ギルド本部受付の二人(2)
ギルドの同僚に対して話している途中で感極まったのか、思わず声を詰まらせてしまうミバスロア。
朝も早くからツイマが二人に何かしら指摘をするために受付に来ていたので、これ幸いと全員の前で辞表を叩き付けたのだ。
当然一部の冒険者もその話を聞いているので、噂を信じておらずに【勇者の館】の蛮行を覚えている者は悲しそうな顔をしており、そうでない者達はバカにするような笑みを浮かべていた。
その中には、【癒しの雫】に対して妬みを持つ冒険者も含まれており、関係者であるラスカにもその矛先を向けているだけの小さい存在だ。
「おいギルマス、希望通りにそいつらを辞めさせろ!そうすれば、ルーカス様が動いてくれるだろう?」
「そうだ。こいつらがいても何も俺達に得はねーからな」
実はツイマ、ルーカスがSランカーに戻ってもなんだかんだと言い訳をして一向に出撃しない理由を知っている。
魔族に弄ばれて敗北した際に、魔獣や魔族に対しての戦闘に恐怖心が芽生えていたのだ。
【勇者の館】所属冒険者で再びAランカーに返り咲いているドリアスとハンナも同様で、正直ギルドとして戦闘できるのは、Bランカーだけになっている。
あの時に他のAランカーは根こそぎ魔族である四星の一人レベニに始末されてしまったのだから……
互いに再度地位を手に入れた際、腹を割って話して得た情報である為に間違いない事であり、ルーカスは敢えてツイマに事実を話す事で、【勇者の館】に余計な依頼を持ってこないように協力を要請したのだ。
ツイマには益が無いような交渉に見えるが、人族との戦闘は全く問題ないルーカスには逆らえなかった。
ここで【勇者の館】担当の二人に逃げられては、次の受付は誰も引き受けてくれない事を知っているツイマ。
この二人でさえ散々渋ったのだが、国家として資格を剥奪したギルドの担当だった事、そのサポートを積極的に行っていた事を盾に無理やり押し付けたのだ。
あまりにも一気に鬱憤を晴らし過ぎたと反省し、猫なで声で翻意を促す。
「二人共、確か身よりは無かったはずだな?この本部よりも割の良い仕事はそうそうないだろう。どうだ?もう少しだけここで頑張らないか?場合によっては、昇給も考えようじゃないか」
考えるだけだが……とは口に出さずに、ここまで言えば何とかなると思っていたのだが、頑として首を縦に振らない二人。
ツイマやルーカスの事情を知らない冒険者は、二人を継続して雇おうと交渉するツイマにも厳しい視線を向け始める。
その視線に押される様に、ついにツイマは切れ散らかしてしまう。
「ここまで温情をかけてやってもその態度か!良いだろう。お前らは今この場を持って首だ。直ぐに出ていけ!もうこのジャロリア王国で職はないと思え!精々あらぬ希望を抱いて野垂れ死ね!」
「「「お~~~~」」」
一部の冒険者達の歓声と共に、二人は同僚の受付だけに頭を下げて颯爽とギルド本部を後にする。
向かった先はもちろん【癒しの雫】。
「お待ちしておりました。【癒しの雫】にようこそ。これから宜しくお願い致します」
ギルドの中で優雅に立っていたのは、アルゾナ王国所属Sランカーのフレナブルであり、既に魔族と認識されているので、その力を秘匿する事はしていない。
そのおかげかは不明だが、このジャロリア王国の王都の壁に近い位置に存在している【癒しの雫】がある近辺では、一切魔獣の姿を見る事が出来なくなっている程安全になっている。
「お、来たか。知っての通り、武具全般、魔道具全般を受け持っている俺ミハイル、ロレアル、バーミルだ。宜しく頼むぜ、お二人さん」
既に顔は知っているのだが、ぞろぞろとメンバーが出てきて自己紹介が始まり、初めて【癒しの雫】のギルドの中をじっくりと見る事が出来たラスカとミバスロア。
「ちょ、ちょっと!!クオウさん!マスター!!」
「ラスカ、何をそんなに……えぇ~~~~~!!」
当初は依頼がなく、仕事が無いのではないかと不安になっていた二人だが、アルゾナ王国のギルド本部からの依頼が張り出されているボードを見て安堵しているラスカは突然騒ぎ出し、その声を聞いて駆け寄ってきたミバスロアもラスカの視線の先に気が付くと、同じように騒ぎ出した。
本来馬車で5日は必要になる隣国アルゾナ王国での依頼を、毎日日帰りで処理しているようなのだから、そこに驚いているのかと思いながらもクオウとシアが二人に近づく。
「どうしましたか?」
「どうしたって……クオウさん、マスター、これはどうしたのですか?」
震えながら二人が指さしているのは、余りセンスがあるとは言えないクオウとフレナブルが適当に飾っている、好きなだけ奇麗な水を生み出せる壺。
二人にとってはその程度の認識だが、実はこの壺、非常に有名で、疲労や少々の怪我を癒す水を生み出せる優れものだ。
元ギルド本部の二人は鑑定が出来るので本物と気が付いて驚いているが、結構レプリカは出回っているので、以前このギルドを訪れた者達は本物とは思っておらずに、誰一人として騒ぐ事はなかった。