Dランク昇格とダンジョンでの依頼
「おめでとうございます!【癒しの雫】はDランクに昇格しました」
手元資金を元手にギルドの修繕と一部拡張、消耗品の備蓄、更には今後の繁栄を見越して周囲の土地の購入手続きを行っていた【癒しの雫】。
裏手には、鍛冶士や錬金術士が仲間になった時の作業場を作る事にしており、ギルド本部に納品する時に素材として納品できるようにする為の解体場も併設する予定だ。
この作業についてはクオウやフレナブルも出来なくはないのだが、ギルド本部に対して依頼を行う事で更に顔を売り、鍛冶士や鑑定士、錬金術士などに対しても知名度を上げる事に繋がるので、【癒しの雫】として依頼している。
この事務処理もクオウは嬉々として作業し、慣れからかあっという間に終わらせてしまっていた。
実は報酬を使わずとも、フレナブルが魔王城から持ってきた調度品を一つでも売れば同等以上の金額が得られる事は、【癒しの雫】の三人は誰も理解していない。
超高級な壺すら、ただの水入れとして日常的に使用していたりするほどだ。
と、そんな【癒しの雫】だが、ギルドマスターであるシアも、今迄お世話になっていた依頼者との繋がりも大切にしているために、今日も今日とて町内の人々からの直接的な依頼、ギルドの評価には一切繋がらない依頼を受けている。
そんな中で、ギルド拡張の依頼に対して募集した人数が集まったとギルド本部から連絡を受けて、その状況を確認しに来たクオウにかけられた言葉が冒頭のギルドランクアップの報告だったのだ。
「ありがとうございます。これからも頑張ります。【癒しの雫】を今後ともよろしくお願いします!」
クオウは嬉しそうに受付達に挨拶する。
作業をしている受付以外は、皆が拍手を送ってくれていた。
ここで、少し前の夕食をご馳走した効果が出ているのかもしれない。
「はっ、Dランクで喜ぶとは、レベルが低い」
そんな声も聞こえるが、一切気にしないクオウ。
これからギルドを大きくする為に必要な事務処理も楽しみだが、ギルドが大きくなる事にも心を躍らせていた。
【勇者の館】では一度たりとも感じた事の無い感情なのだが、既に最高峰のSランクギルドであったために、昇格と言う経験がなかった事が原因だろうと考えていた。
とても楽しい気分になりギルドに戻ると、フレナブルと、既に依頼を終わらせているシアが共に拡張予定である裏庭の雑草を仲良く毟っていた。
「皆、この度【癒しの雫】はDランクに昇格しました!これで、ダンジョン侵入許可が出る事になります!」
「本当ですかクオウさん?やった!これでお父さんとお母さんに報告できます!」
「良かったですね、シア様。これからも頑張りましょうね!」
裏庭でワイワイ騒ぐ三人。
とてもDランク冒険者ギルドとは思えない程の少ない人数で、仲良く活動できている。
「おい!誰かいないのか!!」
そこに、ギルド受付方面から大声が聞こえてくる。
三人は慌てて受付方面に入ると、そこには【勇者の館】所属であり、最後に【癒しの雫】に所属していた冒険者のマルガがそこにいた。
シアはにこやかな表情を一瞬で引っ込め、事務的な対応を始めた。
「お待た……、あなたですか。今日はどう言ったご用件でしょうか?」
「シア、今回Dランクに上がったんだってな。だがよ、実際に活動できる冒険者はたった一人。鍛冶士もいなけりゃ鑑定士もいない。治癒士もいないのだから、万が一が有ったらすぐにFランクに戻る事になるだろ?そうなる前、正に今の絶頂期に売りに出した方が利口だと思うぜぇ?」
呆れた物言いにため息をつきつつ、シアは何故か自信満々のマルガを追い出した……




