、その依頼によってギルド本部の評価は下がる事は無いと思われていたのだが、魔王討伐は未着手、魔獣討伐も最近は冒険者の敗北が続き、書類の不備もある。


 そこにあの大醜態となっており、流石に国王の耳にまで情報が入ってしまった。


「面を上げろ、ルーカス」


 結果、【勇者の館】ギルドマスターであるルーカスが、国王ホトム・ジャロリアと謁見しているのだ。


「余の所に、いくつかお前のギルドについて報告が上がっておる。余が出している二つの依頼、新魔王討伐、そして魔獣の対応、どちらも芳しくない様だが、弁明はあるか?」

「はっ。思いのほか魔獣共の力が強大で、先日もAランクの特殊個体まで出ております。こちらに被害はなく始末する事は出来ましたが、敵の力に少々翻弄されている所がございます」


「つまり、余が承認したSランクとしての実力がない……と自ら言っておるのか?であれば、緊急事態故に他国のSランクを引っ張って来る事になるが?」

「滅相もございません!魔獣に対応する魔道具の準備不足があった事は否めませんので、そこは大いに反省し、必ずや陛下の期待に応えて見せます」


 突然王城に呼び出されたルーカス。

 どこまで事実が漏れているのか心配になりつつも、何とかSランクを維持するために対応する。


 ルーカスが必死に個人としても、ギルドとしてもSランクにしがみつくのは、国王がほのめかしている通り、他国にも存在しているこの特殊ランクを与えられた人物やギルドは絶大な力を持つ事を国家が承認しており、それ故にどの国家に行っても優遇されるうえ、各国家からの補助金まで出ているのだ。


 そして通常受ける依頼も、他のギルドとは異なって破格の報酬が示される。


 一旦そこまでの甘い果実を味わってしまうと、転落する事だけは認められなくなるのが人の性なのだろうか。


 敢えて言うならば今の特別な立ち位置こそが真の地獄、尊敬され、特別視され、資金も潤沢と言う有り得ない状況を味わっており、そこから転落に怯えるこの状況こそが真の地獄なのかもしれない。


「フム。色々言いたい事はあるのだが、我がジャロリア王国唯一のSランク。簡単に降格(・・)させては余の信頼にも傷がつく」


 ここであえて降格と言われ、やはり良くない話が国王に伝わってしまったのだと判断したルーカスだが、国王の言葉からは即降格は無いだろうと仄めかされているので、余計な事は言わずに黙っている。


「しからば、そのAランクの魔獣ランドルが出現したと言うダンジョンを攻略、破壊せよ」

「……宜しいのですか?冒険者達が資源を取得する絶好の場となっておりますが?」


 突然のダンジョン攻略指示に、流石のルーカスも確認してしまう。

 ダンジョン内部は危険ではあるのだが、そこを差し引いても人族の繁栄につながる重要な素材の宝庫と言って良い。


 その素材を求めて活動している冒険者の仕事場を奪うと言っている事と同義であるため、一応冒険者であるルーカスも確認したのだ。


「良い。どの道ダンジョンは後から湯水のように湧いてくる。そのような危険な魔獣が現れたダンジョンを放置する方が問題だ。それに、ダンジョンなど今でもそこら中にあるだろう。そのうちの一つを破壊したとしても、何も問題はない」


 ジャロリア国王の言っている事もまた事実。

 ダンジョンは、難易度はまちまちだが相当数が存在する。


 時折ダンジョン完全制覇、つまり攻略されてダンジョンは消滅するのだが、その過程で超レア素材を入手してくる冒険者が存在した。

 一部の冒険者はその素材を求めてダンジョン攻略を目指すのだが、どれ程攻略しても結局はジャロリア国王の言う通り、新たなダンジョンがいつの間にか湧き出ているのだ。


「仰せのままに」

「任せたぞ。だが、魔王討伐のように手つかずでは困るからな。期限を設けさせてもらおう。一月だ。そこまでに成果を出せなければ……わかっているな」


 明らかに降格を示唆すると、国王はさっさと退室してしまったのだ。


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