ギルド本部受付の二人(5)
フレナブルを待っている際に絡まれてしまった二人だったが、流石は元ギルド本部の受付。
目の前のチンピラ風冒険者が所持しているギルドカードに描かれている模様を瞬時に確認し、ジャロリア王国所属ギルドの【自由の風】の冒険者であると断定した。
「そうそう。所属国家が緊急事態なのに、いち早く逃げ出す様な腰抜けに守ってもらう程弱くはないわよ」
この【自由の風】は、【癒しの雫】に所属している夫婦の冒険者シルバとカスミが以前所属していたギルドだ。
国王からの資格剥奪宣言直後から【癒しの雫】を見下し、実は受付のこの二人にも横柄な態度をとっていたのだが、魔獣からの攻撃が激化して期待のSランカーであるルーカスが一切対応せずに状況が悪化した直後に、一目散にジャロリア王国から逃げ出していた。
図星を突かれて手を上げそうになるのだが、何故かただの受付だった二人からの圧によって行動に移せない。
「はぁ、何が守る!よ。偉そうに」
「ホント、見かけ通りにだらしがない男達ね。私達、自分の身は自分で守れるほどには強くしてもらっているから。【癒しの雫】のメンバーからね。と言う事で、顔洗って出直してくれるかしら?」
そう言いながら、敢えて自らのギルドカードの紋章を見せつける二人。
「そ、それは【癒しの雫】。お前ら、あの魔族がいる【癒しの雫】に入ったのか!ルーカス様を騙す様な、あの魔族のいる【癒しの雫】だぞ!」
思わず大声を出してしまう冒険者達の声は、周囲の人間に聞かれている。
この周囲にいる者達は、毎日隣国から来てまで自国を守ってくれている【癒しの雫】、【鋭利な盾】の代わりに活躍してくれている【癒しの雫】に多大な恩を感じており、逆に【鋭利な盾】のメンバーの間接的な死因になったとも言えるルーカスを擁しているジャロリア王国、当然【勇者の館】を称賛するような輩にも良い感情を持っていない。
つまり……
「おい、お前らは入国禁止だ。恩人が所属するギルドに対しての暴言、到底許されるものではない。この場で処罰しないだけありがたいと思え!」
門番数人が喚き散らしている【自由の風】所属冒険者である三人のギルドカードを何かの魔道具で読み取り、入国できない様な処置をとったようだ。
「ま、待ってくれ。俺達は何もしていないだろう?」
「そうだ。入国禁止は酷すぎる……祖国は危険で帰れないんだ。何とかしてくれ」
「魔族を受け入れる癖に、善良な俺達を拒否するのか?」
三者三様で勝手な事を言っているのだが、門番達や周囲の人々は意に介していないようだ。
「ハハハハ、お前達は人を笑わせる技術は高そうだ。冒険者としては不要な技術だがな。一人目のお前、我らが恩人に対して暴言を吐く事自体が罪だ。二人目のお前、祖国の為に尽力するのが冒険者ではないのか?三人目のお前、どこに善良な要素がある?いくら喚いても決定は覆らない。更に向こうに行けば、テイグ帝国があるだろう。ラスカ様、ミバスロア様、対処が遅れ、申し訳ありませんでした」
そのまま二人の返事を待つことなく、三人を引き連れて去って行く門番達。
「素晴らしい国ですよね?」
そこに突如として現れるフレナブルだが、早くも慣れている二人は同意しつつ帰路につくのだった。
「お二人共、楽しめましたか?」
【癒しの雫】に戻ると、マスコットのラトールを抱えているクオウが出迎える。
フレナブルはクオウに一礼すると、二人を残してシアの元に向かい本部からの依頼の話をしているようだ。
本来は受付業務に就く自分達も聞くべき案件だが、今日はとことん休んでもらうと宣言されており、あまりの厚遇ぶりに感激している。
その日の夜、相変わらずクオウに対して料理の腕に関して挑み続けているカスミが、今日も負けた!と騒ぎながらも本題を話す。
「そう言えばリビル様の領地が最近の魔獣移動経路に被っているようで、リリアさんから依頼が来たわ」
基本的にジャロリア王国の如何なる依頼も受領せずにアルゾナ王国の依頼を受けている【癒しの雫】であっても、周辺住民の依頼とリビル公爵の依頼だけは別だ。
「それは……わかりました。ではカスミさんが対処して頂けますか?」
「まっかせてよ!マスター!!」
「う~ん、暴走しないか不安だな。俺も付いて行っても良いかな?マスター?」
妻であるカスミの身を案じていると言うよりも、無駄に環境破壊をしないか心配している夫のシルバが同行を名乗り出たので、今把握している依頼全てを瞬時に考えて問題ないと判断する。
「はい。ではお二人で対処をお願いします!」
普通のギルドであれば、現状の魔獣の群れの対処をしに行くのに自ら立候補するような狂人はいないし、指示されれば死地に赴くような気持ちになるはずだが、ここ【癒しの雫】だけは異なっている。
「お!じゃあ俺も行っても良いかな?ちょっと二人の武具の使用時の状態を鑑定しておきたいからね」
更には、冒険者ですらないバーミルも立候補する始末だ。
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