アルゾナ王国の防衛(6)
この会議の中で、アルゾナ国王は魔族の置き土産が二体城門の前で陣取っている事も伝え、最低でも二体の排除位は責任を持って対処するようにジャロリア国王に告げていた。
当然この依頼は、ジャロリア国王最強のギルドである【癒しの雫】に流れる事になる。
既にジャロリア国王は、少し前の大量の魔獣襲来をたった二人で退けた事実を冒険者や騎士達から聞き及んでおり、【癒しの雫】がジャロリア王国にある限り安泰だと安心しきっている。
その心の余裕が有ったおかげか、【勇者の館】の大失態に対しても多少怒りはしつつも、対応可能であると判断できたのだ。
再びギルド本部に依頼が出され、ラスカが【癒しの雫】に訪れる。
ギルド本部からの指名依頼に関しては、ギルドが穴埋め形式の書面を準備して受け取ったギルドが完成させて最終報告の上で報酬が支払われるのだが、ここ【癒しの雫】に至っては、クオウの今までの実績から依頼と同時に報酬が支払われている。
必ず達成できると言う信頼と、報告も間違いがないと言う二つを成し得ないとできない対応だ。
「シアさん、大変申し訳ありませんが【勇者の館】の尻拭いです。アルゾナ王国に向かったあの一行が失敗した事は既に聞き及んでいると思いますが、そこにSランクの魔獣二体が居座っているようなのです。排除して頂けませんでしょうか?」
「えっと……はい。わかりました。それだけですか?」
Sランク魔獣の討伐だけと聞いてしまうシアも、既に一般の感覚が大きく麻痺しているのだが、もうラスカは慣れたものだ。
「はい。その二体を排除して周辺に危険な魔獣がいなければ終了になります。隠れている魔獣がいれば、それも始末してください。一応討伐証明部位を頂ければ、後程報酬に加算させて頂きます」
こうして受諾した依頼。
ジャロリア王国側は、即座にアルゾナ王国に対処する【癒しの雫】が向かう事を告げる。
「ギルドの報告によれば、数時間後にそちらに到着するそうだ」
「そうですか」
籠城してしばらく経ったおかげか、一応落ち着いて元の態度に戻っているアルゾナ国王。
ジャロリア国王の発言を鵜呑みにすると、有りえない速度で【癒しの雫】が到着すると言われたのだが、最早そこを突っ込む気力は無かった。
その後アルゾナ国王は、ジャロリア国王から数時間後に【癒しの雫】がSランク魔獣を始末しに来ると騎士達に告げ、自らも城壁の上に移動して結末を見届けることにした。
ここで失敗すれば、どの道アルゾナ王国に未来はないのだから。
その後ろ向きな姿勢は、宣言通りに数時間後に現れた二人の冒険者によって一変する。
この場に来たのは前回同様フレナブルとカスミ。
カスミの手には誰が見ても神々しいと言える武具を携えていたのだが、その攻撃は何故か物理攻撃であり、どこをどう見ても魔術を行使するための杖で容赦なくSランクの特殊個体を撲殺したのだ。
あの武具の神々しさは何の意味があるのか!と言いたくなるような惨劇を目の当たりにしたアルゾナ国王は絶句する。
そもそも華奢なカスミが自国の騎士が束になっても全滅させられる事は間違いない魔獣に対し、撲殺!
不思議な気持ちで心が揺れているところに、残りの一体の処理は別の女性、フレナブルが対処するように見えたので、気持ちを切り替えて凝視するアルゾナ国王。
フレナブルの手には、黒ながらも引き込まれるような漆黒の中に一際目立つ黄金の竜が見える、こちらもカスミが持っていた武具に負けずとも劣らない程の神々しさを感じさせる武具。
「まさか、あの神々しい武具も撲殺用ではないですよね?」
数秒前の惨劇を思い出して、思わず口に出してしまうアルゾナ国王。
その期待?に応えるように、フレナブルもカスミと同じく漆黒の棒を伸ばしたかと思うと、容赦なくSランクの魔獣にたたきつけ、強引に二分割にして見せた。
魔獣にとっては大惨事とも言える一方的な惨殺を見て、唖然とするアルゾナ王国の面々と、ルーカス達が暫くその場から動けないのを放置して、さっさと二人は消えてしまった。
ここまで力の差ができてしまうと、今までさんざん煮え湯を飲まされてきた【勇者の館】だろうが、Sランカーと言われているルーカスだろうが、興味がなくなってしまったのだ。
アルゾナ王国の国王にはひと声かけても良いかと思ったのだが、ポカンとしている表情であったので、根掘り葉掘り聞かれて時間を取られるのを嫌った二人は、即座に帰還することにしたのだ。
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