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ルーカスとギルド本部(3)

「そもそもお前程度の攻撃力では、如何に俺の攻撃で致命傷を負っていたランドルだとしても傷一つ付ける事は出来ない。恐らく、その腰の棒のような武具、ミハイル達が作ったのだろうが、その魔道具によるところが大きいのだろう」


 あまりにも自信満々にスラスラと大嘘を告げて来るので、流石のフレナブルも呆れてしまっていた。


「ミハイルを始めとした三人、あいつらは俺達【勇者の館】に武具を卸していたが、その時は手抜きをしていたので罰を与えた。その時に温情をかけて【癒しの雫】の移籍だけは認めてやったのだが、その恩を仇で返した事が明るみに出たな。俺達からの新たな依頼は断り、お前達には、華奢なフレナブルでさえ致命傷を負っていた個体とは言え、ランドルに一撃入れられる武具を作ったのだからな」


 【勇者の館】は、元【鉱石の彩】からの武具購入を禁止しており、【癒しの雫】に移籍した後も武具作成を彼らに依頼した事実は一切ない。


 そもそも元【鉱石の彩】は手抜きなど一切しておらず、【勇者の館】が冒険者に対して身の丈に合わない魔獣の討伐依頼を受けさせていたことが根本の原因だ。


 ギルドマスターともなれば当然多忙であり、ましてや巨大な組織となっている【勇者の館】にもなれば、冒険者の全てを把握する事は不可能だ。

 そのためにクオウのような存在がいて、書類に纏める際に注意を促していたのだが、最早そのような監視体制は崩壊している。 


 元【鉱石の彩】が手抜きをしていた所は本心からそう思っているが、武具作成の新たな依頼についてはルーカスも大嘘である事は分かってはいるのだが、そこは本部ギルドマスターのツイマが口裏を合わせる事でクリアできると考えての暴言だ。


 こんな調子で、まだまだルーカスの暴言は続いているのだが、クオウ達は一切その言葉を聞いていなかった。

 何故なら、余りにも呆れたフレナブルがこう呟いたからだ。


「やはり、あのゴミは焼却致しましょう。それが世の為ですね。フフフ、【変質者の館】の親玉が偉そうに。ついでに腐ったツイマとか言うハエも併せて焼却すれば、薄汚れた空気も奇麗になるのではないでしょうか。そうですね、そう致しましょう!」


 この対応に追われて一切話を聞いていない【癒しの雫】と、勝手に熱くなっているルーカス達と言う図が出来上がっていた。


「……申し訳ありません、クオウ様、シア様。私としたことが、我を見失っておりました。御迷惑をおかけいたしました」


 漸くフレナブルが落ち着いた頃、大声で話し疲れたのか、勝手に疲弊しているルーカスとツイマが、息も荒く【癒しの雫】を睨みつけていた。


「それで、お三方は何が言いたいのですか?」


 殺さんばかりの視線に晒されても、何の反応も示さずに淡々と返すフレナブル。

 まるで今迄何も聞いていませんでしたとばかりに、実際聞いていなかったのだが、煽るように問いかける。


 再び頭に血が上るルーカス達だが、辛うじて抑え込んで結論を告げる。


「貴様……良く聞け。俺達はランドル本体を四体納品済みだ。これが討伐の動かぬ証拠になっている。だが、ここで争っても貴様達は事実を決して認めないだろう。しかし全ギルドの目標とされているSランクギルド【勇者の館】として、模範を示す立場として、冒険者の蛮行を見過ごすわけには行かない」


 当然のように自らが絶対的な正義と言う前提で話を進めるルーカスに続いて、ツイマも追認する。


「ルーカス様の仰る通りです。そこで、本部マスターのこの私が結論を出します。【癒しの雫】は今を持ってFランク降格。ルーカス様によれば、最も高価な心臓だけを抜き取ってさっさと離脱したとの事で、恐らく卑しくも納品したのでしょう。もちろん全て没収です。寛大な処置に感謝するんですね。直ぐにカード作成の魔道具を持ってくるように」

「えっ?」


 ツイマの暴挙に対し、漸く両親から引き継いだギルドが軌道に乗ったと喜んでいたシアは茫然としてしまうのだが、それは一瞬だ。


「フレナブル、お前の言う通りだな。俺が間違っていた。ゴミとハエはさっさと焼却するに限る」

「そうですよね、クオウ様。私達【癒しの雫】の前に汚物がある事が許せませんもの。ええ、汚物は焼却が一番です。では、この私にお任せくださいませ」


 と、クオウが切れて、フレナブルも恐怖の笑顔で追随してしまったからだ。


「ちょ、ちょっと待って下さい、クオウさん、フレナブルさん。落ち着きましょう!ね?お願いします!」


 落ち込む暇すらなく二人の対応に追われるシアなので、【癒しの雫】に決定的なダメージを与える事で絶望の表情をするだろうと思っていたルーカスとツイマは、目の前の【癒しの雫】のやり取りに殊更機嫌を悪くする。


「お前ら!早く魔道具を持ってこい!」


 とツイマが怒鳴るが、シアは必死で二人を止めているので耳には入らない。

 再びがなり立てるルーカスとツイマに対し、一切話を聞いていない【癒しの雫】と言う図になった。


「「申し訳ない(ありません)」」


 漸く二人が落ち着き、少々疲れている表情のシアに謝罪をしている。


「ですがシア様。あのゴミカス、いいえ、ウジ虫の言う事は到底納得できません。そこはシア様も同じですよね?」


 この場にクオウやフレナブルがいなければ、自分は落ち込んで絶望のまま【癒しの雫】に戻っているはずだが、二人やギルドにいるミハイル達のおかげで随分と助けられているな……と感じているシア。


 フレナブルは見かけや雰囲気によらず意外と切れやすい……とそんな事も思いつつも首肯する。


「では、あのウジ虫の言葉はこの場で撤回させます。良いですか皆様、良く聞いてくださいませ」


 フレナブルの、甘くホンワカした暖かい声が、ギルドに凛として響く。


 誰しもが無意識に耳を傾けてしまう声だが、特にフレナブルが何かの術を使っているという事ではない。


「こちらのゴミとウジ虫のコンビは、あらぬ言いがかりを私達【癒しの雫】にしただけではなく、証拠も無しに降格と言う有り得ない処遇を宣言しております。そもそも、私達が納品した心臓が証拠にならないのであれば、ゴミが納品した本体も証拠にはなり得ません。それすら分からないのは、ゴミクズ程度の存在ですので仕方がないのでしょう」

「な……貴様!」


 落ち着いているように見えるが、やはりかなり怒っているので煽りながらも説明するフレナブル。

 ルーカスは、ここまで堂々とこき下ろされてこめかみがピクピクしている。


「そこで、皆様にも証人になって頂き、事実を明らかにさせて頂きたいと思います。ゴミやウジでもわかるように、優しく説明しますのでご安心ください」


 こうして徐に腰に装着していた棒を取り出すフレナブルだが、その姿を見たルーカスは攻撃されるのかと思い、反射的に構えてしまう。


「ゴミクズ程度に、この素晴らしい武具を使って攻撃するつもりはありませんよ。先ずはこの棒の武具、魔道具についてご説明いたしましょう。この両端、触媒が見えますでしょうか?ここには高レベルの魔術が複数封入可能な優れものです。更に……この棒に魔力を流す事で伸縮自在と言う、とても高性能な武具です」


 何故か軽く棒に魔力を流し、少々伸縮させて見せるフレナブル。

 周囲のギルド関係者は、思わずその素晴らしい性能に感嘆の声を漏らしている程だ。


 周囲の注目が確実に自分に集まっている事を確認したフレナブルは、いよいよ核心に迫る事にした。


「そして最も重要なのは、こちらです」


 彼女が指し示した所は棒の中央部分。そう、記録の魔道具が取り付けられている場所だ。


花粉症の薬を飲み始めました

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