その後(4)
「今日もダンジョンは問題ない……な?大丈夫だよな?」
不安そうに、自らが管理しているダンジョンの状況を何度も確認しているゴクド。
「大丈夫だと思います、ゴクド様。仮に、本当に万が一にも魔獣が溢れても【癒しの雫】に依頼をすれば問題ないのですから」
魔王国の魔王城の一室で、魔王ゴクドと四星筆頭のジスドネアがダンジョンの管理状況について話している。
一応ダンジョンの管理は魔王が行っている事になるので不手際がないかを毎日同じように確認しているのだが、ゴクドとしては何かあって尻拭いを【癒しの雫】にさせる事等恐ろしくてできる訳もない為に、少々怯えつつも確認している。
何故ここまでゴクドがダンジョン管理に神経質になっているのかと言うと、実際に一度だけ管理を怠り、魔獣が溢れてしまう事態があったのだが……
それがジャロリア王国近くにあったダンジョンなので、気が付いた直後に慌てて対処しようとしたのだが、自分達が出撃する前に【癒しの雫】がさっさと全ての魔獣を始末してしまった事がある。
ギルドマスターのシアやクオウからは何も言われる事は無かったのだが、後日フレナブルが乗り込んできて大説教を食らうとともに、別の日に突然やってきたミハイル達からは、次回からは魔獣が溢れる頻度をもう少し多く、更には魔獣ももっと屈強な物にしてくれと言うリクエストがあったのだ。
どうすればわからなくなってしまったゴクドだが、今の所は必死でダンジョンを管理して異なる意見の板挟みにあうような状況を作り出さないように努めている。
その時に溢れてしまった原因は、次回【癒しの雫】に訪問時の手土産を何にすべきか悩み続けていた為に自然繁殖してしまった魔獣を制御する事を忘れていたからで、おなじみランドルやレムリニア、ゴスモンキやスピナと言った危険な魔獣が一気に溢れてしまったのだが、その全てを【癒しの雫】が瞬殺していた。
その当時の事を思い出したゴクドは、ジスドネアと昔話に花が咲く。
「ジスドネア。俺達の常識ってまだまだ良心的だと思わないか?」
「そ、その通りですね、ゴクド様。上には上が、下には下がいる為に考え始めればきりがないですが、少なくとも【癒しの雫】のどのメンバーよりも常識に溢れていると思います」
新規加入している受付の二人、ラスカとミバスロアも武具を渡された上で【癒しの雫】の中で訓練済みなので、魔王の常識すら凌駕するレベルの残念な常識になっている。
共に行動しているのが【癒しの雫】のメンバー達なので、戦闘面に関して言えばこの状況は必然とも言える。
「そう言えば、この間の話は聞いたか?ジスドネア」
「この間とは……どの事でしょうか?」
「確かに、【癒しの雫】に関する非常識な話は腐るほどあるからな。今回俺が言いたいのは……」
あれほどの悪行を働いていた魔王に非常識と言われてしまっている【癒しの雫】。
少し前に、ジャロリア王国の辺境で過酷な作業をしている元国王のホトム・ジャロリアやルーカスと【勇者の館】の幹部達が、あまりにも過酷な労働であったために無謀にもストライキを起こしたのだ。
「いつまでこんな環境で仕事をさせるつもりだ!大した飯も食わせないで、仕事だけは増えやがる。やってられるか!」
辺境の砦を作る作業現場にいるルーカス一行は、毎日岩を切り出して調整し、運搬して積み上げた上で補強すると言う作業を休みなく、当然天候や気温などお構いなしで毎日行っていた。
通常の作業員は天候等も考慮されるのだが、罪人であればそのような配慮は一切なされずに疲労や心労は蓄積する中で、ついに爆発したのだ。
人相手では強気になれるルーカスに乗るように、【勇者の館】の幹部であった事務職のルーニー、受付のエリザ、冒険者のドリアス、そして元ギルド本部のマスターであったツイマが、あまりにも体力がなくへばっているホトム・ジャロリアを尻目に騒ぎ出す。
この場を仕切っている監督は、一応は元国王とSランカー一行と言う事で強硬な態度に出辛い事もあったのか、現国王であるサステナ・リビルに助けを求めた。
そうなると当然の流れとして【癒しの雫】に依頼が飛び、シアとクオウがこの件に対処したいと申し出る二人の意見を聴取の上で人員を派遣した。
その人員とは、元ギルド本部の受付であったラスカとミバスロア。
【癒しの雫】の小間使いとして四星がいる上、この程度の情報を秘匿する意義を見出せない【癒しの雫】のメンバーの考えもあってか、ゴクドも魔王城にいつつもその情報を得る事が出来ており、ゴクドの考えとしては、ないとは思うが、今後ルーカス達が自分達に粉をかけて来た時の対処の見本として【癒しの雫】の許可を取った上で現場を陰ながら見させてもらう事にしたのだ。
その間も、ルーカス達は非常に口うるさく態度も尊大で、死罪を何とか免れた……いや、最大の温情をもって見逃された事を忘れているかのようだ。
そこに到着するラスカとミバスロア。
この二人を見て一気に沸騰するのは、元上司であったツイマと散々二人を見下していたエリザだ。
「おい!お前等は【癒しの雫】に加入して悠々自適で良いかもしれないが、何故俺がここまで苦労しなくてはならない!散々ギルド本部で目をかけてやっただろうが!早くこの場から俺を救い出せ!」
目をかけるどころか目をつけてイビリ倒したと言う方が正解だが、ツイマは助かりたい一心で騒ぐ。
「そ、そうよ。この男はどうでも良いけど、私達は仲良くできていたでしょう?ちょっとした誤解からこんな事になったけれど、二人なら私の事を信じてくれるわよね?そうだ!あの魔ぞ……女性、何と言ったかしら?あの強い女性にも謝りたいのよ」