アルゾナ王国の防衛(2)
カロラの言う通り、高ランクの魔獣は例え巨大で遅いと言われている魔獣でさえ、普通の人族の全力を遥かに凌駕する。
今回引き連れて来た魔獣の中には人型の魔獣もいる為、あっという間に門に向かって走っている人々に追い着き、大暴れしている。
門番は悔しそうにしながらも、人が一人通れるかどうかの位置まで門を閉じて成り行きを見守っている。
その城門の中から、ゆったりとルーカスを始めとした【勇者の館】一行が出て来た。
「おい、もう門は解放して問題ないぞ。むしろ、これから逃げて来る人を一気に迎え入れる必要があるからな。開いていないと困る」
魔獣達はルーカスを優先的に始末するように指示されているので、その姿を確認した瞬間に一気に襲い掛かる。
「はっ、雑魚共が!」
既に無駄に装備を整えている上、城下町の武具を半ば強制的に奪い取って収納袋にしまっているルーカス一行には相当な余裕がある。
Bランクに降格しているドリアスやハンナ、そしてジャロリア王国での魔獣対応を受ける必要が無くなったため、相当な数のAランカーがこの場には揃っており、全員が十分以上の装備を有している。
迫りくる魔獣に対して、ルーカスは豪華絢爛な短剣を投げつける。
投げてしまう以上は余程の事が無い限り自分の元に戻ってこないのだが、アルゾナ王国で強制的に手に入れた物なので痛くも痒くもない。
その短剣は強化魔術が組み込まれていたようで、複数の魔獣を貫いた後に、威力が無くなって最後の魔獣に突き刺さると爆発する。
「おぉ~、ここでも中々良い武具が売っているな!」
余裕で魔獣を始末するルーカス達を見て、門番は指示通りに門を少し開けた状態で保持する事にした。
そのルーカスの戦を観察しているのは、町人だけではなく、魔族の二人も同じだ。
だが、ルーカスを始めとした【勇者の館】を見る目はそれぞれの立場で当然異なる。
訪問直後は大人しかったが、僅か数日でアルゾナ王国の城下町でやりたい放題だった【勇者の館】。
当初、かなり賞賛されて気分が良くなってしまい、この短い間に自分達が絶対の強者であり、その力に縋って来る民達と言う意識になっていた。
時折【鋭利な盾】を大声でバカにするような事も言っていたので、今迄必死でアルゾナ王国を守ってくれていたSランクギルド、そして命を捨ててまで任務を遂行したSランカーのホスフォを馬鹿にされたのでは、民達から【勇者の館】に対する尊敬の念があっさりと抜け落ちるのは当然だ。
その状況でついに来た魔獣の襲来。
明らかに今迄来ていた魔獣とは一線を画す魔獣の群れであり、統一性もない高ランクの魔獣ばかり。
城門に近い場所であるにもかかわらず人族の被害も出ており、いよいよ大口を叩き続けている【勇者の館】の出番となる。
既に犠牲が出始めている中で悠々としたその態度にもイライラしつつ、戦況を僅かながらに空いている門の隙間から伺う民、そして城門の上から状況を確認する騎士の一部。
魔獣との最初の戦闘は、大口をたたく【勇者の館】の一方的な蹂躙と言う結果になった。
ここまでの実力を示されては、【鋭利な盾】に対する暴言は許される事ではないが、確かに尊大な態度になってしまうのも仕方がない部分もある……と矛を収め始めていた。
そこに出てきたのは同じように森の中から【勇者の館】、特にルーカスを観察していた魔族の二人、レベニとカロラだ。
二人は初撃から暫くルーカスを観察していたのだが、どう見ても既に始末しているSランカーのホスフォよりも強いとは思えなかった。
絶対に油断してはいけない任務であり、敗北など以ての外である為、慎重に何度も確認するが、どう見てもこの事実を覆す様な所を見つける事が出来なかった。
既に魔獣は数体しか残っておらず、近くにいた人族は既に城門の中に逃げ込んでいる状況であり、これ以上観察する事はないと判断する。
ルーカス達が出てきた時と同じ様に、余裕を見せつつゆったりと森の中から姿を現す二人の魔族。
その姿を見たルーカスは、目の前に出てきた二人がSランカーであるホスフォを仕留めた二人だと即座に理解する。
当然だ。
容姿を事細かく当事者の【鋭利な盾】所属Aランカーであるフィライトから聞いており、完全に一致しているからだ。
「お前らが【鋭利な盾】のギルドマスターを始末した魔族共だな?」
既に魔獣は全て片付けており、血糊で切れ味が悪くなっている剣を投げ捨て、新しい豪華絢爛な剣を出しながら問いかけるルーカス。
投げ捨てた剣もアルゾナ王国で強引に入手した剣であり、虹金貨数十枚の価値がある剣であったりするのだが、ある程度の技量、魔力を必要とするのも事実であり、ルーカスレベルが使用しなければその性能は発揮できない。
再び同じような剣を出して軽く構えつつ、魔族二人の反応を伺う【勇者の館】のルーカスやAランカー、そしてドリアスとハンナ。
「ケケケケケケ、人族風情が何か言っているようだ」