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ジャロリア国王の愚行(2)

 【癒しの雫】のギルド資格を剥奪した張本人(国王)自ら依頼を出したと知られれば、漸く国家としての体裁や国王としての威厳が復活してきた所に大きく水を差す事になるため、とぼける国王。


「聞こえなかったのですか?それと皆さん。今私が申し上げた通り、防壁が崩れた時に安全であった場所、そして皆さんが今無駄に称えているギルドが何をしていたか、何ができていたか、今一度考えた方がよろしいですよ?」


「き、貴様!騎士共!こやつを不敬罪で捉えろ!」


 国王の命令により、ガシャガシャと音を立てて謁見の間になだれ込んでくる騎士と、人相手では強気になれるルーカスも、いつの間にか手に剣を手にしている。


 本来謁見の間に武具の持ち込みは禁止されているのだが、話の途中でリビル公爵が反撃してくる事を予想して持ち込みを特例で許可していた。


「リビル、貴様は今ここで貴族の地位を剥奪の上で不敬罪、そして国家転覆罪として処刑する。っと、そういえば貴様には娘がいたな」


「陛下、その者(リリア)は私が責任をもって再教育致しましょう」


 これも筋書き通りの話であり、ルーカスは報酬の一部としてリリアをもらい受ける約束になっていたのだ。


 優雅に立ち上がり宣言するルーカスの持つ剣の切っ先はリビル公爵に向けられているのだが、この場でもリビル公爵はあきれたような表情をするだけで、何かを恐れているようには見えない。


 周囲の貴族達はリビル公爵の言う事には納得できる部分はあるのだが、目の前のルーカスが発している殺気によってその力を恐れ、逆らえるわけもなく立ち尽くしている。


「リビルよ。貴様を擁立している【癒しの雫】も同罪だ。よって、国家として【癒しの雫】の土地は没収する。異論は認めん」


 国家として動ける大義名分があれば、【癒しの雫】が反旗を翻したとしても非は向こうにあると言い切れると思っているジャロリア国王。


 当然不利になった場合には、友好国と思っているアルゾナ王国からの助力も得られると都合の良い事を考えていたりする。


 魔王国によって滅ぼされる一歩手前まで行ってしまった際に良心や常識は全て失ってしまった様で、残っているのは過去の栄光とプライド、権威と言った所だ。


 既に国家の信頼度は国王本人やルーカスを含めて最低になっているのだが、リビル公爵以外は自らの領地の復興作業に必死で、諸外国とそのような話をする機会もないために誰も知らない。


 憐みの目で周囲の貴族や国王、そして自らを始末するべく笑みを浮かべて向かって来るルーカスを見ているリビル公爵。


「随分と余裕だな、反逆者リビル(・・・)。俺は正義の名のもとにお前を切り捨てる。だが安心しろ。さっきも言ったように、お前の娘は俺がしっかりと再教育してやるからな。あの世で見守っていると良い」


「……はぁ~、これがSランカーですか。敵前逃亡する癖に威勢だけは良い下品な男。ジャロリア王国も仕えるに値しない国家に成り下がってしまいましたね。皆さんにも失望しましたよ。危機的状況の際に我先にと逃げて、領地を、領民を守ろうともしない。そこの態度だけは立派な男(ルーカス)と何も変わりませんね」


「ほざくな!」


 この危機的状況にも眉一つ動かさずに正論を平然と述べているリビル公爵。


 周囲の貴族は下を向き、ルーカスは図星をつかれて一気に近接して剣を振り下ろす。


「どこに行った!」


 しかし剣はリビル公爵を捉える事はなく、視界から公爵が消え去ってしまった。


「さすがはペトロさん。しかし申し訳ない。何もしていないのにこのような事を申し上げるのは少々恥ずかしいのですが、貴方の動きに私の体が付いてこないようで……彼方此方が痛いですね」


 ペトロの素早すぎる動きで救出されたリビル公爵だが、その勢いのせいで体の節々が痛いと恥ずかしそうに伝えている。


 情けない内容ではあるが、リビル公爵の声が謁見の間の相当上にある窓から聞こえるので、全員が反応して視線を向ける。


 そこには非常に不格好に肩に抱えられているリビル公爵と、黒装束に身を包んでいる謎の人物……公爵の話から、【癒しの雫】所属のペトロと言う冒険者がいた。


「【癒しの雫】か!ここで逃亡すれば、リビルと共に国家反逆罪の適用だ!そもそも謁見の間に侵入するなど言語道断!今ここで……」


 ここぞとばかりに御大層な態度で演説するルーカスだが、ペトロはその姿を一瞥すると話を最後まで聞く事もなく消え去る。


「うっ、うわぁ~~~~~~~~~」


 相当高い位置から飛び降りている恐怖で叫んでいる、リビル公爵の情けない声と共に……


「何をボケっとしておる!今すぐ反逆者リビルの屋敷と【癒しの雫】に向え!余は大陸に反逆者【癒しの雫】を追放すると宣言する!」


 謁見の間から騎士やルーカス達が勢いよく退出し、国王は魔道具の置いてある部屋に異動して、大陸中の各国に対してこう宣言した。


「余は、ジャロリア王国のホトム・ジャロリアである。この度アルゾナ王国所属【癒しの雫】がジャロリア王国に対する国家反逆罪と断定された。故に今から断罪する。各国にも協力を仰ぐ。特に所属国家であるアルゾナ王国にも正義の名の元に正しい判断を期待する」


 言い回しは少し弱いが、アルゾナ王国は間違いなく同盟国のジャロリア王国を担ぐだろうと無駄に自信があるので、少々穿った言い回しになっている。


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