魔王国へ(2)
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「確かに相当な武具である事は認めよう。だが、魔族はその力が全て。人族の作った武具に頼る力など認めん!」
ゴクドはフレナブルの言葉に対して冷静にこう返したのだが、その中身は子供の戯言でも言っているかのようだ。
しかし本来の目的は達成することはできたので、内心笑みを浮かべている。
「偉そうに不思議な事を言うのですね。別に貴方程度に認めてもらう必要はありませんが……ですが、言いたい事はわかりました。この武具で力が上昇していると言いたいのでしょう?では、あなた方程度を躾けるのには過剰なので武具は使わないであげますね。弱い者イジメになってしまうのも本意ではないですから」
武具による戦闘力強化の情報を得ていたゴクドは、武具を使わないと言うフレナブルの言質を取れた事で有利に事が運ぶと強気になる。
「……おいフレナブル。調子に乗るなよ?元三席風情が!逆にその尊大な態度を俺達が躾け直してやる」
「フフ、可笑しいわね。俺達ですって、ラトール。偉そうな事を言っておきながら、一人では怖いみたいですよ。フフフ、私は問題ないから良いですけれどね」
本当は今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい気持ちをこらえつつ、全力で戦闘しても魔王国に影響がない位置まで高速で移動する。
「ここなら良いだろう。フレナブル、お前の鼻っ柱をへし折るだけではすまない事位は理解できているだろうな!あの邪魔な先代亡き今、この俺が最強魔族、魔王だ!」
「フフフ。本当に面白いですね、老け顔のゴクド。魔王様……は、まぁ良いわ」
クオウが生存している事や、元魔王であった事を知っているのはフレナブルとアルフレドのみ。
【癒しの雫】のメンバーでさえ魔族ではあるが元魔王であるとは知らなないので、そこは黙っておくフレナブル。
「フン、怖気づいてももう遅いぞ、フレナブル!」
「え?わかったわ。えっと盛り上がっているところ御免なさいね。今回はラトールがゴクド達の相手をするみたいです。私は見学させて頂きますね」
その言葉と共に、全く意識を向けていなかったフレナブルの腕に抱かれているウサギの魔獣がピョンと地面に降り立つ。
「フレナブル……俺達を愚弄するのか?」
プルプル震えながら目の前の取るに足らないと思っているウサギを見て、真っ赤な顔をしているゴクド達。
「愚弄も何も、あなた方はそんなレベルにないですよ?文句があるのでしたら、ラトールに勝ったら聞いてあげます。まっ、無理ですが」
直後に、四星全員……流石にこれだけ煽られれば、いくら普段温厚で何を考えているかわからないレゼニアも攻撃している。
フレナブルはラトールの邪魔にならないように瞬時に距離をとり静観を決め込んでおり、その瞳には短い尻尾を嬉しそうにお尻と共にフリフリしながら全ての攻撃を難なく避けているラトールの姿が見えている。
「ちょこまかと、ウサギが!」
切れやすい四星第四席のカロラが、その筋肉を異常に膨張させてレベニの攻撃を避けるために空中に飛び上がったラトール目掛けて渾身の一撃を叩き込まんとする。
……パン……
「え?」
誰の声だろうか……非常に大きく乾いた音の直後、その声は距離をとっているフレナブルにも良く聞き取る事が出来た。
渾身の一撃を放ったカロラの右手ははじけ飛んでおり、攻撃に合わせるように短い右手を出した状態のラトールがその姿勢を保持したまま地面に落下しているのが見える。
「ケケケケケ。何を遊んでいる、カロラ!」
右腕を失いながらも何が起きたかわからないまま少々ラトールから距離をとっているカロラを尻目に、レベニが極大魔術をラトールに仕掛ける。
巻き添えにならないようにゴクドやジスドネア、レゼニアも距離を取るほどの威力の魔術が展開されてラトールに向かう。
空中で発生した無数の雷がラトール目掛けて襲い掛かるのだが、ラトールは耳を数回降っただけで魔術は霧散する。
「レベニ、何をしているのですか!しっかりと術を構築したのですか?」
四星筆頭のジスドネアから檄が飛ぶが、レベニとしては何故術がしっかりと起動しなかったのかは理解できない。
「フフフ、全く相手になりませんね。はぁ~、早く躾と言うものを見てみたいのですが、急いでいただけませんか?私、これでも忙しいのですよ?」
すっかり意識の外にいるフレナブルからも煽られるゴクド一行。
「なめるな!」
今まで一度も攻撃に参加していなかったゴクドが、練りに練った魔力を使ってレベニが放った魔術とは比べ物にならない程の魔術を構築するのだが、やはりその術は起動することはなかった。
「どうなっている!」
「まだわからないのですか?あまりにも惨めなので教えてあげますね。全てラトールによって霧散させられているのですよ。その証拠に、ラトール、適当に魔術を使ってあげてください」
直後に、何の前触れもなくレベニが全力で行使した魔術よりも強い雷魔術が五人を襲う。
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