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ギルド本部にて(2)

 通常では【勇者の館】が仕入れた素材を直接ギルド本部に納品する事は無いのだが、今日に限ってギルドマスターであるルーカスが納品に来ているギルド本部は少々ざわついていた。


 担当の受付であるミバスロアが対応しているが、受付に残されている職員は何かのトラブルかと心配していたのだ。

 と同時に、揉め事によって今日の食事会が延期にならないようにと祈っていたりする。


 そんな祈りがなされているとは知らない、素材納品場にいるミバスロアとルーカス。


「では、こちらでお願い致します」


 丁寧な対応をしているミバスロアではあるが、今日のルーカスの機嫌は非常に悪く、そっけない態度だ。


「態々その程度、言わずともわかっている!」

「……失礼致しました」


 腐っても相手はSランク、そしてSランクギルドのマスターであるので、いつも以上に丁寧に対応しようと心掛けているミバスロア。

 内心はこの態度に少々怒っているのだが、ルーカスの見た目、戦闘時の汚れと怪我があるので、そのせいでイライラしているのだと思い、今日の夕飯を楽しみにグッと堪える。


……ドサドサドサ……


 恐らく魔王領方面へ出撃したのだろう。

 ルーカスはかなりの種類の魔獣を魔道具から吐き出させる。


 ミバスロアは、吐き出されている魔獣を観察・鑑定しつつ、魔道具のボードにもその状態を記録している。


 その中身は、数が多いが最高でBランク。

 それも討伐時に余程余裕がなかったのか、複数での攻撃を行ったが如く体中に深い傷が散見されている。


 もちろんこの状態では査定に大きくマイナス評価が入ってくる。


 受付の経験、冒険者から直接感想を聞いた知識や彼らの実績から、この程度(・・)であれば、【癒しの雫】が持ってきたAランク一体の方が強敵だと判断した。


 そんな魔獣の束を見つつ、どのように始末したのかわからない程無傷で納品し、ギルドのメンバーも全員無傷であった【癒しの雫】と、始末した魔獣のランクは劣るが、その数だけはかなりある【勇者の館】を無意識で比較してしまっていた。


 内心こう思っているのだ。


『この数は素晴らしいけれど、本人達も怪我をしているようでは……ね。ギルドマスターでさえこの怪我ならば、他の人達はもっと大怪我をしているのではないかしら?』


 ミバスロアの想像は正しく、【勇者の館】に戻った討伐隊はギルドのポーションをふんだんに使って傷を癒している所だったのだ。


「これが全てだ。ところで今日【癒しの雫】が昨日と同じ納品をしたと聞いているが、本当か?」


 ルーカスは本題を切り出す。


 ミバスロアは慣れた手つきで査定をしつつも、お得意様であるルーカスの機嫌を損ねないように回答すると共に、何故ギルドマスターが直接納品しに来たのかを理解した。

 元部下であるクオウが所属するギルド【癒しの雫】が気になって仕方がないのだろうと判断したのだ。


「はい。昨日と同じAランクの魔獣を無傷で納品いただきました」

「……その入手方法は聞いたか?」


「いいえ、ご存じの通り(・・・・・・)冒険者の秘匿事項ですので、一切お伺いしていないと聞いています」

「チッ。で、あいつらの素材、どの程度になったんだ?」


 何故か査定額まで聞き出そうとするルーカス。

 ミバスロアとしてはデーターベースに記載されている情報を調べればわかるのだが、当人の許可なく開示する事は出来ない。

 そもそも、調べなくともある程度推測は出来なくては自分自身も査定などできないのだが……


 全くの無視とはいかないために、既に公知となっている事実を伝えるにとどめるミバスロア。


「申し訳ございません。個人情報になりますので開示する事は出来ませんが、一般的(・・・)な買い取り金額として、Aランクの魔獣はその状態、希少価値に応じて虹金貨1枚(1億円)~10枚(10億円)程度の買い取になっております」


 ミバスロアから希望していた回答が得られなかったルーカスは、面白くなさそうだ。


 Aランクの魔獣ともなればその存在も稀有であると言われているが、魔王領に近づいたり、ダンジョンの深層に行ったりすればざらにいるのだが、普通はそこまで辿り着ける冒険者はそうはいないので、これ程高額な報酬となっている。


 その実力は一体で町一つ平気で破壊できるほどの力が有るのが一般的なので、報酬額も相当ではあるが妥当な所だ。


 もちろん同じランクに括られている魔獣の中でも強さにばらつきはあるし、納品後ギルド本部として素材にして売り払うので、状態によっても大きく金額に差が出る。


 因みに今回クオウ達が納品したAランクの魔獣はフレナブルが適当に始末してきたと言う個体であり、Aランクの中位に位置する魔獣だ。

 しかし状態は極上であったため、一体目は虹金貨6枚(6億円)、二体目は色がついて更に白金貨50枚(5千万円)が上乗せされていた。


 しかしこの納品、ギルド本部からの依頼品ではないために、依頼達成の報酬は一切ないのは仕方がない。


 一方で【勇者の館】が今持ち込んでいる魔獣は依頼が出されている件であり、素材報酬の他に依頼達成報酬が支払われる。


「ルーカス様、本日の報酬はこうなっております」


 ミバスロアはボードをルーカスに見せる。

 そこには、凡そ虹金貨二枚弱(2億円弱)の金額が記載されていた。


 Bランクの魔獣は、上位個体で状態が良ければ虹金貨1枚(一億円)相当である事を考えると、良い報酬になっている。


 ルーカスはその金額をチラッと見るだけで何も言わずにギルド本部を後にした。


 比較対象となる【癒しの雫】の具体的な報酬が分からない以上、この場の報酬について“どうこう”するつもりは無かったのだ。


「今日はどうしたのかしら……って言わなくてもわかるわね。クオウさんに対する嫉妬以外に考えられないもの」


 肩をすくめながらミバスロアは受付に戻るのだった。


 残された解体士……極上の素材であるクオウ達の納品後に、おびただしい量の状態の悪いブツを見て、全員が嫌そうな顔をしていたのは言うまでもない。

 

「なんで今日に限って、【勇者の館】は素材で納品してねーんだよ!」

「まったくだ。あいつら無駄に解体士が揃っているんだから、解体後に持ってこいってんだよ!」

「こんな状態、普通の解体よりもさらに時間がかかるじゃねーか!」


 その日、解体士達は大幅に残業する羽目になりながら、必死で解体を行っていた。


 この納品自体は冒険者ギルドとして普通の行為であり咎められる謂れは一切ないのだが、クオウ達の納品が素晴らしすぎたために、何故か解体士達からの評判が一気に下がる【勇者の館】だった。


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