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フレナブルと魔獣ランドル(1)

「クソが。準備さえできていれば、あんな雑魚程度に……」


 心底悔しそうにしているルーカス。

 実際に対象の魔獣に特化した対抗策を準備しておけば、Sランク冒険者であるルーカスの実力を考えると、無傷とはいかないがランドルを始末する事は可能だろう。


 しかしルーカスは、今回はランドルの討伐ではなく一般的な魔獣の討伐という事での装備でダンジョンに侵入して依頼を遂行している。


 ギルド本部から聞いた内容、元をたどれば自らのギルドからの適当な報告による情報だが……ランドルの目撃情報が一体と聞いていたので、その程度であれば通常の装備でも問題ないと言う慢心・油断もあったのだ。


 その結果、蓋をあければAランクに分類されている魔獣は四体おり、一体は良く見知った一般的に言われているレベル相当の力ではあるのだが、二体は魔術を行使できる個体、更に最後の一体は人言まで理解する程の高い知能を持った個体だったのだ。


 三体のランドルに囲われるようになっている【勇者の館】と、取り残されていたシルバと意識の無いカスミ。


 そこに、ルーカス達が転がってきた場所からのっそりと最後の一体が侵入してきた。


「グォ、お前ら。潰す。邪魔。死ね」


 拙いながらも明らかに人言を話している個体。

 知能も高く、比例するように能力も極めて高いと言われている特殊個体である事が分かる。


 単純にAランクに収まらず、Sランクであると言っても過言ではない実力を持っているのだ。

 同じSランクのルーカスだが、これほどの個体に対策なしで挑めるほどの力はない。


 この力の隔たりは、人族のSランクは魔道具等の武具込みでの強さでの判断になっているのが一因だろう。


 既に生を諦めているシルバと、相棒であり妻でもある意識の無いカスミ以外は絶望の表情を浮かべていた。


「あらあら、素晴らしいですね。四体揃っているなんて助かります。私のために、いいえ、【癒しの雫】のために揃えて頂けたのでしょうか?」


 誰がどう見ても危機的状況であるが、この場に相応しくない言葉使い、そして聞く者全てを穏やかにさせる程のふんわりとした甘い声で話すのは、悠々とこの場に歩いて来ているフレナブル。


 ギルド【癒しの雫】に登録している唯一の冒険者だ。


「フレナブル……お前、どうしてここに!」


 フレナブルに一目惚れしていたルーカスだが、既にダンジョンで醜態を晒した際に彼女をギルド【癒しの雫】と纏めて追い込むような指示をギルド本部に伝えてしまったので、少々バツが悪い。

 ルーカスの指示で【癒しの雫】は実際に処罰を受けているのだから。


「あら?あなたはクオウ様を良いように使うだけ使っていた……そしてダンジョンの中でコソコソしていた【変質者の館】のギルドマスターではないですか?」

「ふざけるな!【勇者の館】だ!口の利き方に気を付けろ、フレナブル!」


 危機的状況ではあるのだが、おっとりとしたフレナブルに引きずられて普段通りに切れ散らかしているルーカス。


 この場にいる四体のランドルは、フレナブルの内に秘めている強さを野生の本能で理解しており、かなり警戒しているので即座に距離を取って動かない。いや、動けない。

 人言を話す個体ですら、何も話せずにフレナブルただ一人から視線を動かせないのだ。


 フレナブルからしてみれば、いくら人言を話す特殊個体であっても等しく雑魚である為、一切気遣う事はない。


「あなたは……あなた方は、あの変質者(ルーカス)に何かされたのですか?」


 ルーカスの叫びを一切無視し、意図的に変質者である事を強調するフレナブルが話かけたのは、倒れ伏しているカスミの近くで生を諦めた表情をしているシルバだ。


 例えダンジョンの内部にいようが周囲の気配を探る事程度は造作もないフレナブルは、今迄の彼らの行動を勘案した結果、目の前の二人はルーカス一行とは関係のない人物であると知っていた。


「このお方……かなりの重症ですね。内蔵の……重要臓器の致命的な損傷ですか」


 生を諦めたシルバではあるが、愛しいカスミの話であれば反応は出来る。

 しかも、一瞬見ただけで内蔵損傷と判断した事から、恐らく回復に準ずる能力を持っているのではないかと思ったのだ。


「俺は、俺達はあいつら(ルーカス)とは一切関係がない。むしろ、約束を反故にされた被害者だ」

「それはどう言った事でしょうか?」


 気配を察知していたので粗方の事情は推測できるが……具体的な内容を確認するフレナブル。


「……で、約束を反故にして俺と共にカスミも置き去りにされたんだ」

「はっ、どう考えてもお荷物を抱えて脱出できるわけがないだろう!その程度は察しろ!クソ、だが最早全てが無意味だ。俺達はここで全滅だ。お前もだぞ、フレナブル!」


 説明を終えたシルバを肯定するように、ルーカスが吠える。


「まったく煩い変質者ですね。それで、回復術を使えそうな人は……あぁ、そちらの方ですね。貴方の術程度(・・)では、こちらのカスミさんは治す事が出来なかった……と」

「ふざけないで。私はこれでもAランクなのよ!私で治せなければ、単独(・・)では誰にも不可能よ!偉そうに!」


 熱くなっているルーカス達なので、今尚ランドルが攻撃してこないばかりか、怯えている事には目が行かないし、ハンナにしても相当言葉が荒くなっている。

 更には、一目で回復術が出来る人材がハンナであると見抜いた事にも意識が向かない。


 一方で淡い期待、カスミの回復への期待から全てを話したシルバだが、冷静になってみればルーカスの言う通りにこの場にいる全員は全滅する可能性が極めて高いので、無駄な事をしてしまったと思い、再びカスミの髪を優しく撫でる。


「シルバさん。貴方はこの方、カスミさんを大切になさっているのですね?愛する方がこのようになってしまっては……心中お察しします」


 フレナブルも、有り得ない事ではあるのだが、クオウが重傷を負ってしまっては平静を保ってはいられないと確信しているので、カスミを慈しんでいるシルバに思わず声を掛けてしまった。


 そもそも、クオウに対してある意味敵対しているルーカス一行ではなく、被害者的な立ち位置である事からも、シアを始めとした【癒しの雫】のメンバーの優しさ、気さくな仲間と言う存在によって人の心を学んでいるフレナブルは、カスミを回復させようかと考えていた。


「シルバさん、もしよろしければ私がカスミさんを癒して差し上げましょうか?」

「ふざけないで。私でさえも出来ないのに、できる訳無いでしょう!適当な事を言わないでちょうだい!!」


 ハンナは、有り得ないとばかりに吐き捨てるが、その言葉を一切無視しているフレナブル。

 シルバは、フレナブルの申し出に感謝しつつも、思いのままを告げる。


「フレナブルさんで良いか?貴方の申し出はありがたいが、意識が戻ってもランドルによって苦しめられて死ぬだけだ。ならば、このまま安らかに眠らせてやりたい」


 当然の回答だが、フレナブルは不思議そうに首を傾けている。


「あら?何故ですか?あの程度の雑魚、いくらいようが問題ないではありませんか?」


 本心から言っているフレナブルと、こちらも本心から言っているシルバ。

 互いにある意味真逆の事を言っているのだ。


「申し訳ありません、シルバさん。カスミさんの状態では残された時間はあまりないようです。このまま今生の別れで宜しいのですか?」

「……そんな訳はない!俺は、俺は、カスミと共に生きたいんだ!!」


 シルバの魂からの咆哮に、優しい笑みを浮かべるフレナブルだ。


だんだんと日が長くなってきました。

早く春、は花粉が飛ぶので、夏にならないですかね

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