<勇者>凱旋と新魔王誕生の真実
魔王城に戻ったゴクド、そしてゴクドの力で弱体化させられていたレゼニア。
「フハハハ、大金星だ!大した力がないと思っていた人族の者達よ。まさかあの魔王が敗北するとは。大怪我でも負えば良いかと思っていたが……余程体が鈍っていたのだろう。クク、臆病者の最後などあんなものだ!」
「ゴクド様の言う通りですね。えっと、これで僕の弱体化も解除して頂けますか?」
「うん?あぁ、良く持ちこたえたな。あの魔王を呼び出すための良い餌になったぞ」
こうして弱体化が解かれたレゼニアは、その魔力によって大怪我を修復した。
腐っても四星と呼ばれる程の男であり、本来は<勇者>一行に後れを取るような実力ではないのだが、魔王を現場に呼び出すために生贄になっていだのだ。
相当な実力者で生贄などになるような人材ではないのだが、四星の中でも明確な序列が存在し、即にこのレゼニア、四星筆頭のゴクドには一切頭が上がらなかった。
「あの魔王、あそこでくたばらなかったら俺達が始末するはずだったんだがな、その手間が省けて良かったぜ」
「然り。最早この時点でゴクド様が魔王」
非常に機嫌が良いゴクドを称賛しているのは、四星の二席であるジスドネア。
彼も魔族の本能に従う男で、融和な政策を推進する魔王に嫌悪感を覚えており、ゴクドの配下となっていたのだ。
このような魔王側の問題によって完全に手を抜かれていたとは知らない<勇者>ルーカス一行は、これ以上の戦闘は出来ないほどに疲弊しており、目的である魔王は始末できた(と思っている)事から帰還する事にした。
国に戻れば、もちろん魔王を倒した英雄として大歓迎され、国家としての依頼を達成した栄誉と権力、そして報酬、信頼……数えきれないほどの利益を得たのだ。
人族としては主たる魔王を失った事による反撃を恐れていたのだが、魔獣の暴走はあるのだが、今まで通りに魔王国として人族に対して直接何かを仕掛けて来る事は無かった。
恐らく魔王国は魔王を失った後の新たな統制を行っているからかだと推測されていた。
実際はこの魔獣の暴走、魔王が逃走した時に自分の死亡を疑われないようにする為、魔王自らその制御権を放棄した事による。
魔王国の住民としてはヘタレている魔王がいなくなった事で喜んでおり、ゴクドが新魔王に着く予定と公表された事によって魔王国の統制は一切必要なかったのだが、暴走している魔獣に対処する為に奔走しており、人族に構う暇がなかったのだ。
魔獣の制御については、各種族の長を屈服させる必要がある。
具体的には龍であれば龍族の長。ゴブリンであればゴブリン族の長。
全ての魔獣を配下に置くには、相当な時間が必要になる。
加えて、ダンジョンの制御権も魔王が放棄した為に宙に浮いているので、全てを統括している古のダンジョン最下層の魔獣を屈服させる必要があるのだ。
権力を集中すると言う意味でも、これらの作業は魔王を目指す者自らが行わなくてはならず、ゴクドは相当な時間を費やしてこれらの作業を行っていた。
そして全ての作業を終えた時に、魔王国と人族との国境にまで態々赴いて新魔王としての自分の存在を広く伝えたのだ。
これまでゴクドが魔獣やダンジョンを統括するための作業を行っている期間……四星の最後の一人である第三席フレナブルが失踪していた事は誰も気に留める事は無かった。
魔族らしい行いをすると宣言している新魔王ゴクドの誕生に国中が沸き立っていたからだ。
同じ期間中に、旧魔王であるクオウは初めてその姿を露わにし、自らを殺した(と思っている)ギルドに事務職としてちゃっかりと就職していたのだ。
魔族は、内包する魔力、そして基礎体力こそ大きく違うが、外観からは人族と一切の違いがないので、難なく事務職として就職する事に成功していた。
当然魔力は極限まで抑え込んでいるので、力としては駆け出しの冒険者程度の力しか持っていないと思われている。
既に魔王討伐実績から、高レベルの依頼を多数受注し始めていた【勇者の館】の事務処理は膨大になっているので、ギルドマスターのルーカスも戦闘力は完全に無視して、事務処理能力に長けていた者を募集していた所に嵌ったのがクオウだったのだ。
魔王城で培った事務処理能力に物を言わせ、てきぱきと嬉しそうに仕事をするクオウを見て、ギルドマスターであるルーカスも思わぬ拾い物をしたと喜んでいた。
その日常が一変したのは、新魔王ゴクド誕生の一報を受けてからだ。
新たな魔王は先代魔王と比べると非常に好戦的で、制御を失った為に魔獣達が暴れていた時の被害状況よりも、新魔王が魔獣を制御している今の方が被害は増加しており、【勇者の館】には二つの依頼が舞い込んだ。
新魔王ゴクドの始末と、魔獣の対応だ。
更なる名誉、報酬が得られると思いルーカスは快諾したのだが、現実的には魔獣に対応するのが精一杯で、魔王討伐に向かえずにいた。
当時の魔王討伐メンバーは既に冒険者を引退して、各自が悠々自適な生活をしている事も一因ではある。
その不満を解消するかのように、何の戦闘力もない事務職であるクオウに矛先が向かたのだ。
魔王の攻勢によって最近の魔獣の討伐数は異常な数になっており、その分事務処理が増えていると言うのは理解しているルーカス。
しかし、自分が態々拾ってやったにも拘らず、ギルドマスターである自分に対して直接人員を増やせなどと平気で進言してくるクオウが気に入らなくなっていたのだ。
そしてある日、再びクオウがルーカスの部屋に来ると開口一番、事務職の追加を要求してきた。
「あのな、クオウ。俺達は魔獣の対応で忙しい。お前と違って命を懸けているんだよ。そんな時に、お前の我儘を聞く余裕があると思っているのか?」
ルーカスの言葉は、この時点では正しい事を言っている。
そうならないように、早い段階で進言し続けたクオウの言葉を無視した事を除けば……
「これ以上の処理、自分一人では到底できませんが」
「そこを何とかするのがお前の仕事だと言っているだろうが、この給料泥棒が!文句があるのなら、少しは魔獣の始末でもして見せろ!できないだろうが!書面を見るしか能のないクズが!」
機嫌が悪い所に、更に正論を突きつけられて苛立つルーカスは、クオウには決してできないと思っている冒険者としての業務をやってみろと焚きつける。
クオウは、戦闘は好きではない。
実力としては魔獣程度を始末するのは息をするよりも簡単な作業なのだが、ここで力を見せてしまっては再び戦闘漬けにされてしまうのは容易に想像できるので、ルーカスの発言には何も回答をする事ができない。
その態度をみて、ルーカスは更に激高する。
ルーカスとしては、命の危険が無い場所でコソコソしている臆病者が偉そうな事を言っている挙句、少し脅せば黙ってしまったのだから余計頭に来ていたのだ。
その勢いのまま、現実を把握できていないルーカスは言ってはいけない一言を口にしてしまった。
「貴様の様な口先だけの男は、我が至高のギルド【勇者の館】には不要だ。貴様程度ができる事務処理など、誰にでもできるからな。自分がギルドで替えの利かない人材だと勘違いしていたのか?残念だったな。貴様は今を持って【勇者の館】を追放する。目障りだから即刻出て行け!」
ルーカスは、クオウが言う事務処理は言う程大変な作業では無く、クオウ自信が楽をしたいために言っている事だと断じていた。
少しでも事務処理を経験して、実際の書類の山を見ればこのような妄言は出てこなかったのだが、後の祭りだ。
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