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調査依頼とギルド本部

 とあるダンジョン内部で存在が確認されている、Aランク魔獣であるランドルの調査依頼を受けた【癒しの雫】。

 個体の具体的な調査を行い、どれ程の戦力で倒せるかの指針にするためにギルド本部からの依頼によって行動する事になっている。


 行動を監視し、例えばどれ程水分を必要としているか、食事はどうしているか、どこかを怪我しているような行動は取っていないか、どのような魔術を使えるのか、ありとあらゆる可能性を探る重要な役目になっている。


 その情報を基に、対抗出来得る冒険者と必要な武具、魔道具を準備した上で出来るだけ安全に討伐するのだ。

 場合によっては、兵糧攻めのように接触を避ける方法での討伐も検討される。


 今回の対象はAランク魔獣に分類されているランドルと言う種類である為に、ここまで情報を集めて対策した上でも絶対に安全とは言えないが、他の活性化した魔獣の対処を大半の高レベルの冒険者が行っている以上、事前調査の重要性は増している。


 その重要な依頼を受けた【癒しの雫】唯一の冒険者であるフレナブルは、早速意気揚々とダンジョンに向かっていた。


 その腰には一般的な剣の長さの棒が装備されており、それ以外には武器らしき物、防具らしき物は一切装備していない。


 この棒、新たに【癒しの雫】のメンバーとなったミハイル達の作品で、魔力によって伸縮自在の棒、そして極限まで硬質化された棒だ。

 その両端には触媒が組み込まれており、魔術を事前に封入できる優れもので、既に封入済みなのだが、その他に性能確認のため、棒の中央部分にはミハイル達の改善のための情報収取用として記録用の魔道具も組み込まれている。


 クオウだけしか視界に入っていなかったフレナブルも、すっかり【癒しの雫】の仲間との行動が楽しくなったので、その仲間が作った武具の性能を試す事が楽しみで仕方がなかったのだ。


 フレナブルの意識が大きく変わったきっかけは、クオウが【癒しの雫】のメンバーと活動するのをとても嬉しそうにしているからだ。


 クオウは、事務処理に達成感を見出してこの道に進んだのだが、総合的に考えると、仲間のために何かをする事で達成感を覚えていたのだろう。

 その達成感に気が付いた最初のきっかけが、事務仕事だったに過ぎないのだ。


 もちろん、いくらフレナブルが【癒しの雫】のメンバーを気に入っているとはいえ、敬愛するクオウを裏切るような行動を取れば、たとえシアと言え、容赦なく粛清するのは間違いない。


 フレナブル自身も自分の変化には気が付いており、クオウと共に人族(の一部)と活動するのも楽しい物なのだと微笑みながらダンジョンに向かっている。


 その頃、ダンジョン内部とギルド本部でもかなりの動きがあったのだ。


 ギルド本部では、昨日ルーカスと本部ギルドマスターであるツイマからの屈辱的な謝罪要求に飲み込まれたミバスロアが荒れていた。

 

「ですから、ギルドマスター。お断りしますと何度も言っているのです。そもそも【勇者の館】からの依頼のはずなのに……自分達の依頼なのに書類を出していないのですよ?ルーカスさん(・・)の探索と言う事で書類無しで緊急受理しましたが、本来はその後すぐにでも提出されるべきものです。散々提出を要求したのに、それを咎めたのはギルドマスターであるツイマさん、あなたですよね?」


 ギルド本部では、ミバスロアが怒りの表情でギルドマスターであるツイマに怒鳴っている。


 【勇者の館】ギルドマスターのルーカスがギルド本部に来て、本部への書類提出を要求したミバスロアを理不尽に糾弾し、あろうことか、それにギルド本部のマスターであるツイマが追随したのだ。


 その後、やはりその書類がないと探索に参加した冒険者に支払う報酬の立替分を【勇者の館】に請求できない事を今更ながらわかったツイマが、改めて書類を提出するように【勇者の館】に要求しろと命令した事が発端だ。


 その他にも、【勇者の館】からは通常の魔獣に関する書類も提出されておらず、こちらの報酬の支払いに関する処理も最後までは出来ていない。


 質の悪い事に魔獣納品に対する報酬支払は行われ、魔獣から得られた素材を依頼元や一般向けに本部が販売するのだが、書類がないおかげで、入手した魔獣と、そこから得た成果物である各種素材の金銭的処理が上手く行っていないのだ。


「だが、お前が【勇者の館】担当だぞ、ミバスロア。仕事を放棄するのか?そもそも書類がなければギルド本部に対する利益が正確に出なくなる。つまり、お前の報酬も出なくなる可能性もあるのだぞ?」

「ですから、その仕事を頭ごなしに否定したのは貴方ですよ?私のやり方がお気に召さなかったのであのような謝罪をさせたのでしょう?ならば、貴方自身で思う通りにすればよいでしょう?それに、私達の報酬が出ないとなった場合の責任は、当然このギルド本部を統括しているギルドマスターにあります。先ずは自身の報酬をカットして職員に配分するのが筋ですよね?」


「良いのか?そんな事を言って。お前の言葉は仕事の放棄とみなすぞ。その場合、二度と【勇者の館】担当にはなれないと思え!」


 今までの【勇者の館】は、ギルド本部に相当な利益を落としてくれる上得意と言える存在なのだ。


 担当冒険者ギルドの成果に応じて受付の評価も比例するので、ミバスロア本人としても今迄に相当な益を享受していたと言える。

 もちろんミバスロアもラスカ同様、仲間の受付に還元はしているのだが……


 その担当から外されると確実に受付としてミバスロアの評価は下がるのだが、更に二度と【勇者の館】担当には戻さないと脅しをかけているツイマ。


 流石にここまで強く言えば矛を収めるだろうと思っていたのだが、ミバスロアは意に介さずにこう言い放った。


「もちろん構いません。むしろ此方からお願いしようと思っていた所ですよ。あんなふざけたギルドの担当なんて願い下げです。そもそも、最近は辛うじて提出されていた書類も目も当てられないほどの出来でしたからね。余計な手間がなくなる分、心労も減って効率が上がりますよ」


 意図しない回答を聞いて固まるツイマをよそに、ミバスロアはさっさと受付に戻って業務を開始してしまっていた。


 ツイマとしては、あれ程の利益を叩き出してきた【勇者の館】担当希望者は殺到すると思っているので、ミバスロアの評価を意図的にかなり下げるだけで収めようと考えていた。


 ツイマは知らない。


 今まではクオウによって作成された書類のおかげで、ギルド本部の担当受付は全く手間をかけずに全ての処理が行えていた事を。

 そのクオウがいなくなってから、目に見えて【勇者の館】の書類が煩雑になり、最終的には提出すらされなくなっている事を。


 他の受付もその状態を理解しており、二日前の【勇者の館】ギルドマスターであるルーカスの横柄な態度と対応したツイマの態度から、誰しもが【勇者の館】の担当になりたがっていなかったのだ。

 あれ程の地雷を引き受ける奇特な人材は、この場にはいなかった。


 加えて毎日のように只々嫌みを言いに来る、元同僚であり現【勇者の館】の受付であるエリザの対応もする必要が出てきてしまうので、追加報酬を貰っても誰一人として引き受けようとは思っていなかった。


 受付達の意思を知らないツイマは、次の担当を誰に指名するかを悩んでいたのだが、そこに毎日のように本部にやって来るエリザが現れた。


「あら、ツイマさん。貴方がここに顔を出しているなんて、珍しいじゃないですか。【勇者の館】担当受付が不甲斐ないので、監督でもしているのかしら?」

「これは、ようこそお越しくださいました。えぇ、エリザさんの仰る通りですよ。ギルマスとしての責務ですな。ハハハハ」


受付達に【勇者の館】に対する嫌悪感を上塗りして見せたツイマとエリザ。


 その後ツイマは、選定した受付に【勇者の館】担当になるように交渉するのだが、どれだけ報酬の増加をちらつかせても、頑として首を縦に振らなかった。どの受付も……だ。


 結局、ギルドマスター自らが対応せざるを得ない状況になったのだ。


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