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ギルド本部にて(1)

「ねぇ、ラスカ。貴方、もしかしたらとんでもない宝石を掴んだかもしれないわね。羨ましいわ。クオウさんとの交渉は今までの経験から時折緊張するかもしれないけど、決して威圧的ではないし、良かったわね」

「フフフ、そうですね。【勇者の館】時代のクオウさん、交渉が上手でしたものね。でも、私もあの二日続けての納品には驚かされました。ああいった驚きは続いてもらえると嬉しいですよね」


 ギルド本部で受付をしている仲間と休憩中に話している、【癒しの雫】担当になっているラスカと同僚。

 ギルド本部に務める者であれば、ある程度各ギルドの情報は頭に入っている。


 特に、上位と下位については必ずと言って良い程情報を得ているのだ。


 その結果、クオウと言う事務職が上位の【勇者の館】から追い出され、下位も下位、最早ギルドの体を成していない解体待ったなし、ギルド資格剥奪秒読みの【癒しの雫】に移籍した事も把握していた。

 と同時に、【勇者の館】時代にクオウがギルド本部と素晴らしい交渉をしていたことも広く知れ渡っている。


 ギルド本部の職員達は【癒しの雫】についての事情も知っているので、許される範囲で少々手心を加えてギルド資格剥奪の処理を意図的に遅らせていたりしたのだが、そんなギルドが突如として生まれ変わったのだ。


 本部にクオウ一行が入ってきた時は、以前の【勇者の館】でのコネか何かで仕事を斡旋してもらいに来たのかと考え、目の前に並ばれたラスカとしては、魔道具を操作して斡旋可能な仕事を即座に探し始めていたほどだ。


 同行しているのは、確かに見た事がある【癒しの雫】ギルドマスターとして登録しに本部に来た事があるシアと言う少女と、同性の自分でも見惚れるほどの美女。


 この美女が【癒しの雫】唯一の冒険者であり、Bランクで登録されているフレナブルと言う女性だという事までは理解している受付達。

 既に信頼度が最低のギルドである為に、箔をつけるためにBランクとして登録したのだろうと誰しもが思っていた。


 しかし、受付の誰一人として予想できなかった事を言ってきたのだ。

 そう、Aランクの魔獣の納品……と。


 長くギルド本部にいるラスカ達は、クオウが決して嘘をつくような人物ではないと思っているので、驚きをおくびにも出さずに笑顔で対応した。


 落ち着いて思い出せばクオウは実直であったので、恐らくフレナブルと言う女性がBランク相当である事も事実なのだろうと思い直す。


 そして魔獣が納品されたのだが……その魔獣が有り得ない程素晴らしい状態で、今直ぐに動き出してもおかしくない程だったのだ。


 外観からは何が致命傷になったのかは不明であり、念のため体内に毒物が残っていないかの鑑定もするが、全てシロ。

 もし体内に毒物が残っていれば、使用できない素材がある上に浄化の手間がかかるので、査定で減額する必要があるのだ。


 ここでどのように仕留めたか、入手したのかを聞く事も出来るのだが、冒険者自身の力を暴露する事にも繋がりかねないので、解体場で解体士に対してラスカが言っていたように冒険者側の秘匿事項となっている。

 恐らくクオウは、この魔獣を仕留めたフレナブルの実力は秘匿するだろうと思っているラスカは、あえてその内容を聞く事はしなかった。

 

 この日の夜には、誰しもが気になっていた【癒しの雫】が少しは延命できただろうと、受付の全員が喜んでいた。


 今回の有り得ない程の極上の魔獣納品で、少なくとも一年程度は査察を延期する事が出来ると考えたのだ。


 しかし受付達の思惑は、良い方で裏切られた。


 翌日の昼頃にひょっこりと一人だけで顔を出したクオウ。

 今度こそ、昨日の実績を基に何か難易度の高い依頼を特別に貰えるように交渉しに来たのかと思ったのだ。


 ここでも受付達は大きく予想を外す。


「ラスカさん、昨日と同じ魔獣を同じ状態で納品させて頂きたいのですが、宜しいですか?」


 と、日頃の挨拶をするかのようにこう言ってきたのだ。


 その声が聞こえた他の業務を担当している受付は、思わずクオウを二度見してしまったほどだ。

 流石のラスカも少々動揺しつつも、直ぐに取り繕って裏手に回っていた。


 その結果は御承知の通り。


 こうなってくると、ギルド資格剥奪の査察よりもギルドランク上昇の審査を行うべきだと言う話が湧いて出て来る。


 担当受付としては、担当ギルドがランクアップすれば報奨金が出るし、そのギルドが納品した素材・魔獣の状態によって個別に手当てが出るのだ。


 既に二度、有り得ない魔獣納品に対する手当てが出ているラスカは、その手当を原資に同僚の受付達にご馳走する事を公言している。


 こうすれば更に仲良くなれるし、ラスカ達受付は業務終了後に時折集まって食事をするのが楽しみの一つになっていたのだ。


「フフフ、もう少しで今日も終わりですね。楽しみです、ラスカさん」


 既に日は落ち、遅番以外の受付業務は終了の時間が近づいている。

 ラスカ全額負担の食事会が実施されるので、同僚も待ちきれないといった態度になっている。


 流石はギルド本部の受付であるので、ラスカのような気遣いをしなくとも、お得意様とも言える優良冒険者ギルドの担当に成れた事に対して、嫉妬による悪意ある行動を取るような小さな人間はいない。


 逆に、ラスカのようにある意味同僚にも還元すると言う人物達の集まりなのだ。


「そう言って貰えると嬉しいですね。今日はたくさん食べて、飲んで、皆で楽しみましょう!」


 高額の手当を手にしているラスカは、今日の支払い程度では大したダメージはなく、むしろこの程度の出費で良いのかと思う程なのだが、同僚との話は楽しいので、自分自身も楽しみにしていた。


「おい、納品だ!今日は、解体はしていない」


 そこに、明らかに機嫌の悪い【勇者の館】ギルドマスターであるルーカスが横柄な態度でやってきた。


「承知しました」


 たった今ラスカと話していた女性ミバスロアが【勇者の館】の担当になっているので、すかさず対応する。


 既にルーカスは何も言わずに裏手に回り、ミバスロアも離席した。


 ルーカスのギルドはSランクギルドで、個人としてもSランクを持っている程の存在である為、高額で中々手に入らない収納の魔道具を手にしている。


 その結果、一度の依頼で相当数の魔獣の素材を入手してくるのだ。


 以前のクオウが交渉した結果、通常は【勇者の館】にギルド本部から担当が向かうのだが、何故か今日はギルドマスター本人が本部に直接納品に来ている。


 巨大ギルドである為、もちろん優秀な解体士も抱えている【勇者の館】だが、今日はギルドに戻ったルーカスに対して、【癒しの雫】が再びあの魔獣を納品したとの報告があったため、すぐさま情報を得るために魔獣を討伐したまま持ち込む形でギルド本部に急いできたのだ。

 

「では、こちらでお願い致します」


 何故突然ルーカスが納品に来たのかを理解できないまま、ミバスロアは丁寧に対応する。


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