【鉱石の彩】
漸く軌道に乗り始めた新星【癒しの雫】のギルド本部受付担当であるラスカ。
そのラスカは【癒しの雫】を信じてはいるのだが、長きに渡ってギルド本部に多大な貢献をしている【勇者の館】の力に抗えない事は分かっているクオウ達。
そんな中、冒険者が一切いないギルドであり、こちらも同じく【勇者の館】によって不条理なクレームを付けられ、降格が確定していた【鉱石の彩】。
今回の一件で、ある意味巻き添えを食ってギルド資格剥奪の処置が決定してしまったと聞かされた【癒しの雫】ギルドマスターであるシアは、本部受付のラスカを助ける意味でも、【鉱石の彩】を助ける意味でも、そして自らのギルド【癒しの雫】を大きくする意味でも、新規メンバーとして加入してもらおうと提言したのだ。
実際に、【鉱石の彩】が加入すればクオウやフレナブルが懸念していたシアの安全は担保しやすくなる。
基本的に鍛冶士や鑑定士、錬金術士等はギルド外部での活動を行う事がほぼ無く、クオウやフレナブルがギルド不在の場合の防衛戦力となる。
更に、かなりレベルの低い触媒を作ってもらう事によって、シアの安全確保のための弱めの魔術を封入する事が出来る可能性が高いからだ。
片や救済とギルド発展、片やギルドマスターであるシアの安全確保と言う若干の思惑のズレがあるのだが、【癒しの雫】の意見は一致を見た。
「マスター、それは良い考えですね。ラスカさん、【鉱石の彩】の方々に是非加入いただきたいと打診頂けますか?」
「……ありがとうございます。【鉱石の彩】の皆さんもきっと喜んでくれると思います」
【鉱石の彩】がギルド資格を剥奪されると、個人で細々とした依頼を受けて生計を立てざるを得なくなる。
正直、生活できないレベルになってしまう事は容易に想像できるのだ。
最悪の事態は回避された為、ラスカは再び【癒しの雫】に深々と頭を下げると【鉱石の彩】に向かって行った。
「は~、ルーカスは何をやっているんだ」
「クオウ様が以前所属されていたギルドマスターですよね?ちょっと行ってお灸をすえてきましょうか?」
仮にも国家が認めた人族最強Sランクに対して、一ギルドが承認できる最高位であるBランクのフレナブルが言うセリフではないのだが……
既にシアも、フレナブルの実力はルーカスよりも上で間違いないのではないかと思っているので、反論は口にしなかったのだが、クオウが止めた。
「フレナブル、余計な騒ぎは起こさないで。タダでさえ面倒くさい事を言ってきているんだから、ラスカさん達に更に迷惑がかかるでしょ?」
「そうでした。申し訳ありません、クオウ様」
何でも言う事が出来るギルドになっている事が嬉しいシアは、気合を入れて再始動する。
「フフフ。じゃあ、今日も一日頑張りましょう!」
こうして、【癒しの雫】の活動は始まる。
クオウは【鉱石の彩】が加入するであろうと踏んで、その事務処理、シアとフレナブルは近所の手伝いレベルの依頼を共に受けに行った。
昼も過ぎ、夕刻近くになるとシアとフレナブルもギルドに戻って来るので、クオウは食事を準備して二人の帰りを待っていた。
【勇者の館】時代とは異なり少々時間に余裕があるクオウ。
何の気なしに作ってみたのだが、その食事を食べたシアとフレナブルが絶賛するものだから作るのが楽しくて仕方がなくなっていた。
栄養、調理方法、色々考える事が事務処理と同じく頭を使う行為に似ていたからだろうか?
それとも、このギルドの雰囲気が大好きで、更に楽しくなるための行為が嬉しくて仕方がないのだろうか?
何れにしても料理にも目覚めたクオウは、今日も楽しく調理して二人と共に夕食を食べ始めた。
「クオウ様、今日も素晴らしいお食事、ありがとうございます。本当に心から温まるこのお料理、流石です」
「本当ですよね。クオウさんも疲れているのに、申し訳ありません。でも、すっごく美味しいです」
喜ぶ二人を見て、自然と笑みがこぼれるクオウ。
実は初めて料理を出した次の日、クオウが料理をしようとした所にこの二人は突撃して手伝おうとしてきたのだが、結果は……現状手伝わせていない事で察してほしい。
しかし、片付けに関しては率先して二人が行うので、クオウは手を出さない。いや、手を出すなと厳命されている。
シアとフレナブルにしてみれば、敬愛する、そして尊敬しているクオウに片付けまでさせられないと言う思いからの行動だ。
こうして食事が進んでいる時に、表が少々騒がしくなった。
癒しの一時を邪魔された三人は、ほんの少しだけ眉を顰める。
しかしその声を良く聞くと聞いた事のある声だったので、三人共に食事を中断してギルドの正面に向かう。
「【鉱石の彩】の皆さん。その……この度は……」
そう、【癒しの雫】に来たのは【鉱石の彩】のメンバーである三人、鍛冶士ミハイル、錬金術士ロレアル、鑑定士バーミルの三人だったのだ。
【癒しの雫】も被害に遭ったが、同じように謂れの無い【勇者の館】からのクレームでギルド資格剥奪まで行われる事になってしまった【癒しの雫】のメンバーを前に、何を言って良いか分からずに口ごもる、ギルドマスターであるシア。
「ハハハ、シアさんよ、いや、マスター。俺達を救ってくれて感謝する。これから宜しく頼むぜ」
「もう駄目かと思っていた所を救って貰ってありがとう」
「これからは、この【癒しの雫】の武具、魔道具は全て任せてくれ!」
「ハイ!ありがとうございます。これから宜しくお願いします!」
思った以上に吹っ切れているような三人を見て、シアは喜んでいつも通りにさわやかな笑顔で返事をするのだが、元【鉱石の彩】のギルドマスターであるミハイルの言葉に、クオウとフレナブルと共に黙ってしまう。
「それで、急で悪いんだが……情けない話、俺達文無しで家も無いわけよ。後払いってことで、少し助けて貰えないか?」
「……どう言う事ですか?」
ミハイルの説明によれば、【勇者の館】によるクレーム、供給した武具の性能が悪いためにギルド所属冒険者が怪我を負い、その補償としてギルドの敷地、建屋ごと強制徴収されたと言うのだ。
ここまでされて、半ば強制的に吹っ切れた三人がこの場にいると言う訳だ。
「そんな事が……わかりました。少し部屋は狭くなってしまいますが、これからは【癒しの雫】の二階で過ごしてください。敷地も拡張しているので、そこに新たな建屋を建てるまでは少し我慢して頂けますか?」
こうして、本当に着の身着のまま追い出された【鉱石の彩】の三人を優しく【癒しの雫】は迎え入れた。
もちろんクオウが急ぎ追加の食事を作り、その後は新規メンバー加入の歓迎会と言う意味も含めて食堂で宴会を始めた。
酒が入ると本音が出る。
「畜生。必死であそこまで育てたギルドなのによぅ……」
そんな言葉を聞きながら、優しくフォローする【癒しの雫】の三人だった。
以前はクオウと最近はシアも加わり、他には一切の関心を示さないフレナブルだったが、【癒しの雫】の関係者、もちろん本部担当受付も含めて、興味、保護の対象に入ったようだ。
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