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【勇者の館】の業務

「ルーニー、ルーニーは何処!さっさと呼んで!」


 ギルド本部から戻ってきたエリザは御立腹だ。


 いつものようにギルド本部のクエストを軽く物色するついでに元同僚の受付達を見下してやろうと向かったのだが、その結果は【勇者の館】の事務処理の不備だけではなく、直近の依頼未達成率、更には魔王討伐に向かえていない事を改めて厳しく指摘されてしまったのだ。


 エリザとしては如何ともしがたい所はあるのだが、事務処理の不備については納得が出来なかったのだ。

 未だかつてそのような事は一切言われた事は無く、むしろ素晴らしい処理だと褒められた事すらある。


 確かに冒険者達の負傷による魔獣討伐実績の減少や、それに伴う武具の手配、報告の業務は増えているだろうが、それにしてもあそこまで小ばかにされるような事は無いはずだと怒り心頭だったのだ。


 そこで、自分自身の業務である受付を統括しているルーニーを呼び出した。


 本来はルーニーの方が立場は上のはずだが、元ギルド本部の肩書と、ギルドマスターであるルーカスのお気に入りという事も有り、まるで部下のように接しているのだ。


「どうしましたか、エリザさん」

「どうしたじゃないわよ!本部でミバスロアに【勇者の館】の事務はどうなっているのとバカにされたのよ!どうなっているのよ!」


 見下している相手に見下された事が許せないエリザ。

 感情をむき出しにして、一応上司のルーニーに詰めよる。


 受付としての業務は冒険者の対応の他に事務処理も一部含まれているのだが、その処理すら真面に出来ないエリザは何故業務が滞っているのか理解できない。


「エリザさん、ご存じの通りに元【鉱石の彩】の武具の性能が悪く、失敗が続いておりました。その処理が追い付かず、更には新たな武具の依頼業務もあって、少々遅れが生じているのです」

「その事も言われたわよ。【勇者の館】の内部で武具は充当できないのかしら?優秀な人材が揃っているでしょう!それに、魔獣の討伐実績も下がっているなんて余計な事も言われたのよ!なんでこんな事をあいつら程度に言われなくてはならないの!あなたはどれだけ無能なのよ!」


 一応部下であり、正直仕事ができない人物にこう言われてはルーニーとしても面白くない。


「もちろん武具の内製はすでに対応を始めていますよ。それに、今回はルーカス様探索によって【勇者の館】所属Aランク冒険者も狩りだしてしまった分、討伐実績が下がるのは仕方がないでしょう?」


 ギルドマスターの部屋の隣を与えられているエリザの部屋でやいのやいのと騒いでいるので、当然ルーカスも騒ぎは聞こえている。


「お前ら、煩いぞ!」


 隣の部屋から、廊下をまたがずに直接入れる扉が開きルーカスが入ってくる。

 何故このような部屋の構造になっているのかは、お察しの通りだ。


「ルーカス様。実は今本部に行ってきたのですが、そこで事務処理が大きく滞っていると言われたので、責任者(・・・)であるルーニーに事情を聞いていたのです」


 ルーカスが入ってきた直後に豹変し、シナシナとするエリザ。


「何?本部が俺達【勇者の館】にクレームだと?それはミバスロアか?」


 国家の英雄である自分、そしてその自分のギルドに文句を言われたと言う事実を聞かされて我慢ができないルーカス。

 その出所が担当受付のミバスロアである事を確認すると、何も言わずにエリザの部屋から出て行く。


「これで暫くは大丈夫でしょう。ルーニー、その間にあんな奴らに文句を言われないように手を抜かずにしっかりと事務仕事を片付けて頂戴。それがあなたに出来る唯一の事でしょう?理解出来たら、もう行って良いわよ」


 ヒラヒラと手を振りながらルーニーに背を向ける


「……失礼します」


 既にエリザの視線が自分を向いていない事から、睨みつけるように見つつも退室するルーニーだ。


「フン。あんな小娘が偉そうに。そもそも事務処理を一切していない飾りだけの受付など止めてしまえば良いのだ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 再び受付にルーニーが戻った頃、ルーカスはギルド本部に来ていた。


「おい、ミバスロア。お前、随分とエリザに偉そうな事を言ったらしいな。たかが一介の受付が国家の命運を担っていると言っても過言ではない【勇者の館】に対して喧嘩を売るとは、良い度胸だ。ギルマスを出せ!」

「ルーカス様。お言葉ですが、【勇者の館】からの提出資料が滞っているのは事実です。それも、ルーカス様探索関連の依頼に対する書類すら未だ【勇者の館】から来ておりません。緊急事態という事で暫くは目を瞑りましたが、【勇者の館】のために動いたのですから、速やかに提出いただきたいのですが」


 まさかミバスロアに反撃されると思っていなかったルーカスは少々勢いを削がれるが、後半の緊急事態、そう、自分が醜態を晒した件を追及されると、再び導火線に火がついたように攻撃的になる。


「やかましい!お前程度に何が分かる。【勇者の館】は国家からの依頼でこの身を削って行動しているんだぞ!何も危険のない仕事しかしていない受付がゴチャゴチャ言う資格はない。そもそも、偉大なるSランクであるこの俺に探索がかかること自体がおかしいと思わなかったのか?その頭は飾りか?」


 探索依頼は、ミバスロアの前で騒ぎ立てているルーカスのギルドである【勇者の館】からの依頼であったにもかかわらず、明後日の方向のクレームをつけている。


 上級顧客であり、確かに国家の命運を握っている立場のSランクギルド【勇者の館】のギルドマスターの剣幕に、奥からギルドマスターであるツイマが顔をだす。


 元Aランク冒険者ではあるのだが、既に引退して本部ギルドマスターと言う立場になってからは、すっかり腑抜け、日和見主義で生きている男だ。


 そんな男であるが故、【癒しの雫】の活動停止期間や【鉱石の彩】の資格剥奪などを受け入れてしまうのだ。


「これはルーカス()。どういたしましたでしょうか?」

「フン。お前は一介の受付如きが、この俺に対してクレームをつけている事を知っているのか?」


 ミバスロアを睨みながら、きつい口調でツイマに告げるルーカス。


「え?いいえ、知りませんが……おい、ミバスロア、どう言う事だ?」

「はい。今までの討伐関連書類、少なくとも数か月分が滞納されています。また、前回の【勇者の館】からの緊急依頼に対する書面も未提出です。その事を指摘させて頂きました」


 どう考えてもミバスロアは正しい事を言っており、最大限【勇者の館】に配慮していた結果なので、ミバスロアとしてはギルマスのツイマが上手く調整してくれるだろう。最悪でも、もう少し期限を延期した状態での提出という事で調整をしてくれるだろうと思っていたのだが、ルーカスの一言で状況は一変する。


「聞いたかツイマ。この俺、そして俺のギルド【勇者の館】に対する挑戦と受け取っても良いのだろうな?」

「滅相もありません、ルーカス様。おい、ミバスロア!ルーカス様に謝罪しろ」


 想定とは真逆、いや、それ以上の不条理な行動を取られてしまったのだ。


「早くしろ、ミバスロア。できなければお前はこの場で首だぞ!」


 そうツイマに脅され、悔し涙を流しながら謝罪するミバスロアを見て、満足そうに出て行くルーカス。

 もちろん書類不備は担当受付の評価に直結するので、これを機にミバスロアは【勇者の館】担当を降りるのだった。


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