ギルド本部へ
「それじゃあ鬱陶しい人物もいなくなった事だし、一旦ギルドを閉めて本部に行きましょうか、マスター!」
「えっ、何故ですか?」
「それはもちろん、魔道具をDランク対応にして貰うためですよ」
ギルド設立時に配布される、ギルドカード作成魔道具。
ランクダウン時は自動的に遠隔で処理がなされ、本部職員が来訪して該当ギルドにその旨通知した際に、所属のギルドメンバー全員のカードを改めて新ランクで作成させる。
しかしランクアップの際には、該当ギルドの情報に齟齬が無いかを詳しく確認する事を名目として、最低でもギルドマスターか準ずる者が魔道具と共に本部を訪れる必要があるのだ。
クオウは、既に最高峰として君臨していたギルド【勇者の館】ではこの処理を行った事が無く、この処理自体も楽しみで仕方がなかった。
シアと比べ、どちらが子供っぽいか分からないほど嬉しさを一切隠さずに行動している。
そんなクオウの姿を嬉しそうに見つめるフレナブルと、余りにも事態が急展開しているので少々ついて行けないシアだ。
「お待ちしておりました、【癒しの雫】の皆さん」
本部に到着すると、笑顔で担当受付になっているラスカが迎えてくれた。
「では、この古い魔道具は折角ですから新品に交換しましょう。こちらで回収させて頂きますね。新たなDランク対応の魔道具はこちらです。旧カードをこちらに差し込んでいただけますか?」
指示されたとおりに三人共にカードを処理する。
変更されたのは、裏面に記載されているギルドレベルの記載だけなのだが、シアはその表示を見て本当に嬉しそうな表情をしており、その姿を見たクオウとフレナブルも笑顔になっている。
ラスカも笑顔で作業終了と告げようとした所、横から怒りの声が聞こえてくる。
「おい、なんで俺んところがランクダウンなんだよ!しっかり説明しやがれ!」
「落ち着いて下さい、ミハイルさん。以前から申し上げていたではないですか。冒険者のいないギルドの評価は思った以上に厳しくなると。今回は、【勇者の館】からミハイルさんの所の武具に対するクレームが立て続けに入っているのです。その結果を受けての処置になります。直接的に評価が得られないので、どうしても武具販売先のギルドの評価がミハイルさんの評価になってしまうのですよ」
このミハイルと言う男、本人は鍛冶士なのだが、その仲間数人だけでギルドを立ち上げて活動しているのだ。
鍛冶士の成果はその武具になるのだが、その性能だけでは評価はされない。
実際に使用する者の評価に依存してしまうのだ。
例え強力な武具を作成したとしても、使用者に合致しなければ戦闘力の増加としては認められないと判断されるからだ。
結果、その道具の評価は武具を使用した冒険者からの評判で全てが決定してしまう。
今回は【勇者の館】からのクレームと受付が言っている通り、魔王討伐と共に受けている依頼の魔獣対応に向かっている【勇者の館】所属冒険者からの多数のクレームによってランクダウンと判断されてしまったようだ。
実際の所、それぞれの冒険者に合致した素晴らしい武具を作っている事は間違いないのだが……。
他人に依存してしまう評価が全ての状態でCランクにまで上がっていたのだから、本当の実力の持ち主達なのだろう。
例えば、冒険者の調子自体が悪かったり、身の丈を考えない強敵に立ち向かったりした場合でも、何故か武具に対する評価が下がってしまうのだ。
冒険者側としては自分の実力不足と認めたくないため、武具のせいにしてしまうからだ。
【勇者の館】からのクレームは、実は大半が所属冒険者の実力を無視した形で魔獣に対応させ続けている事が原因だ。
逆にミハイル達の作った武具のおかげで、これまで死者が出ていない事が現実なのだが、本部ではそこまで確認する事は不可能なのだ。
その辺りも、ミハイルがギルドを設立するときに確実に説明している受付。
明らかに不利になる可能性が高いので、心配して説明していたのだが、危惧していた通りになってしまったのだ。
「見苦しい。自分の力量不足を棚に上げて、このような所で騒ぎ立てるのは品格を伺われますよ?」
そこに現れた女性……
「エリザさん……」
ミハイルを担当していたギルド本部の受付も、この女性を知っている。
以前ギルド本部で共に仕事をしており、いつの間にか【勇者の館】に転職していた元同僚だ。
「久しぶりね。相変わらずセコセコとこんな汚れ仕事を好んでしているなんて、私には信じられないわ。まぁ、良いわ。それで、私達栄えある【勇者の館】からの依頼。そこのミハイルさんの【鉱石の彩】を除いたCランク以上、あ、ごめんなさい。貴方の所はもうDランクだから関係ないわね。Cランク以上のギルドに所属する鍛冶士に武具の製作を依頼したいの。お願いできるかしら?」
「エリザさん、【勇者の館】にも練度の高い鍛冶士を抱えているはずですが?」
「はぁ~、本部の受付の癖にわかっていないわね。私がいた頃と違って、相当受付の力量が下がっているのね。良い?私達【勇者の館】は新魔王のみならず、魔獣の始末も請け負っているの。高レベルの冒険者はひっきりなしに戦闘しているのよ。当然武具の消耗も激しい。内部の鍛冶士だけでは補えない事位、理解できないかしら?」
「……承知しました」
「わかれば良いのよ。じゃあ失礼するわ。関連の書類は【勇者の館】に持ってきてちょうだい。それと、ミハイルさん。貴方の所とはCランクになったら再度取引をさせて頂きますので悪しからず」
「な!おい、それは横暴だろうが!」
ミハイルの言葉に一切耳を貸さずに、エリザという女性はさっさとギルド本部を後にしてしまうと、その姿を見ていたミハイルは悔しそうに呟く。
「くっ、これからどうすりゃ良いんだ。他のギルドはおそらく【勇者の館】から圧がかかって俺達から武具を購入してくれねーだろうな。チクショウ」
せっかく楽しい気持ちになっていた所に水を差された【癒しの雫】だが、心優しいシアは泣きそうな顔をしてミハイルを心配そうに見ている。
その姿に気が付いているクオウとフレナブル。
こんな気持ちのままギルドに戻るわけには行かないと思い、動く。
「こんにちは。俺達、【癒しの雫】と言います。少しだけお話しさせて頂いても良いでしょうか?」
「ん?あぁ、すまねーな。みっともない所を見せた。【癒しの雫】と言えば、あのとんでもねー魔獣を収めたギルド……であっているか?」
最早どうしようもないと悟ったのか諦めたのか、落ち着いたミハイルは担当していた受付を見ると、その受付は頷く。
「飛ぶ鳥落とす勢いと言われている【癒しの雫】が、落ちぶれ始めている俺に何の用だい?」
落ち着きはしたものの、やはりショックは隠しきれないようで、少々嫌みっぽい言い回しになってしまっているのだが、気持ちは分からなくもないのでいつもの通りにこやかに対応するクオウ。
これも事務仕事の一環だと思えば、楽しくなってくるのがクオウの凄い所だ。
「実は、俺達はここにいる三人で【癒しの雫】を大きくすると誓いました。既にご存じかもしれませんが、ギルドマスターのシア、事務職のクオウ、冒険者のフレナブルで活動していますので、もちろん鍛冶や鑑定、錬金が出来る人物はいません。今後ギルドを大きくするためには、そう言った知り合いが必要なのです」
ここまで来て、シアはようやくクオウが目の前のミハイルを助けようとしている事に気が付いて笑顔が戻る。
「そこで、先ずは俺達にミハイルさんの仕事を見させていただけませんでしょうか?」
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